第409話 秘する血に絡む覚悟を決めました



 ハーレムのお嫁さん達を相手にしてきた僕だ。

 朝の着替えのわずかな時間でも十分。メイドさんの1人をドロドロにとろけさせるくらい余裕だ。


「はー、はー……はー、……ぅ、……で、殿……下?」

 クーフォリアさんは顔だけじゃなく、肌の表という表の見えている部分すべてを赤らめてた。うっすらと汗まで滲んでるし、身体はすっかり男女の行為に向けて準備ができあがってる。


 もうあとは合体するだけ―――だけどそこで僕は、サッと身を引いて着付けの続きを自分で行い始めた。




「物欲しそうですね、クーフォリアさん―――いえ、クーフォリア? ですがこれ以上はお預けです。貴女がいい子・・・にしていたなら後日、 “ ご褒美 ” をあげる事も考えておきますよ」

「! ……そ、そんな、殿下……ご無体むたいな……」

 ここまでしておいてオアズケだなんて。そう言いたげなうるんだ表情と視線を向けてくるけど、僕は構わず着付け終える。


 今日1日、女としてたかぶらされたモノを発散もせず、メイドとして普段通りに勤め上げなければならない。かなりの意地悪だと自分でも思うけど、それぐらいはしなくちゃいけない。



 何せ彼女は、エルネールさんが僕の子種で・・・・・コロック氏の子供を・・・・・・・・・身籠ろうとしている、その秘密を共有している人間だ。エルネールさんがどれだけ信頼していても、僕は彼女を良く知らない。


「(しかもこちとら王弟っていう身分だからね……この秘密は絶対に漏らされるような事があっちゃいけない事だ)」

 昨晩は、重病者であるコロック氏がいるので、僕達は1人1部屋、休息を前提とした部屋割りを当てられた。


 各々がたが良くお休みになられるように、という配慮が表向きの名目。だけど本当は、僕を寝室で1人床につかせるのが本当の目的だ。……エルネールさんが僕を夜這いできるように。




―――用意された朝食の席。


「昨日はよく眠れましたか、エイミー、クララ?」

 セレナはさすがというか、長らく軍人だった事もあって、環境の変化には強いらしく、睡眠不足や旅の疲れは見えない。

 ヘカチェリーナも、勝手知ったる我が家かな。昨日はめっちゃ爆睡したと元気いっぱいにおしゃべりしてる。


 だけどエイミーとクララは、寝付きは悪かったようで少し疲れたような笑みを浮かべていた。


「大丈夫なのです、殿下。お気遣い感謝なのですよ」

 エイミーは、コロック氏の病状から、気持ちが少し暗く沈んでよく寝れなかったって感じだ。

 気にするなとは言えない―――それだけコロック氏の容態は厳しいのも事実だし。


「枕が変わりますと寝むれなくなる方がいらっしゃるとは聞いておりましたが、まさか自分がそうだとは思いませんでしたわ……」

 その隣で、完全に寝不足な様子のクララ。これまでは移動先に自分の枕も持って行ったり、それが出来ない時は大変な状況下だったりで心身の疲労から眠りに落ちる事ができたりと、問題はなかった。


 だけど今回クララは枕を持ってこなかった上に、比較的安穏とした状況下だ。睡眠に自然と落ちるほどの疲労もない。




「寝不足のところ申し訳ありませんが、クララには今日、頑張ってもらいたいのです。……特に、ルクートヴァーリング地方の貴族の繋がりをヘカチェリーナに協力してもらい、洗っていただけませんか。その代わり、明日は丸1日休息の予定と致しますので」

 疲労がないなら疲労する理由を作ればいい。それに寝不足だから二人は休んでていいよ、と言うのは優しいように見えて実は違う。


 エイミーはともかく、クララは名家の御令嬢として僕に嫁ぐまで厳しいお嬢様教育を受けた身だ。

 彼女自身の性格もあって、他の同立場の人間が動いてるときに自分は休む、なんて事を良しとしない。


 なので、ここは “ 今日は頑張って。明日は全員一息つく日にしよう ” とするのが正解なんだ。


 何より実際、エルドリウス一派のエルフがこの地に、陰で何かしらのアプローチをし続けているとしたら、貴族に協力者を確保すべく、接触している可能性が高いので、ルクートヴァーリング地方にいる全貴族を調べなくちゃいけなかったし。


「お任せくださいまし、殿下。この地の貴族を全員、“ 丸裸 ” にして見せますわ」

 クララの言った “ 丸裸 ” というワードにほんのちょこっとだけ内心で動揺しかけた。

 昨晩のエルネールさんを思い出してしまいそうになる。


 軽く視界に入れるようにエルネールさんを見ると、セレナと談笑しながら朝食をとっている。様子にも態度にもこれといった変化はなく、いつも通りって感じだ。


 だけどそのお腹の中には、僕の子種をこれでもかと蓄えた。きっと今夜もやってくるだろう。



「(種無しと思われてた夫の、死の間際の奇跡―――って感じになるんだろうか、表向きは……)」

 そうなったら、いかに厚顔無恥な貴族達でも、未亡人になったとてエルネールさんにアプローチはし辛くなるだろう。

 無き夫の残した子を立派に育てるっていう美談を掲げれば、異性からの縁談の申し込みを払い除ける武器になる。


 さらには、あくまでコロック氏との間の子、という事であれば、ウァイラン家も問題なく続くことになる。

 ただこちらに関しては既にヘカチェリーナがいるから、既に解決済みと言えるだろう。唯一懸念する所としてヘカチェリーナの肌の色という問題を、同じ白肌の僕との子なら解決できるから、より誤魔化すのが楽になるという追加メリットはある。



「(もっとも子供がデキる、っていう前提条件をクリアしなくちゃいけないし、デキたってもし女の子だったら、他貴族がその子の婚約者にーってアプローチする隙になるから、ウァイラン家の存亡にまた関わっちゃうわけだけども……)」

 正直、賭けになる点も多い。


 それでもエルネールさんは、僕の子種で孕む覚悟をもう決めてる。不義理と分かっていても、王弟である僕を巻き込んで大罪となる可能性もすべて飲み込んだ上で。



 そして、そんなエルネ―ルさんの覚悟に、僕は応じることにした。だからこそ唯一のワケ知りのメイド、クーフォリアさんにも手出しした。

 彼女の信頼性を試し、僕らを決して裏切らないようにするため……ってだけじゃなく、先々のための布石としての意味も込めて。



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