第五章:思惑は裏で巡るが定石
第391話 眠ったままの裏方は頼もしい限りです
アイリーンがクルシューマ伯爵を連れたヘモンド男爵を追いかけて半日後。
カッポカッポカッポ……
「! どうやら、上手くいったみたいですね」
王都外壁の麓で待っていた僕達のところに、ヘモンド男爵が乗って行った馬車が帰ってくる。
御者台には覆面をした、僕には見覚えのある男が―――けど、セレナは彼らの事を知らないから、咄嗟に僕の前に出て鞘から剣を引き抜いた。
それに呼応するように、周りにいた護衛の兵士さん達も一斉に僕の周囲を固めるように動く。
「セレナ、心配はいりません。彼はこちらの手の者です。残念ながら
「! はい、かしこまりました、殿下」
さすがはセレナ、一瞬で察してくれた。
王家直轄で動く秘密の特殊部隊的なウワサは、昔から特に軍部の間ではまことしやかにささやかれている。
セレナも軍人畑だけによく耳にしたことだろう。周囲の兵士さん達も、僕の言い回しやセレナの様子から、どうやら向かってくる馬車の御者台にいる男は、そのウワサに該当する者だと思ってくれたようで、抜きかけた剣を鞘に戻してくれた。
「(まぁ、実際は先行してたウワサを元に、実際にそういう組織を作っちゃったから、時系列は前後してるけどね)」
シャーロットを長とした "
構成員は最低100人はいる。けど、それ以上は僕も把握してない。だけど御者台の彼は何度か見た顔だ。
たぶん今回は任務の内容上、僕だけでなく他の兵士さんやアイリーン、そしてセレナ達とも顔を合わせることは避けられないので、スムーズに事を運べるよう、僕との接触回数の多い者をチョイスしてくれたんだろう。
「(シャーロットの判断力は、どんどん磨きがかかってるなぁ……。さて、それはともかくとして―――)―――ご苦労さまです。アイリーンの方はどうでしたか?」
僕達の眼前まで来て馬車を止めた彼は、軽々とした身のこなしで御者台より飛び降り、完全にとはいかないものの着地音を極めて小さく抑えながら、そのまま片膝をついて頭を下げた。
その流れるような動きだけで、かなりできると思ったのか、セレナが軽く両目を細め、感心すると同時に軽く警戒を強めるような表情になった。
実際、そういう者を装って入り込んだ刺客というセンは捨てちゃいけないから、セレナの警戒心は正しくも頼もしい。
「アイリーン様はまず、敵の中継拠点にて魔物どもの話を密かに聞き耳を立て、情報収集をなされていらっしゃる模様です」
言い方からして、 "
彼自身はその中継拠点から離れたこの馬車を確保するために動いていたはずだから、中継拠点に到着した後のアイリーンの動向は知らないはずだし。
「拠点に詰めておりました魔物は、ユルゴントと呼ばれておりました地竜系の亜人らしき魔物が場のリーダー格と思われ、他に主だった魔物としましてヘクセンハーモス、
そこで彼の口が少しよどむ。何か厄介な魔物がいたのかと僕は彼の言葉の先をうながすように小さくアゴを下から上へと振った。
「半狼半馬……とでも形容すればよいのか、ケンタウロスの上半身部分がウェアウルフのような魔物がいた、とのことです。アイリーン様も知らないご様子で、故に慎重になられているようです。それ以外は知能の低そうな並みのゴブリンが数体いただけ、とのこと」
それを聞いて、セレナがまず眉をひそめた。
「半狼半馬の魔物、とは……また珍妙な敵がいたものですね」
「ですね。しかし、いつかの ″ ケルウェージ ” のような裏社会の非道な組織が世の中には存在しているわけですし、あるいは―――いえ、この話はまた後にしましょう。それで、ヘモンド男爵の身柄の方は?」
僕がセレナや護衛兵を伴って彼を出迎えたのは、そっちが本命だ。
ヘモンド男爵が乗って行った馬車を、彼が操って戻って来た事で、首尾は成功しているはずだけど、その後が僕達の仕事になる。
「はっ、馬車の中に縛りあげております。またこの馬車を動かしておりました御者の魔物も仕留め、同じく中に」
それを聞いた僕は、セレナを見て無言で
兵士さん達8人ほどが一斉に動き出し、馬車に向かって駆けていくのを見ながら、僕は彼に歩み寄った。
「このたびの働き、急な要請であったにも関わらず見事こなしていただき、ありがとうございます。……
「! ハッ、では私めはこれにて失礼致します。道中にて活動しております他の仲間も、セレナーク様の手配された兵が追いつき次第、撤収する手はずとなっておりますれば、アイリーン様の倒された魔物の死骸の処理の続きが残っている所もあるかと思います故、引継ぎのほど、よろしくお願いできればと思います―――」
そこまで言って、彼はスゥーと片膝をついた態勢のまま、まるで
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