第392話 時代劇の断罪シーンを思い出しました
「私をこのような目にあわせて、ただで済むと思っているのか!」
目を覚ましたヘモンド男爵が見張りの兵士さん相手に喚き散らしている。
馬車の中で縛られ、完全に身動きを封じられているので、悪態つくくらいの事しか出来ないんだろうけども……
「(にしても、分かりやすいくらいにお決まりの文句だなぁ)」
ヘモンド男爵が目を覚ましたという連絡を受けて馬車に駆け寄りながら、つい苦笑してしまう。
とりあえずまず、セレナが兵士さん達を伴って馬車の扉を開いた。
「醜態をさらしていらっしゃいますね、ヘモンド卿」
「! 貴様は……セレナーク妃将! そうかこの兵どもは貴様の手の者かっ、これは一体どういう事か!? 無礼にもほどがあろう!!」
セレナを確認した瞬間に、やたらと上から目線な態度を取り始めるヘモンド男爵―――そういえばこの男爵も、いわゆる “ 女が将官なんてー ” っていう連中の一人だったっけか。
「
「ハッ!
正直ドン引きだ。この状況下でよくもまぁあんな堂々と相手を恫喝できるとか、しかも口汚く相手をののしり言葉までふくめて……すごい神経してる。
「(自分と魔物との繋がりは絶対に気付かれない、って自信でもあるのか、それとも単にああいう気質なのかな)」
ともあれ、ギャーギャーと醜くもやかましい事この上ないので、僕が出ることにする。
セレナだけで事が済んだらそれが一番楽だったけど、やっぱり王族の権威が必要そうだ。
「騒々しいですね、何事ですか」
「ハッ、でん―――」
「おお! これはこれは殿下! お聞きください、この
セレナの言葉を遮り、イモムシみたいに身体を動かして馬車から上半身を乗り出す男爵。
なんでそんな自信満々に身の潔白を主張できるんだか。
「それはそれは……男爵は、捕縛されるようないわれはない、ということですね?」
「
僕は、心底ウンザリした。
ここまで……ここまでくだらない男が、男爵位を持つ貴族であるという現実。呆れかえるどころか、殺意すらわいてくる。
「(前世でも生まれがいいってだけの酷い人間なんて、古今東西にあって山ほどいたもんだけども、こうして直にそういう人間と話をすると、ホント何なんだコイツらって感じだよ……)」
英雄の血は英雄を生まない。華麗なる一族にも愚か者は生まれる。
人の見るべき所はその者の “ 個 ” であって、
ある意味、まったくもってしていい反面教師だ。
「ヘモンド男爵……貴方を捕縛させたのはこの僕です。魔物との取引き、および僕の妃への侮辱の数々に加え、王族たる僕への不敬と捉えられる発言……その罪、許し難し!」
シャキンッ……ピタ
ショタっこな態度は少し潜め、強い言葉と覇気を放ちながら、王族のみが
「ひ、ひぃいっ!? で、でんくぁっ!???」
僕の意外な覇気に驚いて、ビビッてヘンな声を出す男爵だけど、残念ながらこの場はちょっとした見せ場だ。存分に怯えてもらう。
「僕が何も知らない王子だと侮っていたのかもしれませんが、既に、貴方の悪事のほどは全てっ、僕の耳に届いています。重ね重ねの無礼は貴方の方です、ヘモンド!!」
ハッキリとした怒気を露わにする。
だけど顔を歪ませるような感情的なものじゃない。キリッと見据え、殺意と断罪の意を強く込めた視線で男爵の精神を刺す。
絶対的な王の一族、その威信を損なわない断罪の申し渡しは、周囲の兵士達へのアピールでもある。
彼らは後日、この一連のシーンを他の同僚にも伝えるだろう。
「(僕の評判は上がるだろうけど、無能無力な弟王子様の印象は薄れちゃうかな……)」
それで貴族諸侯には油断させてきた部分もあるけど、仕方ないか。
「……殿下、……なんて……素敵な……」
あれ、なんかセレナの顔がドロドロに溶けそうになってる、ヤバイ。そろそろ場を
「ヘモンド男爵。己が欲のため、王国の……いえ、全人類を裏切る行為の数々、断じて許されません。潔くその罪、裁かれよ……連れていけ!」
「「ハ、ハハァッ!!」」
・
・
・
兵士さん達もビックリしてたけど、少しは男らしく王族っぽい振舞いが出来たかな?
と、連行されていくヘモンド男爵を見送りながら、僕がそんな事を考えていると……
ズボニュンッ
「ぐぼうふっ!?」
一瞬で頭が、セレナのバストの中に埋もれた。
「あぁ~、とっても素敵でした殿下ぁ~……ハァハァ……あんまりにも素敵なものでしたから思わず―――……ハッ!? 殿下? 殿下ー!?」
思いっきり抱き着いてくるのはいいんですけどね、セレナさんや? とりあえず僕との体格差と、ご自身の立派な御胸を考えて頂きたいんです、ハイ。
窒息一歩前で意識が遠のく。
とりあえず、ヘモンド男爵をしょっ引く事に成功して一安心だ。アイリーンの帰りを待ちたいけど、その前に僕は、強制的にひと眠りする事になりそうだった。
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