第382話 知能ある魔物の懐柔は単純です
「(潜入潜伏任務だし、管理関係で名前を与えたのかな?)」
ゴブリンのコイザン曰く、基本は王都内で情報を獲得し、それを上司に送るのが主任務だったらしい。
時々、王都の流通物を入手してはそれも送っていたそうだけど、どちらかといえば上司の覚えを良くする点数稼ぎの意味合いが強かったみたいだ。
「それで、伝達手段は途中に仲間を経由させて、ですか」
『アァ、ソうダ。外壁に抜け穴がアッテ、定期的にソの外側に仲間が来ル。ソイツに預けルだけダ、その先はドウやっテ “ あの方 ” まデ届クのカは知らネェ』
ちなみに “ あの方 ” というのが彼らの
今の王都への潜入および潜伏任務をうける際に、初めて直接会ったそうだけど、その時も全身はマントで隠れていて見えず、しかも背を向けていたので見た目は不明。さらに名前も分からないそうで、 “ あの方 ” という呼び方も、上の方の魔物がそう呼んでいたところかららしい。
「(たぶん言葉に嘘はない。彼らは下っ端で王都に潜伏させる任務に用いた魔物だ。万が一、王国側に捕まる事も当然考えて、あまり情報を持たない魔物を選んでいるはずだし)」
だけど、魔物達を率いている “ あの方 ” の存在がこれで明白になった。敵の親玉が存在しているのか否か、おぼろげだっただけに、それだけでも情報としては大きい。
『外壁外に情報をもらイに来ル奴は、魔物の時もアれば人間の時もアる……人間の中にモ、こちラ側に味方シてイル奴はイる……脅されテか、進んデかは知らンけドナ』
ヴェオスのように魔物に魂を売った者さえいるんだ、人間の中に魔物側と通じてる輩がいるのは分かっていた事だし、実際に取引きをしていた商人も抑えてる。
「次に外との接触があるのはいつですか?」
ならば実際に、その人間をおさえるチャンスでもある。そう思って問いかけると、ゴブリンのコイザンが少し困ったような表情を浮かべた。
『あー、それナんだがヨ……分からネェんダ、オレもソイツもヨ』
『屋敷の中にイタ、他の魔物は殺しテしまっタんダロウ? その中にイタんダ、連絡専門で担当シてタ奴ガ……』
なるほど、徹底した役割分担か。少数の集団を組んでの任務でも、仲間内ですら役割はキッチリ決まっていて、互いの仕事には干渉も情報をもらすこともしない。
そうすればこういう時に、やはり敵に漏れる情報は少なくなるし、何より潜入中の仲間に異変があった事を、敵側が掴みやすくなる。
王都内の潜入者達は一網打尽に出来て一安心、だけどこっちはそれ以上の成果を得るのが難しい、というわけだ。
「……アイリーン。セレナとの合流前に、その連絡専門の魔物について調べておきましょう。―――魔物の死体はまだ処分せずに残っていますね?」
僕が問いかけると、突入して他の魔物達の討伐に向かった兵士さんの一人が、代表して答えた。
「ハッ! 問題なく! 最小限で仕留めましたし、異なる魔物で形成されておりましたので、見分けはつくかと思われます!」
「ではコイザンに、どれがその連絡役かを教えていただきましょうか」
・
・
・
その部屋の壁も床も天井も、飛び散った魔物の血だらけだ。だけど魔物の死体自体は、兵士さん達が事前に並べてくれたらしく、きちんと床に整列して寝ている。
「本当に種族バラバラの構成ですね……さてコイザン、この中にその連絡役とやらはいますか?」
『ンン~……お、いタいタ、アイツだ。あの右かラ3番目に寝っ転がサレてるヤツ』
示されたのは、ゴブリンとはまた異なった感じの小型の亜人だった。
「
アイリーンの説明になるほどと納得。居並ぶ魔物の他の死骸はどれも、暗くて遠目でもそのシルエットはおかしいとすぐに分かる種ばかり。
この中で唯一、人間の町を動き回れそうな姿をしているのが、その
『イイおっぱいのネーチャン、詳しいナ。アイツが外との連絡役ダッたンダ』
コイザンの言葉を聞きながらも、僕は考えていた。
正直、今のアイリーンの<アインヘリアル>なら、姿形はあの
だけど問題は……
「ちなみにコイザン、何か取り決めなどはありますか? 接触の際の厳密な取り決め……たとえば合言葉とか」
『イーや、そんナ話は聞かネェナァ……そもソもアイツ、言葉が喋れネェ。基本、オレが書いタ手紙ヲ持っテって渡すダケのはずダ。ナニか命令が来テも、一方的に手紙ヲ渡されテ持っテ帰ってクルだけダしヨ』
つまり言葉による合言葉なんかの取り決めはないわけだ。
「持って行かせ、渡し、貰い、持って帰って来る、……と」
『アア、そうダ。アイツを装っテ、やっテくるヤツに接触しヨウっテんナラ、そんな難しクはネェと思うゼ』
コイザンは、もう完全に投げた感じだ。
忠誠心に乏しい彼からしたら、敵に捕まった以上は自分の命が最優先。仲間達がどうなろうが知った事じゃない、というところだろう。なら……
「貴重な情報をありがとうございます。コレは情報の見返りです、もし他に思い出した事がありましたら、教えて下さい」
そう言って僕は、分かりやすい骨付き肉を彼の口の前に差し出した。
『!!? んほォ、なんダこれ!? メチャクチャいい臭イじゃあネェかァァ!!』
縛られてるので、口だけでかぶりつく。
一口でその味の虜になったコイザンは、そのまま夢中で食べだした。
自分の利に分かりやすく反応を示す―――元より魔物とはそういうところのある生き物だけど、基本は知能が低いので懐柔する事は不可能。
だけど知能がなまじ高くなった個体なら、情報を提示すれば見返りが貰える、という事を理解できるし、こちらの対応や雰囲気も察することが出来る。
懐柔する―――というほどではないけれど、貴重な魔物側の情報源だ。口がなるべく軽くなるように仕向けておいて損はない。
「(これでコイザンの方は問題ないだろうけど、
食べ物では釣れないだろうし、うーん……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます