第381話 下っ端魔物たちに尋問します




 クルシューマ伯爵家を脅していた魔物達の駆逐は、滞りなく進んだ。僕たちと一緒に踏み込んだ兵士さん達が、別荘内の魔物を全て殺し、それをゴブリンに見せたところあっさりと降伏。情報を聞き出すために、あえて生かして捕縛した。


 そして、もう1体……


『……』

 鎧の間接の節々を完璧に固定されるように縛られた霊呪の鎧カースド・メイルは、床で仰向けになったまま沈黙していた。





「何もお答えする気はない、ということですね?」

 僕がそう問いかけても黙ったままだ。もちろん死んだわけじゃない。


「どうしますか、旦那さま? このままもうやっつけちゃいます?」

 喋らないなら倒すだけ―――アイリーンの言う通りだ。


 潜入部隊として、集団が生きているなら沈黙は義理堅い行為だけど、先ほどセレナからの使いが、“ 全て取り押さえた ” と伝言を持ってきた。

 つまり、王都に潜入していた彼らの仲間や関係者は、1人残らず僕達におさえられた事になる。


 ここで霊呪の鎧カースド・メイルが無言を貫いたところで意味はない。僕達は彼を倒してしまい、改めておさえた者に話を聞くだけだ。


『おイ、意地はっテんナヨ! どーせ上はオレらなんザ最初カラ捨て石のツもりなんダからヨォ!』

 縛られてソファーの上に座らされてるゴブリンが焦り気味に仲間へと叫びかける。

 霊呪の鎧カースド・メイルが沈黙したままだと、自分も一緒に殺されるかもとか思っているのかもしれない。


「(知能の高さも良し悪し―――もしこれが、ただの知能の低いゴブリンだったら、きっと生にしがみつくような言動は取らなかったんだろうな)」

 知能が高く、それでいて様々な欲の満たし方を王都の潜伏生活で知ってしまった。


 魔物たちの生活の実態がどうなのかは知らない。けど、このゴブリンの様子からして、王都でクルシューマ伯爵にアレコレ用意させての好き放題な生活は、相当に快適だったに違いない。


 結果、欲の幅が広がって、まだ死にたくないと生にしがみつくゴブリンは、もう忠誠心などないだろう。脅せばいくらでもしゃべるに違いない。





「(―――だからこそ、まずこっちだ。伯爵のこともあるし)」

 霊呪の鎧カースド・メイルが沈黙を貫くのはなぜだろう?

 相棒のゴブリンの言う通り、もう仕えている者に義理立てしたところでな状況だ。動きを完全に封じられた今、呪いで人間の1人も道ずれにーともできない。


 それでも黙っている……おそらくだけど、相棒のゴブリンは知らない何かを、彼は知っていて、しかもそれは自分が死んでも口には出せない可能性の高いことだと、僕は睨んでいる。


「……しゃべりたくないのであれば致し方ありません。どのみち、あなた方は殺される予定だったようですし。知っていましたか? この別荘には、大破壊を巻き起こす魔法の仕掛けが施されていたことを? それが発動していましたら、あなた達はこの建物ともども吹っ飛んでいましたよ」

『ナ……んダってェ!?』

 僕の言葉に驚いたのは、ゴブリンの方だ。しかし霊呪の鎧カースド・メイルも僅かにピクリと身体を揺らしたのを、僕は見逃さない。

 どうやら地下の魔法陣<ヴァリウス・ドゥーメイガス>のこと、彼らはまったく知らなかったみたいだ。


 仕掛けたのが彼らのあるじの意向かどうかは分からないけれど、そんな物騒なものに巻き込まれる場所に赴任ふにんしてたっていう事実は、無視できないはず。


「僕がその仕掛けを、発動しないように無効化しましたから、もう心配はいりません……ですが、僕達にとってあなた達2人・・・・・・を生かすかどうかは、別問題です」

『!?』『! …………』

 あえて “ 2人 ” と述べてみせた。魔物とはいえ知能が高くなっている彼らなら、その言い回しの意味を理解するだろう。

 他の魔物達はもうこの世にはいないこと。そして、ゴブリンと霊呪の鎧カースド・メイルは一蓮托生で、どちらか一方でも口を割らないなら両方とも始末する、という連帯で処理するというこちらの意志―――


『おイ! しゃべれヨ!! このままじゃア、オレ達もぶっ殺サれちまウゾ!!』

 僕は少し関心した。

 途端に慌て出したゴブリンの言い回しと態度には、自分が死にたくないという意志以外にも、相棒である霊呪の鎧カースド・メイルの事も気遣っているフシが見て取れる。

 同じ任務に従事した仲ということなのか、魔物にも知能が高ければそういう絆めいたものが生まれるのだろうか?




『……、いいダろウ……。トは言え俺達モ、知ってイる事は少なイ。分かルと思うガ、下っ端も下っ端ナンでナ』

 どうやら霊呪の鎧カースド・メイルもゴブリンの相方には多少の縁を感じているらしい。少なくとも主に忠誠を立て続けるよりかは、相棒の命の方が天秤がかたむくみたいだ。


「(さて、どれくらいの情報が得られるやら……)」

 あまり期待はしていない。

 彼の言う通り、こういう敵地への長期潜伏に使う下っ端は、相手にバレて切り捨てること前提の者が使われる。

 なので任務上で知能の高い個体が選ばれているとはいえ、おそらく敵の中でも最下級クラスに違いないだろう。


 ただ、知能の高さはつまり、考える事が出来るということでもある。

 知っている情報をただデータとして受け渡すだけでなく、彼らもその内容を理解したり、それについて考察したりする事ができるということだ。


 魔物側の視点と、知り得ていること。そしてそこから彼らの脳内で醸成されている何かは、彼らの上司も知り得ないモノのはず。

 

 

 そこに何か、大きなヒントとなりえるものがあるかもしれない―――意外にも僕が期待するのは、そんな彼ら個人に依存した曖昧な部分から生み出される情報だった。


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