第375話 潜伏者のふところに潜入します
数日後、クルシューマ伯爵家所有の別荘の前に、奴隷商人ウドテルは立っていた。
「先日のお取引通り、商品の納品に参りました」
対面しているのはクルシューマ伯爵ではない。執事のようだけどこれまたかなりやせ細っていて、顔色もすごく悪い。
「(家人もかなり疲弊しているようですね……)」
手近な建物の一室から、密かに様子を伺う僕達。
同じ部屋にはクララがいる。セレナは兵士さん達を指揮してもらって、魔物達の裏の物流ルートになっている場所を抑えに行ってもらっている。
「(……ですけども殿下、本当に
何をかといえばこの場での指揮役だ。アイリーンも別で行動しているので、近くにはいない。
「(はい、僕が突入時の現場指揮に出ますからね。総合的な指揮として、クララにお願いしたいのです)」
ちなみにアイリーンは、別荘の脱出口を封じるとして別方向からの突入部隊を率いて待機中―――と、クララ達には説明しているけど、実は違う。
アイリーンは今、<アインヘリアル>を操作している真っ最中だ。
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「こっちです、どうぞついてきてくださいませ」
別荘内に入り、先導する執事の後ろをついていく。視界が複数あるっていうのが不思議な感覚だけど、練習はしてたからとりあえずはだいじょーぶ。
「(……んんー、12~15匹くらい……かな)」
<アインヘリアル>でかたどった3人の女性たち。このコらの感覚は共有してるから、屋内の魔物の気配も感じ取れる。
見た目も、保護した奴隷の女の子達を参考にしたから、まずバレないはずだし、さすが旦那さまのアイデアだ。
「……申し訳ございません……」
ポツリと呟いた前を歩く執事さん。
きっと魔物に差し出すことになるのが心苦しいんだろうな。
「(……っとと、危ない危ない。つい反射的に “ 気にしないで ” って言いそうになっちゃったよ)」
基本、奴隷商人に売られた奴隷のコたちは、酷い目に遭う事が本人たちにも分かり切ってるので悲壮感が漂ってるものだから、何か話しかけられても無言でいる方が
「(とりあえずもうちょっとの辛抱だから。もうすぐ楽になれるから頑張ってー)」
心の中だけで執事さんを励ましながら、軽く別荘の内部の様子を見てみる。
「(……ふーん? 思ったより普通……っていうか、シンプルな構造だなー)」
魔物が潜伏するために、凝った構造になってるかもってちょっと心配したけど、意外と普通だ。
隠し通路の類もなさげだし、玄関以外の出入り口もさほどなさげ。
「(窓は多いから、逃げ出そうと思えばいくらでも脱出口があるのも同然だけど……うん、これなら―――)」
みすみす逃がすことはない。
加えてこっちは<アインヘリアル>だ。本体は別荘の外の別の建物の中だから、ダメージを気にせず戦える。
問題は、<アインヘリアル>でやれる範囲内に敵の強さが収まってるかだけど……
「(気配的にはそんなに強そうなのはいない、かな……。あのドルシモンやボザンシゲラっていう奴がいたら、ちょっと面倒って思ったけど)」
これなら制圧は楽勝だ、そう思った。
だけど……
通された部屋には顔面蒼白な、伯爵と思しき人物1名に魔物が2体。
そのうちの1体を見てすぐに納得した。
「(
はっきりいって強さはそこまでじゃない。だけどコレに呪われたら被害が広範囲に及びやすい。
差し違える覚悟で抵抗しても、自分だけでなくこの鎧を一度でも着てる人間全員の命が危うい―――脅迫していう事を聞かせるにはピッタリな、いやらしい魔物だ。
『おお、来たキタ。女ダ女だ、ウェッヘッヘェッ』
魔物のもう1体はゴブリン。言葉遣いからして、そこそこ知能が高い個体っぽいけど、気配からは一切の脅威性を感じない。
態度や雰囲気からすると、どうやら潜伏する魔物達の代表格っぽい。
「(そっか、あんまりにも強い魔物だと私みたいに気配を感じ取れる人にはすぐわかるもんね)」
あえて弱い魔物を中心に潜伏させているとしたら、それを考えた敵は結構なやり手だ。
気を引き締めて<アインヘリアル>の操作を続ける。だけど触覚と味覚は、本体との共有を断つ。
ここから何が待ち受けているかは分かりきってるから。
正直見るのも嫌だし、<アインヘリアル>にもそういう目には合わせたくはないんだけども……
「(まずは、しっかりと情報収集! がんばるぞー、おーっ)」
最低でも王都内に潜伏してる魔物の全容、これをなるべく掴むこと。
クルシューマ伯爵家に潜んでいるヤツだけなら、一気にやっつけられるけど、他にもいたら逃がしちゃいかねないし。
……さーて、たっぷりと喋ってもらうとしましょうかー!
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