第374話 奴隷商人を現行犯タイホです




 現状では強行突入は難しいので、クルシューマ伯爵家所有の特に要チェックな場所を警戒する態勢を密かにいてから2日目。

 さっそく動きがあった。




「ひいいっ! ど、どうか御見逃しを~~っ」

 僕の目の前に連行されてきたのは商人―――それもいかにも悪徳そうな雰囲気の男だった。


奴隷商人・・・・のウドテルです。クルシューマ伯爵と接触後、隙を見て捕らえさせました」

 セレナがはばかる事なくそう言う。途端に場にいる全員が眉をひそめた。




――――――奴隷商人。

 この世界では、一応は ” 奴隷 ” は認められている。ただしそれは、正式な契約を元にした場合に限られてる。


 奴隷と聞くと酷使され、労役を強制されるイメージが強いけれど、この世界じゃ法律上は、他人の所有ではあっても一定の尊厳や権限が保持された身分であり、所有者に対する従者と言えるもの……の、はずだったんだけども。



「(まぁ他の人間を道具みたいに “ 所有 ” しようなんていう人が、そんな尊厳やら権限やらを尊重するわけないよねっていう)」

 結果として、奴隷は前世でもったイメージそのまんまな感じになってしまっているのが現実で、“ 奴隷 ” という言葉もがっつりと悪印象な言葉として定着しているほどだ。

 当然、そんな “ 奴隷 ” を商品として扱う商人は嫌悪の対象。特にこのテの商人は、あくどい方法で強引に商品としての奴隷を確保している事が多い。




 この世界における奴隷の起りは、あくまでもうどうしようもないほどの困窮に見舞われた家が、口減らしとまとまった収入を得る最終手段を取ることを、容認する形で生まれた。

 なので奴隷として売られた人間も、これを買った者はキチンと保護および尊重する事を前提とした上で労役を課すことが定められていた。




 ―――けど、それはあくまで古代の話。まだ生活技術や知識が未熟な、今よりも原始的な時代における制度であって、今の時代にはまったくもってそぐわない。


 それでもなお、奴隷を扱う商人が存在している理由―――それは、豊富な財力を持った悪い権力者需要がいるからだ。


「ウドテルとやら、正直に白状してください。クルシューマ伯爵と話したことをすべて、です」

 僕がそう促すと、ウドテルは途端に両目を泳がせた。


「! そ、それは~……その、顧客との取引は内密にするのが暗黙の了解というヤツでして~……」

「では、あなたはここで死んでもらう事になりますね。知らないとは言わせませんよ? 今、この王国内において奴隷の売買はいかなる理由があろうとも極刑に値する……御触れ・・・が出ている事を」

 僕の言葉を待って、セレナが隣で剣を抜く。

 その剣は両手持ち用でほどほどに重厚だけど刃が鋭く磨かれていて、まるで自分の出番が来たかと言わんばかりにギラリと輝いた。


「ひ、ひえぇえええっ!! お、お慈悲を、どーかお慈悲を~~、わ、わたしめを殺しますと、奴隷たちは露頭に迷い―――」

「ませんよ? 保護は済んでいます。あなたの所有しているモノはもう、あなた自身の命のみです」

 ウドテルのミスは、この王都に商品である奴隷と共にやってきた事だと言える。


 当たり前だけどそれなりの人数を連れて移動すれば、どうしても目立つので居場所は丸わかり。

 王都を出入りする怪しい者の1人として、彼は既に治安部隊の監視対象になっていた。

 そして今回、クルシューマ伯爵に接触したことが奴隷売買の取引の決定打。こうして捕らえるに至ったわけだけど、ウドテルの奴隷たちもいまごろ、セレナの手配した兵士さん達が保護しているはずだ。



「そ、そそ、そんなぁっ」

「では、名残おしいかもしれませんが、刑を執行するしかありませんね……お願いします」

 この場で叩き斬られる雰囲気に、ウドテルはガクガクと震え出し、ついには泣き出してしまった。


「言いますっ、何もかも白状しますからぁっ、い、いい命だけは、命だけはぁっ」



  ・


  ・


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「女性の奴隷……可能性は色々とありそうですが」

 ウドテルから話を聞いた後、僕達は別室に移って情報をまとめていた。


「なるべく容姿の良い者という条件でというのが、気分の良くないものを想像させますわね……」

 同じ女性として、クララは少し怒気を含ませたままだ。そして彼女の想像する方向での利用目的に違いないんだろうけど、少し違和感を覚える。


「伯爵は、そういうタイプとは真逆の人物のように思えるのですが……やはり、魔物に脅されての仕儀でしょうか?」

 そもそも魔物に居座られ、脅迫されている身で女遊びなんてやってられるわけない。そんな図太い精神の持ち主なら、魔物にがっつり肩入れしてもっと悪欲の限りを尽くしている事だろう。


「……あるいは、魔物が楽しむために調達させようとしたのかもしれません」

 セレナは考えたくもありませんが、と表情に出しながらそう仮設を立てる。それはあり得る話だ。


「本来の魔物の性質では、潜伏という耐え忍ぶ活動は不向きですしね。欲望を抑えることに限界が生じ、伯爵に用意させようとしても不思議ではありませんが」

 そうなるとちょっと厄介だ。


 仮にウドテルを僕達が抑えた事が向こうに知れたら、魔物達は嗅ぎつけられたと思うかもしれない。

 かといって、奴隷の女の子を取引通り伯爵家に送ることはできない。




「(何があっても問題がなく、それでいて戦闘になっても耐えられる…そんな都合よくは……―――)」

 僕はハタとして、アイリーンを見た。


「? どうかしましたか、旦那さま?? 私の顔に何かついてるんでしょうか??」

「アイリーン、いくつか確認したい事があるのですが―――」

 上手くいけば、これ以上ない手。

 だけどそのためには、アイリーンがどこまでできるか・・・・・・・・を確認しないと。


 そう思い立ち、僕はアイリーンを別室に連れてソレの確認作業に入った。



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