第364話 強いお嫁さんたちへ出動要請です
「クルシューマ伯爵が危機に陥っている?」
僕の前で膝をつき、シャーロットからの伝言を述べた "
「このところ、パウリー=サル=クルシューマ伯爵が、交流のない未婚の御令嬢数名に対し、求婚の文を送りつけるという奇怪な行動を取っており、シャーロット様の元にも届いたのですが、その文面におかしな点を発見。隠されていた真意を解明いたしましたところ、伯爵家は何かよからぬ存在に半ば乗っ取られているに等しい状況にある……との事にございます」
「……なるほど。それで交流のない相手に
通常、そんな事をしたらその手紙を受け取った側は、非礼にもほどがあると、手紙を破り捨てる。もちろんプロポーズを受けるはずもない。
だからこそ都合がいいんだ。送った先で1つでもそれに込めた真意に気付いてもらえれば良し。破棄されても、一向にかまわない。
気づいて貰えるような聡い相手にのみ伝わるSOS―――つまり、その乗っ取っている相手はそれくらい見破れるような人でないと、太刀打ちできないくらいヤバいってことだ。
「それで、詳しいところは?」
「ハッ、シャーロット様のご下命により調査致しましたところ、どうやら知能の高い魔物がクルシューマ伯爵家に入り込み、伯爵を脅迫。この王都にて一定の活動を行う拠点として、伯爵家を利用しているものと判明いたしました」
それを聞いて、僕は冷や汗が流れた。
王国内に魔物たちがうごめくためのネットワークがある事は、以前から疑ってはいた。
けれどそれはあくまで、魔物と取引をする人間の風上にも置けないような欲の深い貴族たちが担っているものだって思ってたんだ。
ところが魔物が直接潜入し、王都に拠点を設けているだなんて、かなり予想外だ。
「(知能が高いっていったって魔物だ……そんな尻尾を一切掴ませないように人間社会の中に潜伏し続けていられるだなんて)」
貴族の中に手引き者がいたとしても、人間達の都市の中で魔物が大人しく身を隠し、行動するだなんて、その魔物は一体どれだけ高い知能の持ち主なのか?
そこまで考えて僕はハタと、あのバモンドウを思い出した。
「まさか……いえ、でも可能性は……」
「殿下?」
「ああ、すみません。……この件、少し強い危険があるかもしれません。シャーロットには軽率に手出ししないようにと、それと―――」
僕はすぐさま机の上に真新しい封と紙を出して、素早く文章を
「これを持っていってください。こちらはシャーロットに、そしてこちらは王様に届けるように」
「ハッ、お預かりいたします」
もしもパウリー=サル=クルシューマ伯爵を脅迫している魔物が、バモンドウ級の相手だとしたら、下手に藪をつつくのは危険すぎる。
たぶん王国の兵士じゃ、何千人いたところで相手にならない。
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「(……また、アイリーン頼みになっちゃうかなぁ、これは)」
あのバモンドウに対抗できる人間のアテが少なすぎる。実質アイリーン1人だ。
だけど逆に、これはチャンスだ。
それだけ高い知能の魔物なら、捕えて情報を吐かせることが出来れば、あるいは長年の東の戦い、その相手たる魔物の軍勢の全容を掴めて状況を大きく前進させることが出来るかもしれない。
「失礼します、アイリーンはこちらにいますか?」
「! 旦那さまっ! はいはいはーい、あなたのアイリーンはここにいまーす」
先触れなしに来るのは失礼なんだけど、今回はちょっと緊急性が高そうだから、まどろっこしい作法は抜き。
部屋の扉を開けると、レイアに合わせたピンクに寄せた淡い赤色の絨毯の上で、アイリーンがレイアのお手てをあげさせ、こっちに向けて振ってた。
隣にはセレナとエイミーもいる。
僕は入室し、わはーといった感じで喜んでるアイリーンに近づく。と同時に、端に寄って控えていたメイドさん達に、軽く片手をあげて退室せよと、フィンガージェスチャーで指示を飛ばした。
その瞬間、アイリーンの表情からお茶らけた雰囲気が消える。セレナとエイミーも、ハタとして少し緊張をはらんだ表情に変わった。
「申し訳ありません、本当でしたらのんびりと団らんの時間を楽しみたいところなのですが……」
「構いません、殿下。
さすがセレナ。察しがいい。
「はい、構いません……むしろ丁度良かった。エイミーもお話を聞いておいて、後でクララやシェスカ達にも伝えてくださると助かります」
「はいなのです!」
ちなみにヘカチェリーナは、タンクリオン達を引き連れ、メイトリム村内の建物という建物を巡っている最中だ。
メイトリムが王家直轄で、高貴な人々の保養地の方向性で発展させていく方針が決まった以上、王弟の近くにいる者として彼らにしても、いつまでも無礼下賤が許されるでは示しがつかない。
なのでタンクリオン達には多少なりとも礼儀作法のほどを覚えてもらうのと同時に、村内の上流階級者用の施設を見せつつ、品格の重要さや意義を教育しようというわけで、ヘンに懐かれているヘカチェリーナがその引率をしている。
「(まぁ、今回はヘカチェリーナはお留守番役、かな……)」
レイアの1歳の誕生日が控えている以上、傍にいてもらわないと困るし、何より今回はアイリーンとセレナの二人を連れて行く案件だ。護衛の観点からタンクリオン達の働きには期待したいし、そんな彼らを指導する役目としてヘカチェリーナにはレイアの傍に付けておく。
「アイリーン、セレナ。先ほど王都のシャーロットから連絡が参りました。クルシューマ伯爵のお屋敷にて不穏な影ありです―――
アイリーンとセレナはそれだけで、荒事の香りを感じ取ったらしい。セレナは軍人の目に、そしてアイリーンに至ってはいつでも戦えると言わんばかりに覇気を醸し出しはじめていた。
「まだ敵については不明ですが……アイリーン、覚えていますか? あのバモンドウのことを」
「!! アイツですか……はい、忘れられるような相手じゃありません」
「可能性としては低い方だとは信じたいですが、状況からして最悪、そのクラスの敵も想定に入れておいた方が良いというのが僕の判断です。そして場所が王都内だけに王都での軍管理経験のあるセレナにも、力を貸していただかなくてはなりません」
もちろん兄上様達にも連絡を入れて、助力して貰わないといけない。
今回はシャーロットがクルシューマ伯爵のSOSを受け取った形だから僕が動く。
ううん、そうでなくても今回の件は僕が動かないといけない……何故かは分からないけれど、そんな気がするんだ。
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