第344話 暗鬱な案件と穏やかな家族の時間です
ヘカチェリーナが持ち帰ったその紙は、あきらかに読んだら廃棄な類の物だった。
「やはり
シャーロットの “
もっとも母上様は母上様で、 “
それを踏まえたって、ここまで踏み込んだ内容を知りえるのは相当だ。
「大丈夫、殿下? けっこー気分悪くなるモノだし、シャロちゃんとこのまま殿下に見せるべきかちょっち悩んだんだけども……」
「大丈夫ですよ。むしろお二人こそ、大丈夫でしたか?」
「ん、何とかー。ウチらも割と精神力鍛えられてる方なのかもねー」
そういって軽くおどけるヘカチェリーナに、僕はついクスッと笑った。
母上様がシャーロット経由で持たせた紙に書かれた情報―――それは、先のヴェオスを始めとした、一部貴族の魔物との取引きの生々しい実態だった。
新たな命が誕生し、新しいお嫁さんを迎えた状況にある僕としては、あまり気分の良くないモノなのは確かだけど、これはこれで無視できる
遅かれ早かれ、目を通すべきには違いない話だ。
「(むしろ、これは気を引き締めろって事なのかもしれない。僕にだってレイアがいるし、これから子供もきっと増えていく……)」
祝い事はめでたいけれど、今この時にもこういう事が実際にまかり通ってるし、世界のどこかで行われてるかもしれないんだ。気持ちが緩み過ぎないようにっていう、母上様の厳しい計らいと受け取ることもできる。
「ともあれ、この件はすぐにどうこうできるモノでもありませんから今は片隅においやっておきましょう。兄上様達には話を通しておきますが、東端の国境向こうの魔物達が絡んでいる以上、根本を潰すことはできないでしょうし……関係しているであろう国内の
「悔しいけど、それくらいだよねー……。はぁ~あ、アタシが殿下のお妃になる頃には、そーゆー話なくなっててくれるといーんだけどっ」
そう言ってウインクしてくるヘカチェリーナ―――こういう所はホント、上手いなーこのコは。
「フフッ、そうですね。それはそれでプレッシャーですが、頑張らないといけませんね。それはそうと、シャーロットはどうです、元気にしていましたか?」
「うん、もち。殿下の訪問の日程伝えたら、顔真っ赤にして喜んでたから、頑張って期待に応えてあげてよねー?」
それはもちろんだ。
ヴェオスの件もあって時間も空いて久しぶりに会うし、言われずとも思いっきり期待に応える気満々だもんね。
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結婚、そして祝賀会と一通り終わり、ようやく落ち着くまで2週間を要した。
「宰相の兄上様には、良い休養期間と家族の時間をプレゼントできたと言えるでしょうね」
「ですねー、お
そう言って隣に座るアイリーンは、いいことをしたと言わんばかりに胸を持ち上げる腕組みでウンウンと頷いた。
僕に代わってメイトリムに入っている宰相の兄上様。久方ぶりに、四夫人と生まれたばかりの長男が一緒の、まさに家族水入らずな時を過ごしてる。
僕達がメイトリムに戻るのは、シェスクルーナとリジュムアータが、僕の新たな婚約者になる上での打ち合わせや、マックリンガル子爵領の今後やヴェオスの壊した街道整備事業などなど、諸々の決め事を終えてからだ。
最終的にはメイトリムが王室にとって十分な滞在場所としての発展を見届けたら、僕達も完全に王都に戻って来る。
「とはいえ、宰相閣下はこの国になくてはならない御方のお一人……また御多忙になられる事を考えますと、あまり早くに戻られてはお可哀想に思えてしまいますね」
セレナが苦笑気味にそう言う。
僕のお嫁さんの一人として、第四王弟妃としてのドレス姿も見慣れてきた。
「そうはいっても、ゆっくりさせてあげましたところでお仕事はその分溜まってしまうでしょうし……そうなってもお可哀想ですわ」
どちらにしてもと肩をすくめるクララ。
正式にお嫁さんになって、初夜を経た直後は毎日僕と顔を合わせるだけで気絶してたものだけど、1週間ほどで何とか慣れてきた。
セレナの隣、第三王弟妃としてのドレス姿で座ってる様子からは、すっかり自分の調子を戻したように見える。
「失礼しますのですよー。エイミー様のおむつ替え、終わりましたのです」
そう言って第二王弟妃のエイミーが、ヘカチェリーナと一緒に入室。
シェスクルーナはリジュムアータの健康診断に付き添ってるから、今日はお茶会不参加だ。
王弟のお茶会は予定した面々が集い、つつがなく行われる。
これから色々な事が待ち構えているんだろうけれど、今だけはこの平穏な時間を楽しませてもらおう。
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