第343話 友誼ある女子2人を悩ませる者です



――――――王都、ファンシア家。


「いやー、こっちは穏やかでいいわー。今日はお城は地獄だろーし」

 ヘカチェリーナは完全にくつろぎモードで出されたお茶を楽しんでいた。




「い、いいのヘカーチェちゃん? そんなゆっくりしていても??」

「いーのいーの。こっちはこっちで1日仕事だし、こんくらいは役得ってことでー。まぁ今回一番大変なのはセレナねぇとクララっちだろーけどねー」

 何せ新しく正式に側室になった2人だ。

 しかもアイリーンやエイミーと違って、クララは実家が名家の貴族令嬢で、セレナは軍の要職だった人物。

 兼ねてよりの知り合いは数多く、祝賀会に招かれている客との多忙を極める交流の様子は、容易に想像できる。


「でもご結婚は羨ましいな……それに、新しい婚約者さんもいるんだよね……」

「うん、マックリンガル姉妹。揃ってすっごい肌と髪が綺麗なコ達で―――なーに、シャロちゃんってばジェラスィー?」

 ヘカチェリーナが珍妙な発音を織りまぜながらニヨニヨ顔でズイッと距離を縮めてくる。軽く背を反らしつつ、シャーロットは苦笑いを浮かべた。


「そ、それは……その、まぁ……ね。ヘカーチェちゃんだって少しは気になるでしょ??」

「んー、まぁならないって言ったらそりゃあねぇ。でもソレはソレ、コレはコレって感じ。だいたいアタシらの方は肉付きで勝ってるから、全然負けてないっしょ」

 実際、ヘカチェリーナとシャーロットのスタイルはますます良くなっていっている。

 アイリーンやセレナにはまだ届かないにしても、王弟の妃や婚約者たちの中ではその二人に次ぐモノを既にその身に有していた。



「う、うん……そう、かな? でもさ、やっぱり羨ましいなって思っちゃうんだよ。あ、身体のうんぬんじゃなくって……近くに居られる時間が長いっていう意味でね?」

「それでいったら、アタシなんか一番シャロちゃんに妬まれるじゃん、アハハッ」

 実際、ヘカチェリーナは専属メイドなので王弟の傍に付いている事は多い。

 おそらく現在、一番彼の近くにいる時間が長いのは確実にヘカチェリーナだろう。だが、それはそういう御役目だからで、それによって彼の助けになっている。


 なので嫉妬感はあまりない―――シャーロットからすれば、どちらかといえば彼を支える仲間といった感覚が、ヘカチェリーナにはあった。



「ヘカーチェちゃんは頑張ってるもの。妬むなんてことないよ、フフッ……。あ、そうだ、忘れるところだったよ、ええと……」

 シャーロットは胸の谷間を探りだす。ヘカチェリーナも何かと忍ばせているので特に驚きはないが、白い肌艶とその大きさには思わず目がいく。


「(ムムッ、シャロちゃんもまた成長してる……。それに前より綺麗になった気がする? 身体洗いの泡鹸ボディソープ変えた? それとも美容にいい食事とか?)」

 スタイル的には同じくらいの範囲にある者同士なので、何気にその辺りのことは気になるヘカチェリーナ。

 アイリーンやセレナ、あるいは自身の母親のように、圧倒的に差のある相手だと逆に対して気にならないが、近しい者同士となるとやはり負けてられないという気持ちが沸き起こる。


 彼女がそんな、悶々とした思考を巡らせていると……


「! あったあった……はい、コレ」

 手に抜き取られていったソレを惜しむように、乳房がプルルンと揺らめく。シャーロットが差し出したのは、一通の紙だった。


「? 手紙……じゃないよね? アタシが見ても大丈夫なヤツ?」

「うん、問題ないよ。……むしろ、意見を聞かせて欲しいかなって」

 封のないそのまま1枚の紙。4つ折りにされてるだけで、これといった機密性は感じられない。

 とはいえヘカチェリーナは念のため、丁寧に開く。


「……え、……何、コレ……。結構ヤバい話じゃないの、コレって??」

「うん、私もそう思ったんだけど、皇太后様が “ 気軽に渡してくれていいからねー ” って軽い感じで……」

 ヘカチェリーナは一転、表情を険しくさせた。



 皇太后―――初めてその存在に近づいた時から、ただならない女性であると感じて、何かと警戒してしまう相手。


 それは身分によるところではない。ヘカチェリーナをして何か、皇太后そのものが異様な存在感を持った人間だと感じて止まないが故だ。


「(殿下を溺愛してるし……敵、とは思えないけど……。……でも)」

 過去に、教育と称した古い “ 躾 ” しつけを、友人たるシャーロットに施すなどしていた前科もある。

 (※「第61話 貴族の古教は闇の躾です」参照)


 ヘカチェリーナのある種の嗅覚において、皇太后という存在はあまりにも嫌悪的に感じてしまうのだ。その何とも言い難く、善悪ハッキリしない怪しさゆえに、強い警戒心を抱かずにはいられず、生理的嫌悪を喚起させて止まない。


「コレ、殿下に見せても……?」

「大丈夫、というか元々殿下に渡してって言われて預かったものだから。だけど……」

 シャーロットが戸惑うのも無理ない。


 何せそこに書かれているのは、ものすごくエグい話―――人身売買による魔物への女子供の売り渡しの実態と、売り渡された者達がどうなったかなどを克明に記した内容。

 普通はセンセーショナルな内容はある程度ぼかしたり表現を抑えるモノだが、ここまで生々しく記しているというのが、見る者の気分を悪くさせる。




「(……殿下に怒りを覚えさせるためにワザと? ううん、ここまでしなくったって、殿下なら端的に要約だけで十分、こういう事する連中には怒るはず。こんな生々しい文面に、わざわざする必要ある??)」

 やはり皇太后は気味が悪い。

 この裏社会の動向に関する情報をどうやって獲得したのかも気になるものの、ヘカチェリーナは一層、皇太后という存在は、気を許せない何かがあると再認識した。



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