第345話 お出かけ先で高まる家族意欲です



 クララとセレナが正式に王弟妃となって、今後の僕の縁談はシャーロット、ヘカチェリーナとの結婚待ち、そしてシェスクルーナとリジュムアータとの婚約……って形になる。


 もちろん結婚したばかりで、すぐにトントンと進めるわけにはいかない。物事には順番というものがある。

 だけど―――




「―――お待たせしていますが、ようやくですね。もう少しです」

 シャーロット=クロエ=ファンシア、彼女の番がついに次になった。


「あ、あんまり急がなくていいんだよ?? 殿下に不都合が生じちゃ困るし……」

 王侯貴族ら上流階級の結婚が、単なる愛の結実というロマンティックなモノでない事は、シャーロットも重々理解している。


 平民の、サーカスのアイドルだったクロエだけど、もうどこに出しても恥ずかしくないほど、礼儀・作法・教養を修めた立派な淑女レディーだ。


 出会ったばかりの頃に比べて、とても成長した……僕は何だか感慨深く思えた。


「大丈夫ですよ。ことシャーロットに関しましては、いかなる事も僕に不都合なんて起こりえません」

「も、もう、殿下ってばまーたそんな……恥ずかしくなる言い回しは卑怯だよぉ」

 二人きりの時は、昔のクロエのままの素でお話してくれる。

 けど―――


『失礼致します、お嬢様。お茶をお持ち致しました』

「はい、どうぞお入りになってください」

 まったく慌てることもなく、滑らかに貴族令嬢の応対をするシャーロット。

 慌てることもなく、とても完成された雰囲気を感じる。


「(ファンシア家令嬢になりきる、っていうよりも元からの素の自分を大事にしながら、貴族令嬢を極めた、クロエなりの上流階級での在り方の完成形って印象だ)」

 貴族令嬢を装うのではなく、かといって貴族令嬢になるためにクロエを捨てるのでもない。

 本物になりつつも、自分を堅持し、同居させている―――そうして出来上がっているのが、今のシャーロットなんだ。



  ・


  ・


  ・


「えーと、コレとコレとコレに……コレとー……うし、おっけー。殿下、他に持ち出すモノはある??」

 ファンシア家からの帰りに、僕の離宮に寄って今後必要になりそうな物品を引き出す作業。


 ヘカチェリーナはリストにチェックを入れながらも、リストにない範囲での必要物について聞いてくる。


「特に他には……いえ、そうですね。念のためアレも持っていきましょうか。兄上様の子もいる事ですし、やや荷物はかさばりますが、不足するよりは良いはずです」

「りょーかい。んじゃ獣人のみんな、あの箱とあそこの袋、それとあっちの樽も手配しておいてねっ」

「「ハイッ、お任せください!」」




 近頃、王都での獣人達の評判はかなり高まってる。

 理由は、先の王都の動乱の後、僕の離宮を守ってくれてる彼らが、離宮周辺での貴族のやりたい放題な無法を抑え、王都の人々の味方をしたからだ。


 おかげで徐々に、他領にも僕の領地の獣人の評判が広まっていて、間接的にルクートヴァーリング地方の評判や名誉回復にもつながってる。


「(軍や国に卸す形で農産物は何とかなってるけど、一般市場にはまだまだ色メガネで見られる傾向があって売り上げは芳しくないから、獣人さん達を通して評判が良くなるのはありがたいな)」

 特に獣人さん達の身体能力の高さは、昨今の治安面の不安の高まりに対する需要があるって捉えることもできる。

 平和な時は強い力は恐れられやすいけど、世の中危険が増してくれば頼もしく思われる。


 皮肉なことだけど、魔物が暴れるほど王都の獣人さん達の存在は、人々の不安を緩和するのに役立ってるわけだ。


「……デイトリュースさん、僕達がお城に戻りましたら、王都の市場でルクートヴァーリング産の食料品をそれとなく探し、少量で結構ですので購入してきてもらえますか?」

「はっ? 殿下のご入用でございましたなら、今すぐにでも参りますが……」

 デイトリュースさんはユニコネア一角獣人で、普通に立ってても一段高い馬車の窓にかがまないと顔を合わせられないほど、背が高い。


 真っ白な身体にやや長めの首は筋肉質で、鍛えられたお馬さんの感じだ。

 チェスのナイトを思わせる凛々しい頭部に、立派で綺麗な1本角は、なんかすごくカッコよく見える。


「いえ、僕のお使いではなく、貴方がたの個人的な好みとして購入してきて欲しいのです」

「! ……なるほど、“ 宣伝 ” というワケでございますね? 承知いたしました、このデイトリュースに万事、お任せください」

 デイトリュースさんは正確に深読みできるタイプで、いわゆる1を聞いて10を知る。

 なのですぐに僕の意をくみ取ってくれるのでとても接しやすい。


 勤勉で真面目な性格ながら、日々の自己鍛錬の時間には猛々たけだけしく槍を振るう姿を見せるので、ご近所のご婦人たちにもっぱら評判だとか。



「(本当に、THE・騎士、って感じの人だよね。こういう人材がいっぱいいてくれると助かるんだけどなー)」

 世の中、なかなかそうはいかない。

 デイトリュースさんも子供が生まれたばかりだそうで、あまり長期間、ルクートヴァーリング地方から離してあげるのは可哀想だ。


 実際、離宮の獣人さん達のローテーションでも、彼は一番短期間で済むように調整されてるらしい。

 獣人さん達はただでさえ、普通の人間に比べると数が少ないこともあってか、子供に対する意識は強い。仲間達も快く彼の期間短縮のため、自分らの期間増を受け入れたらしい。




「(いやいや、僕達だって負けてないぞっ。帰ったらレイアをいっぱいかまってあげよう、うん)」

 複数の荷馬車を伴いながら、僕とヘカチェリーナの乗る馬車はお城へと戻った。



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