第302話 魔物変調の秘密は重大です
魔物としても強力なレベルにあるヴェオスだが、それでも自分の城に突っ込んできた野良の大型魔物達を滅するのに時間がかかっているのにはワケがあった。
『ええイ! 無駄に図体ばカり大きナ野良風情ガぁ!』
まず第一に、崩落した城の瓦礫が散乱してしまい、現場はかなり行動しにくい状態になっているというのがある。
城を構成していた砕けたレンガの瓦礫―――見上げるほど積もっている山がいくつもできている。しかもまだ崩落しきっていない部分が屋根となって微妙な配置関係になってしまい、景観以上に行動可能な空間が狭い。
そして第二に、現在も崩落が進んでしまっていること。ヴェオスにとっては自分の城だ。ゆえに自分が暴れることで城がさらに崩れるのを助長したくはない。
結果、新米魔物なヴェオスには、こういう状況下での適切な手加減が出来ずにその強さを発揮しにくかった。
さらに第三に、大型の魔物達の生命力が想定以上に高いことが、ヴェオスの手をわずらわせる最大の原因となっていた。
『『ギュアオオオオ!!』』『『ガァァアアア!!!』』
しかも数もそれなりにいるときている。
それに比例してタフさも増しているのか、なかなかくたばらない。連れて来た手下の魔物達も攻撃を加えているが、サイズ差ゆえかダメージの通りはかなり悪く、数時間かけてようやく3体目が動かなくなったというところだった。
『フゥ、フゥ、どうナってンダ、コイツラ?』『コンナにタフな
しかもその巨体である。倒れる時にまた城の一部を巻き込んで崩すわ、死体がそのまま障害物になるわと、戦いが進むほどに城は壊れていき、より戦いづらくなっていく。
しかも……
『『グギャアアアオオ!!!』』
『! ちいぃイ、まタカ! オイ、お前ラはアレを追え! こレ以上被害ヲ拡大させルナッ!!』
ヴェオスの叫び声による命令を受け、手下の魔物達数体が南に移動しはじめた2体を追う。
ちょっと気を抜くとすぐに進行方向を変え、南進しようとする大型の魔物達。おかげで1体1体への攻撃に集中しずらくなり、ますます難儀を強いられていた。
『(まサかこレもメイレーの小細工? リジュムアータの入レ知恵か? ……いヤ、そンな真似がデキるとハさすガに思えン)』
大型の魔物の群れを、狙って突っ込ませるなど不可能だ。確かにそういった事が出来るようにと、かつて ″ ケルウェージ ” が研究していた。
しかし、仮にその技術なりを手に入れていたとして、これほど大型の魔物を今まで誰に悟られることもなく、今の今まで何体もキープしておくのは無理があるし、即座に利用を思いついて用意するには、あまりに過ぎた魔物だ。
だがそのまさかである事に、ヴェオスが思い至ることはない。
しかも元はケルウェージに飼われていた魔物の、まさしくその研究の結果を利用しての作戦なのだから、皮肉極まりない。
しかし、利用した側も攻撃を受けた側も、どちらも気付かない事もあった。それはこの魔物達が野良にかえってからこれまでの間に、より巨大な個体に成長した謎である。
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その頃、クワイル領から南東のとある道すがら。
ヴェオスの元から撤退したバモンドウは、猛スピードで東に向かってひた走っていた。
そこへ1つの影が、同等レベルの速度で距離を寄せてくる。
『! イグエイシン』
『イカニモ』
馬のような姿ながら馬ではありえないほど低い姿勢で疾走する者が、バモンドウの隣に並ぶ。
人型の怪人であるバモンドウとは違い、四足歩行で走り方も馬のそれに近い―――イグエイシンと呼ばれたソレは艶光のない馬体をし、遠目から見るとまるでバモンドウの影のようにしか見えないほど、黒一色の姿をしていた。
『ソチラモカエリカ?』
『アア、そうダ。ソちラの首尾はドうダった?』
問うバモンドウに、イグエイシンはクックと笑う。
『野良ノ魔物ドモニ混ザッタ甲斐ハアッタ。色々ト分カッタ事ガアル』
言いながらイグエイシンは、ググッと頭の辺りを伸ばす。やがてその首と頭部が人の上半身のような形状になり、
『野良ノ魔物ニ人間ノ血ヲ熱シ、与エル事デ、魔物ハソノ血ノ味ト匂イヲ覚エル……コレガ分カッタダケデモ、大収穫ダッタノダガ、野生ニ戻ッタ魔物ドモヲ観察シテイタトコロ、興味深イ変化ガ生ジテイル事モ分カッタヨ』
『ホウ?』
さも語りたがり気味な仲間に、バモンドウは相槌だけに留めた。
『
『! ……ナルホド、ナ』
バモンドウはヴェオスの小城に突っ込まされた魔物達を思い返す。確かに一般的な同種の個体よりも、今挙げられた項目に違いが見られる個体ばかりだった。
だがそれが事実となれば、彼ら魔物にとっては今後にも関わるかなり大きな情報……イグエイシンが饒舌になるのも頷けた。
『ナラば、今は一刻モ早く戻ルベきダな。ソの情報……確実に伝えネば』
二人はさらに速度を上げ、一路東へと駆けていった。
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