第十章:悪魔の末

第301話 崩壊の進む城内です




 太陽がのぼり、完全に朝の時間となった頃、城は大混乱状態に陥ってた。もっとも……



『人間ガ、入り込ンでいルぞ!』

『数はっ、何匹ダッ!?』

『い、イッぱイダ!!』『オレ、あっチでモ見タゾ!』『オレモ!』


 知能の低い魔物の伝言ゲームのせいで、潜入した僕達の数を完全に誤認した上に、ポーブルマンやオフェナ隊の兵士さん達も城内への侵入を深めてきたので、魔物達は正確な状況の把握ができないでいた。


 しかも見つかるまでの間に城の各部屋に仕掛けた火薬が爆発。

 さらに大型の魔物を誘引するためのシェスカの血の残りを、位置関係を確かめながら撒いていったので、ヴェオスが四苦八苦しながら対応中の大型の魔物達の一部が、それにつられて大きく動き出し、城の崩壊がさらに広がって、城内は大混乱に陥った。





「引っ掻き回しは大成功です、血を撒いたところから少し遠ざかりましょう」

「はいっ―――旦那さま、こっちへ!」

 不意にアイリーンが僕を抱き寄せる。グッと自分の胸の中に押し込む勢いで抑えると、僕の後ろで剣が風を切る音、そして魔物の断末魔が聞こえた。


ふがふがはさすがはひひーんアイリーンへふへですね

「ぁンッ、旦那さま、くすぐったいですよぅ♪」

 こんな感じで、僕達に襲い掛かって来る魔物は片っ端からアイリーンが1撃で葬っていっている。


 しかも、何の変哲もない剣1本で、だ。メイレー侯爵の私兵達は、攻城戦で突入を想定した部隊は、何やら色々物々しく持っていたけれど……


「(剣1本……ないならないで、現地で使えそうなモノを利用して悠々と敵地を動き回れる―――すごい事だよなぁ)」

 こうして戦地に同行するたびに、お嫁さんの凄さを再認識させれる僕。やっぱりアイリーンは凄いや。




「! その先の角から誰か来ます」

 そう言っても、アイリーンは特に身構えることもない。剣も下げたまま……ってことはその誰かは味方の兵士さんかな?


「む? お前達は……おお、これはこれは王弟殿下、まさか御身がこのようなところにおられるとはっ」

 ポーブルマン。2、3度しか顔を合わせていないけど間違いない。ヌッと角から現れた大きな体躯にガッチリとした筋肉質な戦士の姿は、失礼だけど一瞬、そういう魔物かと思ってしまった。


「確か……ポーブルマン、でしたか。貴方がここまで来たと言う事は―――」

「はい、すでに南側はほぼ占拠し、オフェナ隊の兵が固めています。伝え聞いた戦況によりますと、城正面に出ている魔物どもも侯爵本陣とハバーグの北陣が完全に押し込んでいる状態にある、とのこと」

「では、魔物達は城正面の東側の中腹から北寄りあたりに残りが集中しているはずです。城裏側である西側は僕達―――といいますか、アイリーンがほとんど駆逐しましたし、大型の魔物達の一部が南下して城の西部分の崩壊も南に広がっていますから」 

 するとポーブルマンは、ほほうとアイリーンを見る。


 その視線は、何というかライバルを見るような感じだったけど、当のアイリーンはまったく意に介してない。むしろ路傍の小石くらいにしか感じてないような雰囲気だった。


「さすが、ウワサに聞くアイリーン妃様。ですが、この私めも負けてはおりませんぞ、南側では か な り の魔物をこのポーブルマンが仕留めましたゆえ、どうぞ殿下、この先のオフェナの兵と合流し、ご安全の確保を。安心して後は私めにお任せください!」

 かなり、の部分を強調して言うのが、なんか子供じみた張り合い感がする。


「ありがとうございます。ですがまだ気は抜けませんよ? 配下の魔物達はかなり倒せてはいますが、ヴェオスはまだ健在ですからね……彼の元に魔物達がまだいるはずです」

「ハッハッハ! 殿下、ご心配なく! このポーブルマンが敵の首魁の首を取って参りましょう! ではっ」

 言うや否や、ポーブルマンが走り出した。僕達が移動してきた廊下をさかのぼるように北方面へと駆けていく。


「あっ! ちょっと待―――……あぁ、言ってしまいました」

「ヘンな奴ですねー……あんな装備で大丈夫なんでしょうか??」

 アイリーンはあっけらかんとしている。ライバル視された事もまるで気づいてないみたいだ。


 ここまで戦い続け、武具が結構痛んでいたポーブルマン。一方で最低限の武器でほとんど消耗なしで戦い続けてきたアイリーン―――ライバルどころか実力差は天と地ほどあるだろう。


「ヴェオスに挑むのは、大型の魔物達が処理されてからの方がいいんですが……なるほど、侯爵が苦心するわけですね」

 やる気と自信があるのは大変結構なことなんだけどなぁ……


 残念ながら、ああいう人種は作戦要員の隅っこにすら置けない。


「旦那さま、私達はどうしましょう??」

 ポーブルマンを追いかける、というのもありだとは思うけど、他に兵を伴っていなかったことから、彼は遊撃の単独行動が許されてるんだろう。




 なら僕達が今する事は……


「城の北東方面を狙うことにしましょう。東の城出入口付近に集中している魔物達を削り、今のうちに北にいるヴェオスと魔物達を完全に分断してしまった方が、ヴェオスとの決戦には有利なはずですから」

「了解です、この私にお任せくださいっ!」


 ヴェオスとの戦いも終わりが見えてきた。だけどまだ気は抜けない……もう少しって時ほど、気を引き締めないと!



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