第296話 夫婦で見る新たな脅威の気配です




 城の裏手西側、距離800m少々の地点でアイリ―ンが馬を止める。


「旦那さま、この辺りでしょうか?」

「ええ、そうですね。周囲の起伏といい、陣を置くには最適な地形でしょう」

 さすがアイリーン。

 素人目から見ても、部隊を配置するには良さげな地形を迷うことなくピタリと1発で決められるのはスゴイ。




 バラバラになった騎兵をまとめる役目はペーマウさんにお願いして、僕とアイリーンは、集合場所としての目印にならんと、その場に立った。


 本当は旗の1つも立てるべきなんだろうけど、そんな用意はない。幸い散開さんかいした騎兵さん達は、さほど広く離れるようなルートは取っていないので、みんなお互いに視認可能な範囲を走ってる感じだ。


 目印がなくても再集結には問題ないだろう。


「……ん~」

 アイリーンは絶賛崩壊中の城の方を伺ってる。よく見ようと上体を前に反らしたかと思えば、今度は視点のフォーカスを合わせようとするかのように後ろに下げ、そこからは小刻みに前に後ろにと揺り動かす。


 その度に豊な胸がビキニアーマー越しでもバルンバルン揺れてた。気にならないんだろうか……?


「どうですか、城の様子は?」

 アイリーンは目もいい。日が昇りつつあるとはいっても、まだ少し薄暗いし、視界を遮るものがないとはいえ、城までの直線距離は800m以上。


 それでハッキリと様子を伺えるとしたら、並みの視力の良さじゃない。



「さすがにちょっと完全には見えないですが……幸い、暴れてる魔物は巨大化してますからね~、ある程度は……―――どうやらヴェオスが出てきましたね」

「! ……やはりですか。どんな様子ですか?」

「なんていうか、悪魔っぽい姿ですね。もう完全に魔物化しちゃってるみたいです。……あ、今玉獅子ダンゴライガの1体の横っつらをぶん殴りましたね」

 急な強襲、それも城が崩壊するレベルだ。

 並みの魔物達はすぐには対応しきれないだろうし、遠目から見ても縮む巨人スモールワン玉獅子ダンゴライガはまるで怪獣のように城に攻撃してる。


「手下が不甲斐ないから自ら出てきた、という感じですかね」

「ですねー、たぶん―――……っ」

 急に言葉を切ったかと思うと、アイリーンの表情が険しくなった。


「? どうしましたか、アイリーン??」

「…………」

 僕の問いかけに答えない。僕の事が好き好きだいしゅきなお嫁さんアイリーンには珍しいことだ―――いや、一度こんなアイリーンを見た事がある。あれは確か、レイアが生まれてすぐの時だ。

 (※「第120話 お祝いムードです、そして……」参照)


「(まさか!?)」

 何か危険が迫っているのかと思って、僕はつい周囲を見回す。だけど見えるのは続々と集結中の騎兵さん達のみ。

 再びアイリーンを伺うと、その視線は変わらず城の方に向けられていた。


「アイリーン?」

「……………」

 問いかけてみても、ものすごく真剣な戦士の顔のままだ。

 僕はちょっとだけムッとした。なので―――


「アイリーン!」

 ムニュウッ!


「わひゃあ!? だ、旦那さま?? ……ぁンッ、ダメですよぅこんなところで♪」

 思いっきりビキニアーマーの胸の装甲の隙間から下乳を力いっぱい握って引いて、ようやく戻って来たお嫁さん。


 というか、痛いかなって思うくらい思いっきりお肉を握ったのに、痛いとかじゃなくて愛撫レベルですかそうですか―――自分の力の無さにショックを受けつつも、僕は気を取り直して問いかけた。


「どうしたんですか、先ほどから……何か見えたのですか?」

「それがですねー旦那さま……落ち着いて聞いてください。私のカンなんで、絶対じゃないんですけど、その……多分ですが、ヴェオスよりずっと強い魔物がいたんです」

「!?」

 驚いたけど、僕はすぐにありえると思いなおす。


 これまで魔物といえば、凶暴で危険という曖昧な認識がまずあった。だけど当然、それは “ 魔物 ” というくくりに対する認識だ。

 実際は、その中には数多の種類がいて千差万別。その危険度も強さもピンキリだ。


 ……当然、その中には、あのヴェオスよりも遥かに強い魔物がいたっておかしくない。いやむしろ問題なのは―――



「……アイリーン、それはアイリーンの目から見て、アイリーンよりも強そうですか?」

「……うーん、どうでしょう? 多分そんな事はないとは思うんですけど、相性が悪い相手だったりしたら勝敗は・・・分からないかもしれません」

 アイリーンは、たぶん人類でも最強の個人に相当する強さのはず。そのアイリーンが敵わない魔物かどうか、それが一番重要だ。


 だけど強い弱いは実戦の結果に必ずしも直結するわけじゃない。弱くても戦いようによっては強い敵を倒すことなんていくらでもありえる。


 だけどアイリーンが自分よりも強そうかどうかって聞かれて “ そんな事はない ” と答えた。つまり純粋な強さそのもので比べたなら、まだアイリーンが上だってことだ。

 そこにまず僕は安堵する。それなら相手に有利な状況に持ち込まれさえなければ大丈夫だからだ。



「(だけど、この点はちょっと問題かもしれない……。もし、アイリーン以上じゃなくても、アイリーンが警戒するレベルの魔物が、数多くいたら? あるいは本当に、アイリーンに勝るような強力な魔物のいる可能性だってあるわけで―――)」

 思わず身体が震える。

 もしかすると、魔物達の強さの天井は、僕が思ってるよりもずっともっと高いかもしれない。


 そんな不安に駆られていると、頭の上からドニュンと柔らかいものが降りて来て、僕の頭部を包んだ。


「大丈夫です。旦那さまはこの私が守ってみせますからっ」

 それは嬉しい、すごく嬉しい……んだけどもその前に僕、窒息しそうですよ、お嫁さん!




 急におっぱいの谷間の中にホールドインされて、呼吸が完全に詰まった僕は、両手を前に出してジタバタする―――と


 バチンッ


 どこかの留め具が外れたような音とともに、僕は前に飛び出た。呼吸も戻った。

 だけど今度は視界が急に真っ暗になって、目の周りの皮膚が冷たい金属質なモノを感じてる。


 バルンと放り出されたアイリーンの見事なバスト。




 なお、位置関係と角度的にちょうどそれをおがむことになった騎兵さん達は、後でボコボコにされた。




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