第295話 最善手よりも落とし前です
それは、壁に穴が開いたとかいうレベルではなく……
『ガオォオオッ!!』『ギャァアアアオオォオ!!』
ガラガラガラガラッ……
ドォンッ! ガシャアッ、ガララッ……
ヴェオスの小城の西側やや北、城全体の約1/3が絶賛崩壊中だった。
「大成功です。
「ハッ!」「かしこまりました!」「お任せを!」
命令を受けて、騎兵さん数人が飛ぶように駆けていく。それを見送りながら僕は、アイリーンの馬に乗りかえた。
「あーん、旦那さまぁ~、お会いしたかったです~」
大好きなぬいぐるみを久しぶりに抱きしめるかのように、見えないハートマークを辺りにまき散らしながら抱っこしてくる
騎兵の皆さんが思いっきり見てるんで恥ずかしいけど、ショタっこな見た目の僕だから、どちらかっていうと微笑ましいものを見てるような視線だ。
「(一仕事終えて和むには丁度いいかな……ここからは相手も苛烈になってくるだろうし、この中の何人が生き残れるか―――)―――僕達はこのまま後方に一度退避します。陣、とまではいきませんが城の様子を伺いつつ、この裏手側の抑えとして構えます」
「「「了解しました、殿下!」」」
まず僕達が取るべきは、城から逃げ惑いながら遠ざかろうとする動きだ。整然と遠ざかるよりも、そうした方が、たまたま魔物の城への特攻現場に遭遇して慌てふためいてるように見える。
「アイリーン、ペーマウ。できる限り隊を一度散らすように、城から動かしてください。まるで予期しない出来事に驚き戸惑い、とにかくめいめいバラバラに退避しようとしているように、ヴェオス側に見せかけます。合流ポイントはちょうど日が昇ってきているあの丘の向こう側です」
「了解だよ、旦那さまっ」
「ハッ! お任せを!」
二人とも、なんで? と聞いてこないので非常に助かる。早速とばかりに、僕達と騎兵さん達は隊列を解き、みんなバラバラになって走りはじめた。
・
・
・
『~~~ッ!!!』
ヴェオスは半壊状態の自分の城を見て歯噛みし、この上なく憤怒していた。
『ヴぇ、ヴェオス!
ドンッ、ブシュウウウウ!!
報告せんと部屋に飛び込んできた魔物の頭を当然のように吹っ飛ばす。
『見レば誰にデも分カる、クダらン報告ヲすルな、バカモノめ!!』
怒鳴り散らし、命尽きた首無し死体を踏みつけ、蹴飛ばす。ヴェオスは不快感の絶頂にあった。
『荒れテいるナ、ヴェオス』
『! バモンドウか』
『まァ、城ヲ破壊さレた気持ちは察すルが、どうスる? 部下に八つ当タりシてイる場合でハなイと思ウが?』
フンと鼻息を吹き、言われなくともと態度で示すと、一度落ち着かんとして椅子に座り直すヴェオス。
その様子を見ながら、バモンドウは部屋の入り口付近から歩み寄った。
『わかっテいル……だガ、まサかコレもメイレーの小細工―――』
『いヤ、そレはなカろウ』
バモンドウはしれっと策略のセンを否定した。
『先ほド、現場ヲ見テ来た、同時に城の周囲モ一通り眺メて来タが、西側に王弟ト妃ガ合流シていタ、王弟は恐らク、子爵領かラ帰ってキたところダろウ』
『ム……ツマリ?』
察しが悪い。出会った頃のヴェオスならばこれで十分だっただろう。バモンドウはいかにも残念だと思いながらも、言葉を続けた。
『おソらク、王弟の妃アイリーンは、帰っテ来る王弟の護衛ヲかネた出迎エ。そコに今回の
『なルほドナ、メイレーどモにとっテもマサカの事態ダった、トいうワけダ』
バモンドウは明らかに嘘をついた。ご丁寧にもアイリーン達が先導し、城へと魔物達を導くまできっちり見届けていたにも関わらず。
しかしそれをまた、疑いもせずに鵜呑みにするヴェオスもヴェオスである。バモンドウは、やはり
『……どうスる? 今なラば、西の王弟どモは容易く駆逐デキそうダゾ?』
『放っテおケ。所詮小勢だロウ? しカモ隊ガ砕けてイルのデあレバ、何ノ脅威にモなラン。それヨリも我ガ城に突っ込ンでキタ、カスドもヲ処分すルのガ先ダ!!』
配下の魔物は何百といる。その十数匹も向かわせれば王弟の小隊を葬るのに事足りる。実に簡単な采配だ。
だがヴェオスは、軍の采配というものすら忘れたらしい。数を活かす戦力配備ができない時点で、いくら個体で勝っていても敗北は必至だ。
『(愚カだナ、ヴェオス。ここデ王弟ヲ強襲シ、人間側最強のアイリーンとモども亡き者にすレば、コノ戦場の勝利は一気に得らレるト言ウのに)』
だからといって、バモンドウも王弟達に手出しをするつもりはない。ヴェオスを勝利に導くこと自体がもはや無意味だからだ。そして―――
『(―――もっトも……ココで王弟に死んデもラっテは困るガナ。
恐ろしいとばかりに身震いしながら、部屋を飛び出すように出たヴェオスの後について、バモンドウもその部屋を後にした。
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