第255話 計画の決め手を増やします




 メイトリムの事も気がかりだけど、あっちにはセレナがいるし、こっちはこっちで集中しなきゃ。




「(まず、城までの迂回ルート上に10人ずつ配置して、救出組の脱出時に合流と保護、ルートの安全確保を務めさせて、それから―――)」

 リジュムアータが<アインヘリアル・鳥>に持たせた “ お土産 ” のおかげで、僕達はあの城へと侵入、救出するルートを定めやすくなった。


 メイレー侯爵の軍勢がヴェオスの目を引き付ける反対側を、大きく迂回するように城の側面に回り込む。

 侵入はおそらく簡単に成功する。というのも、ヴェオスはあくまで目の前に展開してるメイレー侯爵の手勢5000にしか注意がいっていないようで、城の各所を見ても、前面への警戒や見張りはいるのに後方や側面にはほぼ兵を配置してる様子がないんだ。



「城に入り込むのは、アイリーンとヘカチェリーナ、それにメイレー侯爵から借り受けた8人の精兵さん達で、残りの僕達はこの地点で待ちます」

 王弟が関与しているって分からないようにする必要があるから、色々と誤魔化しの小細工もしつつ、リジュムアータを救出する。


 具体的には、アイリーン達は賊に扮して潜入し、リジュムアータを連れ去らうわけだけど、その際に火を放ったり動物の死骸の一部なんかを放り出したりして、リジュムアータが死んだような偽装を施してくる手はずだ。



「追手がかかったら、旦那さまのいる地点までに、振り切っておかないとですね」

「ええ、こちらは救護班も伴いますから、追手がつきますと逃げ切れません」

 アイリーンなら大丈夫だと思うけど、もしヴェオスが魔物をつかってきた場合は簡単にはいかないだろう。

 派手に暴れれば目立つから、普通の兵士も続々と集まってきちゃうし、そうなると僕達のこともバレかねない。




「殿下、もう少しこう、混乱を起こす方策などを盛り込んでみてはいかがかしら?」

「出来るのであればやれるに越したことはないですが……クララ、何か考えがあるのですか?」

「あの城外に置かれている敵方の兵士さん達に働きかける事ができましたら、混乱は大きくなるのではないかと思うのですが……」

 確かにヴェオスの1万5000の兵士は、内1万近くが城外でテント生活だ。


 上手く彼らが混乱状態に陥れば、それこそヴェオスはその手綱を取るので手一杯になるだろう。


「(混乱……かぁ)」

 人が大勢集まっているわけだから、混乱させること自体は簡単だ。

 それこそ火事の一つも起こせばいいだけ。でも……


「なるべく長引くような混乱を仕掛ける必要がありますが、何かいい手は―――」

 何気なく、城を眺めていた視線を回して辺りの景色を見る僕。

 すると、ふと視界の中に止まったソレを見て、僕はエイミーの言葉を思い出した。


 それはいつかの時、エイミーの生家跡を一望できる丘にアイリーンと僕とエイミーの3人で訪れた時のこと。

(※「第16話 猫撫でて側室めとります」参照)


 ―― こんな所にも “くしゃみ粉の草 ” が生えているのです ――



「……アレだ。うん、アレを利用しましょう」

「? 旦那さま、アレって何ですか???」

 一人で納得してる場合じゃない。僕はすぐに兵士さんを集めて、メイレー侯爵から借りてる兵士さんの中から、20名ほどを編成して、アレを探し集めるようにとお願いした。



 



――――――そして2時間後。



 バサバサバサッ!


 僕達の前には、20cmほどの長さの草が大量に積まれた。


「殿下、こちらでよろしいでしょうか?」

「はい、間違いなさそうです。お疲れ様でした皆さん、しばし休息を取ってください」

 ほどほどに乾燥気味のソレは、どうやら僕の思った通りに使えそうだった。


「殿下、これが “ ヘクペルシュン ” ? こんな草だったっけ??」

 ヘカチェリーナが近くにしゃがんで試しに1本手に取ってしげしげと眺める。


「あまり顔を近づけない方がいいですよ」

「? どういう事なんですの、殿下?? あの草には何か秘密が??」

 クララもこういう野草には詳しくないみたいだ。まぁ僕もエイミーに教えてもらうまで知らなかったんだけども。



「ヘクペルシュン草は、この時期は長く伸びた後、余分な古い部分をわざと枯らせるんです。雑草の一種ですけど、火を通せば食べられるんですよー」

 アイリーン曰く、傭兵時代に山の中で食糧が尽きたりした時、食べられる野草で飢えをしのぐに辺り、この草も食べた事があるとのこと。


 だからなのか、僕が食糧に補填する用でこの草を集めさせたと思ってそうな雰囲気だけど、もちろん違う。



「アイリーンは覚えてませんか? この草のこと、エイミーが何て言っていたか」

「? エイミーちゃんがですか? ……んー、んん? ……あっ」 

 あの時、アイリーンも一緒にいたからもちろん聞いている。


 確かにエイミーは、“ くしゃみ粉の草 ” と呼んでいた。


「獣人の子供がノドを詰まらせた時に使う粉薬の材料。作り方は非常に簡単で、乾燥気味の ヘクペルシュン草 を粉末にするのみ……でしたね、確か」

「「!」」

 僕の言葉に、ヘカチェリーナとクララが理解至ったらしい。

 アイリーンはそうですねー、と察してるのかいないのか分からないのほほんとした答えを返す。


「というわけでヘカチェリーナ、メイドさん達を動員して、この草の加工をお願いします。細かい飛沫が飛び散るようですから、口と鼻を塞いで作業するように注意を」

 何でも話は聞いておくものだ。

 まさかこんなところで、何気ない雑草のお話が役に立つだなんて、さすがに僕も思わなかった。





 だけどコレは使える。


 どれだけの量が用意できるのかにもよるけど、今回の件じゃ下手な武器よりもよほど有用な道具になるかもしれない。



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