第254話 その頃のマイドーターです


――――――メイトリム。



「うー、うっ……だーう」

「レイア様、とても大人しくていい子ですね……お父様とお母様がいらっしゃらないで、寂しくありませんか?」

 そう問いかけてくる人は、なんとハーフエルフ。ハイレーナさんって名前で、話てるのをなんか聞き耳たててる限りじゃ、お父様のお兄さんのお嫁さんの一人らしい。


「(まー、マイフェイバリット・パパとママがいない理由を理解してるから、普通の赤ちゃんよりかは寂しくないけど……寂しいとかよりは、心配って気持ちの方が強いかなぁ……)」

 正直、ハイレーナさんみたいなファンタジーな存在を実際に目の前にしてると、色々と好奇心が勝って、寂しさは完全に紛れてる。

 何よりパパ’sブラザーハーレムの方々が、ほぼ1日中誰かしら構ってくれてるし、スーパー母性バストのセレナお姉さまもいる。



 ……まぁ一番寂しさを紛らわしてくれてるのは、タンクリオンっていう少年を筆頭にした、ちびっ子たちなんですけども。


「(あの子達、めちゃ騒がしいからなぁ。シーンとしてるよりはいいけど、もうちょっとその有り余る元気は抑えてもらいたいなー)」

 前世で、夜中に外の道を爆音で走り回る迷惑なバイク乗りを思い出させる感じで、建物の外を大声あげながら走り回ってる。


 私はお姫様身分だから、あんまりあの子達と直接接触する事はないけど、さすがにオネムの時は静かにしてもらいたいと思う時もある。


 まぁ子供の内は元気有り余ってる、その気持ちは分からないでもないけどね。




  ・


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「う、うー……んぐ、んぐ……んぐ」

 アイリーンお母様がいないので、ここ数日の私の食事はもっぱらミルク。

 といっても前世みたいな粉ミルクとかはないから、普通の牛乳を薄めて温めてなんか色々しなきゃならないみたいで、用意が大変っぽい。


 この哺乳瓶も、ミルクが出る場所は柔らかい素材じゃなくて、これでもかと丸く滑らかに仕上げた木製だ。

 しゃぶった感触はよろしくないし、ミルクの風味も木の感じが混ざってちょっと微妙―――だけど文句は言わない。お世話してもらえる身分に生まれただけラッキーなんだから、多少のことは我慢しなくっちゃ。



「レイア様、ご自分で哺乳瓶を持てるようになったのですね」

「赤ちゃんの成長は早いですから、お誕生日も近づいて参りましたし」

「パーティーはどうするのでしょうね??」

「それまでにお城に帰ることができると良いのですが……」


 メイドさん達はちょっと不安そうだ。

 これまでの話を聞く限り、なんかお城……っていうか王都でなんかあって、今の私達は避難も兼ねた上で、ここに滞在してるんだけど、なんか国の西の方でも色々起こってて、それに御父様たちが対処に当たってる、っていうのが今の状況らしい。


「(メイドさん達も、まさか赤ちゃんが話を聞いてて理解しているとは思うまい。ふっふっふー)」

 どっちみち、こっちは赤ちゃんだ。話が分かったからって何ができるでもないし、大人しくお世話されているしかない。


 出来ることがあるとしたら、我儘いわずになるべく手がかからない良い子でいる事だけだ。



「失礼致します、ヒルデルト様がおいでになられます」

「! 皆さん、出迎えのご準備を」

「「はい」」

 王侯貴族は偉い人を訪ねる時、事前に “ これから行きますよー ” って―――えーと、なんていうんだっけこういうの? 

 確かさき……さきー……、そうだ、” 先触れ ” だ。


「(面倒な常識だけど、おかげでメイドさん達は事前に準備ができるわけだもんね。まー、私は赤ちゃんだから、なにかやらなきゃいけない事はないし、このまま哺乳瓶吸ってればいーんだけど……)」

 けどこれから来るのはあのセレナお姉さまらしいから、ちょっとだけ意識しちゃう。


 セレナお姉さまは、ある意味私の理想的なタイプなんだ。こういう感じの大人になりたいっていう憧れ、みたいな。


「(哺乳瓶、よし……服も、よし……どこも汚れたりしてないよね?)」

 赤ちゃんの私は、出迎え準備っていっても自分の服とか汚れたりしてないかチェックするくらいしか出来ないわけだけども、そこはやっぱり女の子ですから気になるポイントですとも。



「失礼致します、レイア様。お元気にしていらっしゃいましたか?」

「ぁーう! だぅー、キャッキャ♪」

 おおー、何度か見た事あるけど、やっぱり鎧姿カッコイイなー。

 でっかいおムネっていうのもあるけど、重厚な金属とそれに見合うデザインが凄い。


 ……っていうか、何でいわゆるビキニアーマーがベースになってるんだろう……?


「レイア様は、セレナ様がお好きですね」

「ええ、いつもご機嫌になられます……もともとあまりグズらない御方ですが」

「アイリーン様と通じるものを感じられているのでしょうかね?」

「確かにアイリーン様もかなり大きい方ですし……やはり哺乳瓶のミルクでは、どこかご満足なされていらっしゃらないとか?」


 メイドさん達がこそこそ話をしてるけど、まぁ当たらずとも遠からずですな。


 実際、赤ちゃんの味覚だからか、マイマザーのオッパイがまだまだナンバー1なのは事実だし。


 ……まぁ、いくら大きいっていってもセレナお姉さまは出ないでしょうなぁ。


「(うん、凄い迫力なのは事実。赤ちゃんの目線だからか、余計に巨大に思えるのかもだけど、なんかこう、おっきなクッションとかベッドとかに飛び込んでみたい衝動と同じようなものを感じるよ)」

 私もあのアイリーンママの血を受け継いでいるわけだし、大人になったらこのくらいのレベルにワンチャンなれるかな?



 なんて事を考えながら、私ことレイアは、今日も平和な1日を過ごさせていただいてます……まる、っと。




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