第252話 迫る距離と迫る限界です
応接室で、まず僕がソファーに座り、その左横で王弟第一妃のアイリーンが隣あって座っている。
右横はクララで、メイドに扮してるシェスクルーナはヘカチェリーナと一緒に僕達の後方に並んで待機。その左右にお供の護衛兵士さんおよび護衛メイドさんの一部が固めてる感じだ。
最初、アイリーンが大人しくなったのを訝しがっていたクララ達だけど、僕が窓辺で何やらゴニョゴニョ言って、アイリーンを大人しくさせた結果だと納得してる様子。
「(まぁ、アイリーンは今、<アインヘリアル>で作った鳥を操作するのに集中してるからね)」
もちろん一石二鳥を狙ってのことだ。
一応、こっちの事もちゃんと見聞きしてはいるけど、鳥の操作に意識を割いてるから、アイリーンがこの場で暴発することはない。
王弟妃である彼女は、こういう場ではニコニコ笑ってればいいので、会話の必要もないから、<アインヘリアル・鳥>の操作を頑張ってもらうので丁度いい。
「(強いて言えば、武装した姿でソファーに腰かけ、ニコニコしてるのがちょっと不気味かもだけど)」
アイリーンのスキル<アインヘリアル>は、クララ達にも内緒にしてるからどうしてもコッソリになるのは仕方ない。
だけどこれで、このお城の事が少しは詳しく分かるだろう。
そして、少しして……
「お久しぶりですな、殿下。我が城へよくお越しくださいました」
応接室にヴェオスが入室してきた。
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一方その頃、城の外では……
<―― うーん、小城だと思ったけど、結構広いなー……覚えきれるかな? ――>
小鳥の姿の<アインヘリアル>が、城を見回るように飛行していた。
<―― 開けっ放しの窓も多いし、侵入できるとこは多い……あーん、紙に書き留めたいよぉ~ ――>
ちゃんと覚えられるか不安を抱えつつも <アインヘリアル・鳥> は、アイリーンの五感を宿したまま、隅々まで回れるだけ回る。
さすがに内部の奥深くまでは難しくとも、開けた回廊や窓から出入りしながら、城内の様子も探っていった。
<―― 外見と違って中は部屋数も少ないし、いかにも砦って感じだなー。自分達の居住場所と見栄えだけ整えてるみたいな……んん? ――>
不意に、妙な違和感を覚える。それは城の中層階の下から数えた方が早い低層の外を飛行していた時だった。
<―― あそこだけ、なんか窓の造りが違う? ――>
窓の位置からそこに部屋があるのは理解できる。それが整然と横に等間隔で並んでいるわけだが、何故か
すぐさま<アインヘリアル・鳥>はその窓辺に降り立つ。壁を貫通する窓の形状自体は他と同じだが、やはり塞いでいるのは隣や他階層の部屋の窓とは違って、木製の戸ではなく金属の格子だった。
その隙間から中を覗く。そこには―――……
「……」
黙したまま、座っている人物。異常に伸びた自分の髪の毛でほとんど埋もれているが、辛うじてそれが人であることが分かった。
<―― もしかして……ねぇ、ねぇ、そこのアナタ ――>
「……。……――これは奇怪。誰が話しかけてきたのかと思ったら、喋る鳥とは珍しい。ボクもついに幻聴が聞こえだしたのかな、フフ……」
ハッキリとした口調。しかし、どこか弱々しくて今にも事切れそうな危うさすら感じてしまう。
<―― こんなところで何してるの? ――>
「……何をしてる、か……。詳しく語るには、ちょっと長くなってしまうけれど、そうだね……端的に一言で述べるなら、やはり “ 囚われの髪長姫 ” をしている、なんて言うのは答えとして洒落すぎているかな……?」
<―― ……動けないの? ――>
「ええ、残念ながら。重い足枷を付けられているけれど……それとは無関係に、ボクはもう、自分で立って歩くことすら出来ないくらいに弱ってしまっているんだ……枷がなくても指一本動かせないよ、トイレも垂れ流しだからね……臭う?」
<―― 酷いね…… ――>
「それはもう、ね。……果たして、このままさっさとくたばってしまうのがいいのか、なおも生にすがりつき続けるのがいいのか、分からなくなってくるよ」
そう言って静かに目を閉ざす相手に、何か言わないとそのまま死んでしまいそうな気がして、<アインヘリアル・鳥>は慌てて問いかけた。
<―― あ、あなたのお名前はっ? ――>
「……ふぅん? ボクの名前を問う……か。……フフッ、どうやら……かなり近づいてきているんだね……でも、……うん、まだ先……かな」
<―― ??? ――>
「ああ、ゴメンよ……ボクの名前、だったっけ。“ あと1週間くらいは踏ん張ってみるけど、それ以上はさすがにもう旅立ってしまいそう ” って、リジュムアータが言っていたと、王子様に伝えておくれ、鳥さん」
<―― !!? え、え、ど、どうして…… ――>
「その反応……鳥さんはアイリーン妃のスキルかな? せっかく来てくれたのに、伝言だけ頼むのは申し訳ないから……う、く……ぐ……ぅう……ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……コレを、お土産に持っていって……はぁ、はぁ、はぁ……」
机の上にある、わずか30cm先の紙1枚とるのにも苦労し、息を切らす。
リジュムアータの体力は、もはや高齢の老人以下になっていると言え、その命は相当に危険な域にあるのは明らかだった。
「こうして、ふぅ、はぁ……ふぅ……丸めれば……遠目には小枝を、咥えているようにしか見えないだろう……はぁ、はぁ……はい、どうぞ」
<―― ……必ず、助けに来ますから、頑張ってください! ――>
「フフ……期待して待ってるよ、鳥さん……」
丸めた紙を受け取ると、<アインヘリアル・鳥>は窓辺から飛び立った。
その姿を見送りながら、リジュムアータは息を小さく潜め、その残り少ない生命力を維持せんと、まるで死人のように静かになり、ゆっくりとその瞳を閉じた。
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