第251話 悪者のお城です




 後日、僕達は王家の紋入りの馬車で、メイレー侯爵の手勢5000の陣に訪れた。


 クワイル領からは結構な距離があったけど今回は僕と、護衛役にアイリーン、状況や情報の把握役にクララ、そしてヘカチェリーナと彼女に別人かと思うほどメイクアップされてメイド変装したシェスクルーナの5人。

 それに加えて護衛の兵士さん30人と護衛メイドさん3人と、比較的こじんまりとした陣容で来たから、2日で到着する事ができた。




「なるほど……この位置からでも見えるとなると、確かに結構な大きさですね」

 ヴェオスが築かせた拠点は、一時的とはもはや言い難いレベル。

 完全に砦の域も越え、西へと向かう大街道を封鎖するように鎮座した城だった。


「大胆不敵ですわね。……ですが殿下、あのお城……少し形状がおかしくありません?」

 クララが眺めながら不思議そうに言って、僕達はあらためて城を観察した。


「……あー、なるー……クララっち、よく一目で気付いたねー」

 ヘカチェリーナが感心する。


 尖塔に外壁、途中に外部階段なんかも見える。

 さすがに装飾的なものは見当たらず、全体的に武骨な雰囲気だけど、パッと見でヘンに思えるのはそのくらいだ。


 けど、まだよくわからなさそうにしているシェスクルーナに、解説するように紡がれたクララの言葉は、意外なものだった。



「あのお城……最外壁・・・がありませんの。堀も見当たりませんし……あれでしたら、城どころか砦としても失格ものですわ」

 言われて僕もハッとした。


 確かに、お城にベッタリとくっつくように設けられてる外壁はあっても、全体を囲う、一番大外の外壁がない。


 そもそも拠点としての城や砦の防衛時の本命は、一番強固に作られる分厚い囲いの壁、つまり最外壁だ。

 ここで敵を食い止め、迎撃するのが基本になる。


 内部はどちらかといえば軍や偉いさんの生活空間といってもいい。もし最外壁が突破された場合、その入り組んだ建物内部を利用して侵攻戦力を分散、確固撃破する……これが基本的な戦い方になる。


 なのにあのヴェオスの城には、防衛拠点としてもっとも大事な、一番外の最外壁がないんだ。


「まるでどこからか城を持って来て置いただけ、というような建て方ですね、あれでは」

「ほえー……そういうものなんですかー。お城っていうのも奥が深いんですねー」

 良く分かってなさそうに感心してるアイリーン。

 これから乗り込もうという場所ながら、緊張感はゼロだった。うん、頼もしい。




  ・

 

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  ・




「ようこそいらっしゃいました、王弟殿下御一同におかれましては―――」

「挨拶は不要です。マックリンガル子爵・・・・・・・・・に取り次いでください」

 ヴェオスの城の入り口。


 僕達はすぐにこの城のみならず、ここに詰めてる1万5000の兵士達の妙に気付いた。


「(城内ではなく、城外に……)」

 これだけの規模の建物になれば、全軍でなくとも1万くらいは中に入れていて当然。だけどむしろ城の外にテント張ってたむろさせてる兵の数の方が1万以上いる感じだった。


 加えて……


「旦那さま、なんだか兵達は、随分と疲労してる感じでしたね……」

「……ええ。彼らはあまり、よい待遇を受けてはいないようですね」、

 こっそりとアイリーンが耳打ちするのに返しながら、案内された応接室に入る。


 外見だけでなく、城の中まで割と豪華な造りだ。


 内部にも兵士達の姿は散見されていたけど、民兵丸出しでまったく兵士としてなってる様子はなく、豪華な城内の壁際にへたりこんでるだけ。


 何というか、場所はお城だけどスラムのような雰囲気を感じた。




「こちらで少々お待ちください」

 そう言って、案内人は応接室から立ち去った。


 もう一つ、分かった事がある。

 いまの案内人……どうやら人間じゃないっぽい。



「シェスカ、今の方に見覚えはありませんか?」

「……い、いえ、知らない人です」

「という事は、ヴェオスの側近の魔物が化けている、と見て間違いなさそうですね、さっきの案内人は。もし元にしろ、マックリンガル家の家人であったなら、シェスカが覚えていないという事はないでしょうし」

「つまり敵の大将は、やっぱ魔物を側近に置いている、ってことね」

 僕達4人の緊張が高まる。

 だけど一人だけ違う意味で緊張を高めてる困ったちゃんがいた。


「……」

「アイリーン、アイリーン」

「はいっ、何でしょうか旦那さまっ」

「普通に戦う気満々になっていますが、今回は戦いませんよ。忘れないでくださいね」

 うん、ウチのお嫁さまは一人だけやる気満々になってましたよっと。



「わ、分かっていますよう。忘れていませんっ」

 とはいえ、思いっきりビキニアーマー姿で帯剣してるから、ちょっとのきっかけで暴発しそうで怖い。



「(よし……ちょっと冒険してみるかな―――)―――アイリーン、ちょっと」

 僕はアイリーンだけ応接室の隅っこに呼んだ。


「(なんでしょうか、旦那さま??)」

「(<アインヘリアル>で “ 鳥 ” を作り、その窓から飛ばしてこのお城の様子を探ってみてくれませんか?)」

 アイリーンは日頃の努力の結果、固定的だけどアイリーン自身の姿の他に、鳥と狼の姿を<アインヘリアル>で形成できるようになった。


 ただアイリーン自身とは違って、形状が自分とはかけ離れてるモノともなると、そっちの操作に意識を集中しなくちゃいけない。




 ちょっと戦闘に掛かり気味な今のアイリーンの気勢を削ぐ意味でも、この城を詳しく知る意味でも、僕は彼女にミッションを課した。




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