第242話 その荷物に手を出してはなりません




 メイトリムに帰ってきたセレナは、結構な集団を伴っていた。

 王城にいた四夫人の側用人たちや侍医、それに200人の護衛兼物資輸送の隊だ。




「セレナが機転をきかせてくれたおかげで色々と助かりました。特に兵士さん達の食糧物資は少し不安になりつつありましたので、良いタイミングでしたよ」

「王城の宰相閣下が、ちょうどこちらに夫人の使用人の方々を送るに辺り、道中の護衛をどうするか悩まれておりましたので、この機に私の権限でご用意出来るものも含めまして持ち出して参りましたが……まだまだ不十分かと」


 現在の兵数は約2600人。

 セレナが運び込んでくれた食糧物資のおかげでもう2ヵ月は食べさせるのに困らない。


 だけど一時的な運び入れだ。


 王都圏防衛の食糧の余り分の、そのまた極一部をツテで貰えたとのことだけど、継続的に引き出すのは無理だろう。

 そんな事したら、それこそ貴族諸侯に睨まれる。



「(とりあえず、ルクートヴァーリングから物資の輸送を出してこれると仮定して……やっぱり道中だなー、問題は……)」

 とりあえずルクートヴァーリングから王都の僕の離宮に運び込んで、物資を貯め、そこから改めてこのメイトリムに運ぶ。

 そうする理由は今の王都の流通が乱れてるからだ。


「……王都までの道中の危険もそうですが、王都内も問題なく運べるかは不安ですね」

 つい呟きもらしてしまう。


 場合によっては運んでる最中にどこかの貴族が絡んできて、荷を奪われる、なんてハプニングが起こるかもしれない。


 何せ先の動乱で潰されなかった貴族達が乱れた流通網を保護するとか言って、勝手な真似をしてるらしい。

 利権狙いな魂胆みえみえだけど、それが1人や2人じゃなく、何人も同じような真似をしてるもんだから、王都内の流通網は縄張りで割れてる状態。もちろん何の許可も権利もない非正規行為で、完璧に反社会的マフィアな活動だ。



 そんな僕の不安をかき消すように、セレナが後ろから僕を抱きしめ、嫋やかに頭を撫でながら言った。


「殿下、御心配には及びませんよ。そこにつきましても手を打って参りましたから」






――――――その数日後、王都の大通り。


 ヘカチェリーナがルクートヴァーリングで手配した物資輸送の第一陣が、王都へと到着した。

 

「! おい止まれ、どこの荷馬車だお前ら。この辺りの物流はジェレック侯爵様が管理保護されている。勝手な荷物の運搬は許可されん、馬車ともども荷物を全て没収する!!」

「ほー、そんな権限が侯爵様におありで? しかもこの荷を強奪すると……それは随分と酷い話ですなぁ」

 御者の獣人は、余裕の態度で絡んできた男達を睨み返した。


「なんだ貴様、その態度は! 俺達に逆らうってぇことがどういう事か分かっちゃいねぇのかぁ? 侯爵様を敵に回し―――」

 刹那、男達を取り囲む影が多数。兵士の恰好をしてはいるが、その動きは尋常ではなかった。


皇太后様の・・・・・荷駄を奪おうとする不届き者ども、成敗する」

「へ!? ちょ、な……うぇっ!!?」



 それはシャーロット率いる秘密諜報組織 " 眠ったままの騎士団スリーピングナイツ " の面々であった。





  ・


  ・


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「シャーロット様と国王陛下のご協力を受けることができましたので、むしろ殿下の荷馬車に手出ししようと致しましたなら、有無をいわさずひっ捕らえる事ができるように計らう、とのことです」

 どうやってそれを実現できるかはセレナには分からないだろうけど、僕には分かる。


 シャーロットはたびたび母上様の代役をやってるし、たぶんその辺を利用するんだろう。

 何せ皇太后の荷物を・・・・・・・奪ったってなったら、それこそ責任問題で御家お取り潰し確定コースだ。


 実際、王都の一角に縄張り張ってたジェレック侯爵がその罪を問われて後日潰されることになった。


 このおかげで、行き交う荷馬車のどれが皇太后関連なのか分からない。

 王都の物流・流通を握ろうとするお馬鹿さん達は、安易に手出しが出来なくもなる。



 兄上様おうさまからしても王都内のインフラ正常化に向けた一手になるから、この策は快諾したことだろう。


「(王都に入る前、僕の輸送隊に皇太后シャーロットの " 眠ったままの騎士団スリーピングナイツ "の人達が兵士を装って密かに護衛につく……絡まれたら即座に相手を囲み、皇太后の名でもってぶちのめし、絡んできた連中の上司に責任を追及するっと……よく考えたなぁ )」

 実際にこれが行われるとしたら、母上様も自分の名を貸すのを承諾したはずだ。だけど母上様が考えた策とは思えない。


 どっちかっていうと母上様はニコニコしながら水面下でこっそりぶちのめす感じで、往来で堂々と目立つ策はあまりしないイメージだ。


「(シャーロットが考えたなら大したものだけど……もしかして?)」

 ふと、僕はメイトリムに到着したルクートヴァーリングからの運搬の試験を兼ねた輸送の第一陣に、タンクリオン達少年らの姿はちらほら見えるのに、ヘカチェリーナの姿がないことに気付いた。






――――――同時刻、ファンシア家。


「へっくちゅ!!!」

 咄嗟にティーカップの中身をこぼさないよう、すぐさま皿の上に置き戻したヘカチェリーナは、盛大にくしゃみした。



「大丈夫ですか、ヘカーチェちゃん? 風邪?」

「んー……たぶん殿下あたりがウワサしてんじゃない? シャロちゃんに入れ知恵したって気付かれてそー」

 そう言ってケタケタ笑う。ようやくヤンチャな少年少女タンクリオン達から解放されて一息つけると、あらためてティーカップを持ち上げ、ゆっくりとお茶を味わった。



 

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