第233話 人が増えれば必要な物も増えます




 とにもかくにも、僕の手元には合わせて2400の動かせる兵士が出来た。

 だけど、たったの2400じゃ何か出来るというものでもない。



「とりあえず、このメイトリムの拠点としての防衛力を合わせまして、安全の確保が確実になった……という程度でしょうか?」

「はい、殿下。残念ながら積極的に動かして何かを成すには、数として少ないと言わざるを得ないのが現実かと」

 この場で一番軍事の専門家であるセレナじゃなくても分かる、最低限の戦力。


 ただこれまでの事を考えれば、格段にマシにはなる。

 今までは500足らずで防衛と周辺の賊徒討伐なんかをやって安全確保してた。アイリーンが昼夜頑張ってくれたおかげで、ほとんど兵士さんを損耗することなくやってこれたけど、今後、メイトリムの防衛とその周辺地域の安全維持はより固められる。




「メイレー侯爵とマックリンガル子爵のそれぞれの軍の動向はその後、どうなってますか?」

「一番新しい情報ですと……メイレー侯爵は街道のマックリンガル子爵の軍を睨む5000の兵を維持したまま、領内に発生した魔物への対応も行っていらっしゃるようですわ。子爵の軍の方は、大街道に陣固めを進めているようですわね。今の所、強引にメイレー侯爵の軍とことを構えようという雰囲気はないようですわ」

 クララが届いた情報の文章などを見ながら要点をまとめ、提示してくれる。とりあえず現状は、ひとまずは小康状態ってことだ。


「やはり問題はメイレー侯爵の領地、ユーラーン地方で発生したという魔物の群れでしょうね。元々、魔物が出没しやすい地方で、メイレー侯爵は戦い慣れている方だとは聞いていますが……」

「ですねー。あの辺りって、鬱蒼とした森林だったり山や谷が多かったりで、魔物が隠れ住みやすいからか、すぐどっからかやってきて住みついちゃうらしくて、かなり昔から、小規模な魔物の群れが断続的に出るので傭兵の間でも有名でした」

 アイリーン曰く、だいたいの傭兵はまず、駆け出しの頃に戦い抜いて生き延び、魔物に対抗するコツを掴んだ脱見習いが、次の試練として挑戦するのがこのユーラーン地方に出没する魔物の群れの討伐依頼らしい。




「見習い傭兵や冒険者が挑戦するということは、出没するという魔物はそこまで脅威ではないのです??」

 首をかしげるエイミー。その隣でヘカチェリーナに抱っこされてるレイアも、真似っこするように首をかしげようと身体を傾けてる。可愛い。


「うーん……それが本当にピンキリなんですよねー。だいたい7割くらいは、パーティ組んで当たればそれなりの腕と知識で何とかなるんですけど、3割ほどはハズレ……もちろんその場合は、生還する確率は一気に下がりますから、ここで命を落とす見習いは少なくはないって感じですね」

 アイリーンの言い様だと、かなり危険な群れが出ることもありそうだ。

 ここに誰かが意図的に手をいれられるとしたら、そのかなり危険な群れをけしかける事もできるかもしれない。


「なら、今回のユーラーン地方での魔物の群れの発声も楽観視は出来そうにないですね。となりますと……」

 実は、僕達もあまり人に構ってる余裕がなかったりする。

 手持ちの兵士さんの数が増えたのはいいけれど、そうなると今度は兵站―――つまり食べ物をはじめとした物資の問題が出て来るんだ。




「(やっぱりどうにかして、僕のルクートヴァーリング地方から、いろいろ引っ張てくる手立てを整えないといけないなー)」

 王都の混乱が、兄上様達や母上様らが動いて沈静化に向かってるのは知ってるけど、完全に落ち着くにはもう少し時間がかかる。


 というのも、どうやら魔物の王城襲撃に乗じて動きだした貴族諸侯は、王都の物流や流通面を水面下で奪い合ったらしく、その結果、王都と王国各地との流通網はかなりカオス状態になってるらしい。


「(直接、腕ずくで軍事行動とかじゃなくって、利権を押さえて政治的に有利になろうとした、ってとこかな)」

 しかもその動きは物流・流通だけに留まらない。占有することで大きな利権が見込める社会インフラや事業、商売などなど……そういったところを、王城が動けないこの好機にとばかりに、おさえようとしては反王室派貴族同士で奪い合いの醜い争いをしたようだ。


 それは相手がまったく連携も何もなく、貴族単位で活動していたってことになる。おかげで兄上様達や母上様達がこうした迂闊な貴族達を取り押さえるのはスムーズに進んだわけだけど、王都の社会そのものを支える様々な仕組みが乱される結果になったわけだ。


「(その辺は兄上様達に頑張って修復してもらうしかないんだけど、でも最低限、インフラの混乱がおさまるまで、僕の方は待ってはいられないな……)」

 2400を飢えさせるわけにはいかないし、かといってその食料物資もクワイル男爵に賄ってもらうわけにはいかない。メイトリムを借り受けたことで貸し借り関係は限界に達してる。





「(んー……。……よし、少し試してみよう―――)―――アイリーン、タンクリオン君達に少しお願いしたい事があるのですが」




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