第234話 妃将軍と専属メイドの旅々です
――――――王都、王弟の離宮。
「おー、ここが殿下の別荘かー」
「さすが王子さまは違うねー」
「べっそー!」
わいのわいのと騒がしい少年少女ら。離宮を守っている獣人達は戸惑いながらセレナに問いかけた。
「あの、ヒルデルト閣下……これは一体……?」
「フフッ、殿下の特使ですから。丁重に対応してください。……はい皆さん、騒いではいけません、一旦集合してください」
セレナがそう言うと、離宮の庭のあちこちで好き勝手してた7人は、すぐに駆けよって来る。そしてビシッと2列を成して並んだ。
「「「はいっ、おっぱいねーちゃん!」」」
「お、おっぱ……ぶふっ!!」
同行するヘカチェリーナが思わず噴き出す。
確かにセレナのバストは、それはもう見事なものなのは事実だが、さすが子供達は遠慮がない。
ただ、その無礼な呼び方を他でもないセレナ自身が許していた。
「(傍目から見るとほんと母子みたいな感じだけど、子供らから “ねーちゃん” 呼ばわりが、たぶん年を気にするセレナ姉の琴線に引っかか―――)」
「……ヘカチェリーナさん、何か?」
「へぇ!? な、なんでもないし!?」
はっきり言ってセレナは若い。その容姿は10代と言ってもたぶん通用する。しかし、いくら容姿に優れているといっても彼女もやはり女子。
鎧姿ではなくドレスの貴族淑女姿な分、母性と包容力が普段よりも5割増し。少年少女らの呼び方はともかくとして、慕われ、従われるのは当然だった。
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「なるほど……ここを中継地とし、ルクートヴァーリングから殿下の元へと流通経路を確保する、と」
現在、離宮の維持・守護の担当責任者を務めている鷲獣人のヒークォムは、歓待の食事にタンクリオン達ががっついている間に、セレナとヘカチェリーナから話を聞いていた。
「ええ、それが殿下の御心です。後ほど王城にも話を通しますので、すぐにも事は動き出すことでしょう」
「かしこまりました、大量の物資の一時保管場所の確保と護衛、そして殿下の元へと送り出す体制を急いで整えましょう。すぐにルクートヴァーリングの仲間にも要請し、この離宮の人手の増員も手配しておきます」
離宮の守り手たる獣人達は、一定のスパンでルクートヴァーリングと人員の入れ替えを行うローテーションを組んで行っている。
なので今は担当責任者はヒークォムだが、次のローテーションでまた責任者が変わってしまう。
なので他の者にもこの話を通し、全体で共有した上でローテーションの組み換えが必要だった。
「その辺りにつきましては、ヘカチェリーナさんがこの後、ルクートヴァーリングの方へと出向いていただく事になっておりますから、どなたか獣人の方に同行いただいければスムーズに事が運ぶでしょう」
「その事なんだけどセレナ姉ぇ~。ホントにアタシ一人でこのコら連れて、行かなきゃダメぇ~?」
セレナ相手とは違って、ヘカチェリーナには遠慮のないタンクリオン達。
特に少年らは子供じみたセクハラで絡むのが当たり前で、ヘカチェリーナのメイド服は常に乱されていた。
「ええ、私は王城の王様と宰相様の方に話を通しにいかなければいけません。それにアイリーン様がいらっしゃるとはいえ、メイトリムの兵の指揮を執る必要もありますから、私はあまり遠出するわけにはいきませんから」
タンクリオン達が今回の旅についてくる事になったのは、他でもない殿下の差配だ。
メイトリムには、宰相閣下夫人たちがいるのでその安全を担保する意味でもアイリーンは動けない。
加えて2000以上の兵士が入ったことにより、キチンとした指揮官が必要になる。王弟殿下も、さすがにその辺りに関しては素人で、イザという時に2400人を上手く動かすことができるかは不安が残る。
だが、今回の流通線を実現する上でルクートヴァーリングに話を通しに行くには道中の安全確保も必要……そこで白羽の矢が立ったのが、他でもないタンクリオン達だった。
「普段は
「頼りになるっても~……。っ! こらまたぁっ!! ―――行き帰り道中ずっとこの調子とか、ハードワークにもほどがあるってぇ……」
ちょっと隙を見せればすぐに短いスカートがはためき、胸元がこじ開けられそうになる。
ルクートヴァーリング地方を代行で治めているのは他でもない、ヘカチェリーナの父であるコロック氏だ。
話を通し、地理的にも馴染みがあるヘカチェリーナが最も適任なのも確か。
セレナはクスクスと笑う。
「イタズラは子供達から信頼されている証ですから、頑張って」
「マジですか~……くぅ~……」
さすがのヘカチェリーナも子供には敵わない。
こうして混乱が収まりつつある王都の中、セレナは王城へ、ヘカチェリーナ達はルクートヴァーリング地方へ向けて行動していった。
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