第225話 集う王弟ファミリーです




 その後、クワイル男爵に諸々の状況説明と協力要請を取り付けた僕は、メイトリムの村を正式に王家直轄として借り受ける事に決めた。




 クワイル男爵には大きな借りを作ることになっちゃうけど、王都西隣に領地を構える貴族だから繋がりを強めておくことに損はない。

 何より実利的に見ても今後、このメイトリムは王国西方に対する王都の防波堤……あるいは橋頭堡きょうとうほとして機能させたかった。



「(男爵自身は頼りないけど悪欲を抱くタイプじゃないし、今は王都の状況も西側もうかがえる場所は必須だしね)」

 メイレー侯爵が “ マックリンガル子爵 ” ことヴェオスの軍勢に大街道で立ちはだかってくれてるらしいけど、彼の領内で魔物が暴れてるという情報も来た。


 明らかにその暴れてる魔物はヴェオスの差し金なんだろうな。


「(援軍を送りたいとこだけど、手元にそんな兵力はないし……うーん)」

 僕のルクートヴァーリング地方とスムーズにやり取りできればいいんだけど、今の状況じゃ兵の1000も用意して送ってもらうのでさえ何か月もかかりそう。

 短期的な観点じゃ、自分の庭は頼れない。


 かといって、今日到着予定の組織残党狩りから帰ってくるセレナ達を加えても、すぐ戦える戦力は500もないし、さすがにクワイル男爵にこれ以上戦力を貸してもらうのも借りを作り過ぎだ。

 この領地内に巣食っていたあの組織 “ ケルウェージ ” を潰したことでこっちが与えた恩があるとはいえ、それと相殺する以上の借りを作るのはさすがに控えないと。


「(さーて、どうしよう?)」







 その日の午後、僕はアイリーンやレイア、エイミー、クララを伴って、村の西側に立っていた。宰相夫人達から代表してヌナンナ夫人が、さらにシェスクルーナも一緒だ。


「! 殿下、皆様……これは御皆様自らのお出迎え、恐縮至極でございます」

 先頭で馬にまたがってたセレナはすぐに降りて僕達の前まで馬を引いて歩き、手前で膝をついて頭を下げた。


「よく無事に戻りました、ヒルデルト妃将軍およびその旗下200名。長らく任務のほど、大義です」

「ははっ! ありがとうございます、殿下」

 儀礼めいてるけど、並み居る王室の人間を伴っての出迎えは、それだけ大きな意味がある。

 セレナ達を本当に労う意味で、僕が今取れる公式での最上級のいたわり方と出迎え方だ。


「さぁ、頭をあげてください。皆さんお疲れでしょう、村にて食事などの用意もさせていますから、まずは此度こたびの任と移動の疲れをゆっくりと癒してください」




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 色々あって手持ちの戦力を再編した結果、セレナが合流した上での僕の手元には兵士さんが400、護衛メイドさんが50、一般メイドさんが30といった具合になった。


「アイリーンが頑張ってくださったおかげで王都までの街道治安は向上いたしました。ですが動かせる総兵力は500もないのが現実です。このメイトリムをクワイル男爵より借り受けましたから、しばらくはここを拠点として行動することができますが、皆さま・・・を守らなければなりませんから、余分に割ける戦力は皆無といってよいでしょう」

 夜、兵士さん達を慰労の宴で歓待させつつ、僕は別室でセレナに現状を説明する。


 西側の大局、王都の現状、“ マックリンガル子爵 ” の正体とこのところの動き、シェスクルーナの保護と今後の方針、そして現状で動かす事のできる僕達の手持ちのカード……


「……」

 それらを聞いた上でセレナは、落ち着いた様子で考え込む。


「僕としましてはメイレー侯爵の頑張りに応え、少数でも援軍を送って差し上げたいところです。しかしながら割ける戦力は先にも述べました通り現在、皆無といっていいでしょう」

「加えまして、野にシェスクルーナ様の血に反応する魔物が存在する可能性があり、ソレがいつ襲いくるやもしれないとなりますと、ここメイトリムより動くは不可能―――ですね?」

 その通りと僕は頷く。とにかく動かせる手持ちがない。

 宰相の兄上様の夫人達を守らなきゃいけないし、何よりキュートロース夫人が妊娠中。メイトリムの戦力はむしろ足りないといってもいいくらいだ。



 その意味で言えば僕の持つ最強のカードであるアイリーンは絶対にこのメイトリムから動かせない。

 実際、アイリーンにはキュートロース夫人らのお茶会に、レイアを連れてよく参加してもらってる。


 表向きは、経験者のアイリーンと話をかわすことで、妊娠による日々の不安を和らげてもらったり、お産に向けて色々と参考になる経験談をしてもらったりと、精神的なケアのためって感じだ。


 けど実際は、急な襲撃なんかがあった時に備えて、宰相夫人らの守護のためっていう、警護の意味合いが強い。


「(セレナが帰ってきたことで、僕のまわりはセレナと兵士さん達で固めることができてるし)」

 ちなみにクララ、エイミー、シェルクルーナの3人も僕と一緒にセレナに守ってもらう組で、基本は常に近くにいる事を意識してる。



「それでセレナはどう考えますか? メイレー侯爵に少数なりとも援軍を送るべきかどうか……」

 おそらくメイレー侯爵は自前で魔物に対処することはできる。聞く限り、まだ侯爵には持ち出せる戦力があるようだし。


 だけど侯爵の力がズルズルと疲弊させられるのは避けたい。それに自発的に頑張ってくれてる以上は、王弟としてその頑張りに報いてあげたいとも思う。



「難問ですね。援軍を送るとしましても、最低3000ほどのまとまった数でなければ、戦力的にも政治的にもあまり効果的とは言えません」

「王都の兄上様たちにお願いし、多少の戦力を引っ張りだす事も考えましたが、やはり難しいでしょうか?」

 手紙では、愚かな貴族達はかなりおさえられたとのこと。けどやっぱり一部の有力な貴族がガンコな汚れよろしくな感じらしい。


 3000、とまではいかなくても1000でも欲しいとこなんだけど……



「難しい、と言わざるを得ないと思います。行動を起こした反王室派貴族らがどのような手段や行動を王都にて取っているかにもよりますから、こちらからでは何とも言い難いですが、王都圏の防衛戦力は2万少々……、王城にいた戦力を含め、更にかき集めましても常時動かせる数は3万に足りるか否かでしょうから」

 そんなにいるならその1割くらい―――と思いがちだけど、王都は広い。

 満遍なく睨みをきかせる、調査する、あるいは対応するってなると3万でも最低限って感じだ。


 僕のお願いなら家族は無理をしてでも捻出はしてくれるだろうけど、その分王都の乱れを鎮静化するのが遅れてしまう。




「ふぅー……なかなか状況は難しいですか。やっぱり時間はかかってもルクートヴァーリングから引っ張って―――」

『し、失礼致します殿下、閣下! 火急のご報告が!!』

 部屋の扉の向こうから、緊迫した兵士さんの声がする。


「許します。入室し、何事か速やかに述べなさい」

 セレナの許可を経て扉が開き、兵士さんが膝をついた。




「たった今、街道の見張り台より伝達があり、謎の集団が王都側よりこのメイトリムに近づいているとのこと。その数およそ2000、旗は見当たらず……とのことです!」




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