第222話 ようやく黒幕判明です




 貴族の令嬢、とは思ってた。けどまさかまさかの名が出てきた時、僕もさすがに驚かずにいられなかった。




 けど、そこは王侯貴族の生まれの者。いくら驚いても表情にほんの少し出たところで抑える。

 クララもぐっと反射的な驚愕を押さえていたけど、エイミーや他の同室してる兵士さんやメイドさん達は大きく驚きを露わにしていた。


「皆さん、お静かに。…… “ マックリンガル ” という事はあのマックリンガル子爵の一族に連なる、ということですか?」

「い、いえ……連なる、というのは……違い、ます。私は……実の娘です、から」

 再び後ろでどよめきが起きる。


 けど今度は僕の隣に座ってたクララが彼らの方に視線を向けて、無言で静かにするように促した。

 まさかまさかの事に驚くのも仕方ないけど、冷静にみればこれはとても重大なシーンだ。


 僕的には少女から、せいぜいあの組織 “ ケルウェージ ” の内実や繋がってる貴族に繋がるような情報でも得られれば上々くらいに思ってた。

 ところが、その少女は敵の本丸に最も近い血縁――――――これから語られる話にはより期待できる。


 だけど……



「(実の娘が、魔物を取り扱わせてる下賤げせんな組織の、それも奴隷並みに扱われてた……ってことは)」

 マックリンガル子爵にとって、何かの理由で彼女が邪魔になった……にしては、すぐに殺してしまわずにその身柄を組織に与える、というのもヘンな話。

 何か複雑な事情がありそうだ。


「マックリンガル子爵の、御令嬢……ではこちらからまず、1つお聞きしたい事があります。よろしいでしょうか?」

 本当は彼女―――シェスクルーナのお話を待つべきなんだろう。


 だけど、ただでさえ衝撃の身分を明かした直後だ。


 彼女は、子爵が非道を行っていて、厳しく罰せられるほどの悪だとしっている。だからこそマックリンガルの家名を出すことに躊躇っていた、家族と知られたならそのとがは自分にまで及ぶかもしれない怖れから。


「は、はい……っ、な、なんでしょうか??」

 自分から話を切り出すのは大変で、問答は答える側の方が楽。少しでも気持ちを平常に保ってもらうためにも、まずこちらから問う。



「マックリンガル子爵―――貴女のお父さんは、どうして20年もの間、領地に引きこもったままだったのでしょうか? 一度も中央に参内してこなかったのには、何か致し方ない理由がおありだったのですか?」

 責める口調じゃなく、相手を重んじるように問う。

 つまり ”何でそうなるんだよ!” じゃなく ” 何かワケがあったの? ” だ。


 彼女は子爵本人ではない。なので彼女に問い詰めるのは間違っているし、事情が何も分からない内は、彼女を通して子爵を責めるような口調や態度は、むしろ状況を悪化させる危うさがある。

 ここからの話は慎重かつ丁寧に進めないと。



「マックリンガル子爵―――お父様は、……死にました。もう10年ほど前のこと……です」

「「!?」」

 可能性の一つとして、考えてはいた。何かの理由で子爵本人は亡くなっていて、別の何者かがその権限を、まるで子爵が存命のように振るっているパターンを。


 だけどそれが10年も前とは。


「……お父様は、元々お体がとても悪くて……昔はそこまでではなく、お城や社交界にも参加なさっていたと聞いていますが、私達・・が生まれた頃にはもう、ベッドから立つのも大変なくらいに弱っていて……」



 それを聞いて、僕は父上様に以前聞いた話を思い出す―――


 『ふむ、マックリンガル子爵な。彼奴きゃつは見た目は優れておるが、性格が相当に内向きでな。実家を継ぎたての頃は、キチンとやるべき事はやっておったし、社交界にも顔は出しておった。……ふーむ、いつからだったか、とんと見なくなっておったなぁ、そういえば』

 (※「第147話 静かな日々の先を警戒します」参照)


 ―――情報を整理するとマックリンガル子爵という人物は、性格的にも内向的で病弱。20年かそれ以上前はまだ中央に参内さんだいできる程度には健康だったけど、身体は昔から弱かった。



「……10年ほど前、ということは少なくとも亡くなるまでの10年は御存命だった。でも、その10年間、領地から出ず、中央に顔をお見せにならなかったのは、つまり病床にあったから、ということですね?」

「はい……」

 だけどそこには1つ疑問が出来る。いくら病床にあったからって、それならそれで手紙の1つも出さないのはヘンだ。領地を預かる身として、執政がとれない状態にあることを王に伝えるのが筋だし。

 自分で書けないのであれば代筆でも―――


「(―――まさか?)……シェスクルーナさん、お父様が病床より起き上がれなかった時、代行・・をなさっていたのはどなたでしょうか?」

 エイミーはシンプルに、病の末に亡くなった彼女の父に同情しているような表情。だけどクララは僕と同じところに思考が行きついたみたいだ。



 そう。領主が病気で動けないでいた10年間に加え、亡くなってから今までの10年はどうやって領地を維持してきたか?

 その答えは実にシンプル。つまりは現在の・・・“ マックリンガル子爵 ” が全ての黒幕!



「ヴェオス=ズィフ=マックリンガル……お父様の兄で私の叔父になる方です」



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