第221話 怖くてもカーテンを開きます
私は葛藤してた。
「……」
いまだ自分の名前すら話してない。殿下たちからしたらいろいろと聞きたいはずだけど、私が怪我人ということで何も聞こうとはしないでくれてる。
だから、話すなら私から話さなきゃ……けど、だけど……、……―――怖い。
「(もし、もしも話して……ううん、殿下はそんな人じゃあ……)」
わざわざ足を運んでくれる。お見舞いにきてくれる。アイリーン妃様やお子様もきてくれる。
皆様とのお話は……とても楽しい。だから、とても怖い。
私のことを話したら、あの優しい笑顔が、楽しい笑い声がなくなってしまうんじゃないかって。
「…………」
だけど、このままじゃいけないのは私も分かってる。
話さなくちゃ、あのコを助けて欲しいから。
私はどうなっても構わない……でも、せめてあのコだけは……
「……っ。……あ、あの、す、すみませんっ」
私はベッドの上で手を握って覚悟を決めると、病室に花瓶を持ってきてくれて置いてくれてる兵士さんに声をかけた。
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「あの黒髪の少女が僕に……ですか」
「はい、殿下。いかが致しますか?」
クララの傷が治って初めてのお茶会の最中、兵士さんが来てあの黒髪の少女が僕に話があると言ってきたのだと伝えてきた。
「アイリーン様、黒髪の少女というのは一体どなたなんですの?」
「魔物に食べられそうになってた女の子を助けたんだよ。ずっと治療と安静第一だったから、何もまだ事情とかも聞いてないんだけど、“ケルウェージ” っていう組織に捕らわれて色々されてたコなんだけどねー」
僕が兵士さんと話をしている間、アイリーンがやや要領の悪い説明の仕方でクララとエイミーに説明する。
二人はまだ少女と接触したことがない。念のために接触する人間の数を僕が意図的に絞っていたからだ。
「まだお名前すら聞いていませんからね、もちろんお話を伺いましょう。ちなみにそれは、僕一人と、でしょうか?」
「いえ、そういった制限は特には。 “ 殿下に直接お話したいことがある ” と……」
伝わってくるニュアンスからすると、
彼女がもし、どこかの貴族令嬢だった場合、政治的なものや貴族同士の人間関係とかも絡んでくるかもしれない。
なので僕としては、最低でもクララを連れ立って話たい。
「―――と、いうわけでー、もうあのコもかなり治ってきてると思うし、お世話になりっぱなしで申し訳なく思って、お話したいって事なんじゃないかなーと」
どうやらアイリーンの方の説明も終わったみたいだ。
2秒ほどクララが考えるような素振りで沈黙する。聞いた説明を頭の中でかみ砕いてまとめてるっぽい。
ちなみにエイミーは、酷い扱いを受けていた点や右腕を魔物に食いちぎられたところなどを聞いた辺りから、えぐえぐと涙を流してた。
「クララ、エイミー、二人とも一緒に来てください。アイリーンは僕のいない間、村の方とレイアのお守りをお願いしますね」
「はいっ、わかりました旦那さま、お任せです!」
「……ぐすん。私たちも一緒でいいのです?」
「参りましょうエイミー様。おそらく必要なのですわ、私達も」
僕はエイミーとクララを伴ってあの子の病室へと向かった。
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念のため、病室の内外は僕の最側近かつ全員顔や名前、出自を知ってる兵士さんとメイドさんのみで固めさせる。
もちろん隣や上下など近くの部屋で聞き耳を立てる者がいないようにも配慮した。
「こんにちは、今日もお加減がよろしそうで何よりです」
「こ、こんにちは、殿下。いつもお見舞いに来て下さり、あ、ありがとうございます。えと、ご、ご夫人の方々もこのような場所にお越しいただき、きょ、恐縮です」
少女はかなり緊張してる。
隣やや後ろでクララが、自分を伴ってきた理由を彼女の言動から察したのを横目で捉えながら、僕はベッドの脇の椅子に腰かけた。
「お初にお目にかかりますですよ、第二王弟妃のエイミーなのです」
「同じく初めてお目にかかります、第三王弟従妃のクルリラですわ。お気軽にクララとお呼びくださいませ」
するとベッドの上の少女は、一層緊張した様子になった。
名乗られた以上は名乗り返さなければいけない―――だけどそこには
しかしエイミーとクララが、比較的軽めとはいえ礼に
泣きそうな、だけどぐっと堪えて気持ちを落ち着けるような……それを何度か繰り返す。
そこから感じ取れる感情は、恐怖。
「……」
だけど僕は待った。何も言わずに、少女の気持ちが決まるまで、少女から話はじめるまで、何分でも待つつもりで。
そんな僕に従うように、エイミーとクララも何も言わずに少女を待った。
やがて小さく一つ呼吸したかと思うと、少女の表情が僅かに凛々しくなった。切り出す気持ちが出来たらしい。
そして一言、その小さな口から紡ぎ出される………
「私は、私の名前は……シェスクルーナ=レイル=
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