第217話 燃えない生物はいません



 ザクッ、ザクッ、ザクッ!



「盾を挿し終えましたら、それを壁代わりに立ちまわりましょう。まず足を狙ってください」

「「はっ!」」

 僕がまず取らせた方策は、護衛役の兵士さんが持つ大きな盾を地面につき刺すこと。それもまばらに。


 金属は炎を防げるし燃えない。けど熱されて高温になれば接触してる部分は火傷しちゃう。

 なら接触しないで炎を防げるよう、壁代わりに配置すればいい。




 ザシュッ!


 兵士さんの攻撃が安定して魔物の一部を傷つけていく。


『ジャァアアッ!』


 ボォオオッ


「おっと、そいつは勘弁だ」

 反撃するように炎を吐く魔物。だけど兵士さんはすぐに地面に挿した盾の陰に入ってかわした。


 いくら吐く炎が高温でも金属の盾を溶かすまでには至らない。しかも、満便なく全体に吹き付けられても、あちこちに挿されてる不規則な盾の壁が炎を分散してしまう。

 兵士さん達に届いたとしても、ほとんど威力のない状態になっていた。



「攻撃はそのまま足を狙い続けて。護衛の方々は新しい盾の準備を急いでください」

「「かしこまりました、殿下っ」」

 そもそも護衛の兵士さん達が大きな盾を持っていたのは、それで僕を守るためだ。

 文字通り身体を張って壁になる、その一部として大盾の存在がある。


 それを、魔物に対処する攻撃勢のために使ってしまえば彼らの護衛力は低下するし、何より今挿してる盾がいつまで炎に対応し続けられるかも分からない。



「(炎以外にも攻撃手段があるかもしれないし、隙は作っちゃダメだ)」

 盾の他にも遠距離からダメージを与えられるよう、弓矢の準備も指示しておいた。

 戦闘場所が外壁直下の門付近だから、外壁上の兵士さんが弓矢で狙うのが難しい。いわゆる俯角ふかくを取りづらい、というヤツだ。


「(下向きに矢を撃つのって難しいもんね。体勢的にも引き絞りにくいから撃っても威力を乗せずらいし)」

 魔物に矢でダメージを与えるには、相当柔らかい相手でもない限りは力いっぱい引き絞った矢でないと厳しい。


「(弓矢はこっちで用意して、外壁の上には別の準備をさせる。……間に合うかな?)」




  ・


  ・


  ・


『ジュアアア……、ァァァアッ』

 自分の炎が通じないのが悔しいのか、それとも足を斬りに斬られた痛みからか、魔物は唸るように吠え続けてる。


「はぁはぁ、ぜぇ、ぜぇ……態勢が維持できなくなってきたみたいだな」

「タフなヤツだ。炎も厄介だが、蛇の動きが素早くて苦労させられたが……」

「ああ、これで動けないだろう。もう少しだ」


 兵士さん達もかなり疲労してる。


 時間はそんなにかかったわけじゃない。だけど炎に気を付けながら蛇をかいくぐり、魔物の足にダメージを与えて素早く退避を繰り返す戦い方は、かなり根気が必要だったみたいだ。



「気を緩めないように、魔物まだ生きています。完全に動かなくなるまで安心はできません」

 言いながら、僕は護衛の兵士さん達にジェスチャーで弓矢を構えるようにうながす。

 本来は70m以上から狙う長距離用の弓を、20mほどの距離で使う。当たれば威力は十分のはずだ。


「左右に移動を!」

 魔物と対峙してた兵士さん達が一斉に退く。

 矢の通り道が出来た。まばらに挿されている盾の合間から魔物の姿がしっかりと見えてる。


「放てっ」

 護衛兵士さん達の隊長格の合図で矢は放たれてた。


 ドドスッ!


『ジャァアアッ!!』


 深く突き刺さった音。見ると3本ほどが魔物の身体に刺さってる。




「……よし、攻勢!」

 左右に退いていた兵士さん達が再び盾のエリアに戻って魔物と対峙。槍を中心にさらなるダメージを与えていく。


『………グググググ……』


「!? ……様子がおかしい? 皆さん、一度距離をとって!!」

 僕が叫んだ直後、攻撃にえていた魔物が爆発するように身体を開いた。左右の蛇が根本から千切れて落ち、地面でしばらくのたうち回ったかと思うと動かなくなる。


「な、なんだコイツ!?」「気を付けろ、何かする気だっ」


 よく見ると腕の蛇だけじゃない。タコ足触手も根本から千切り離されていた。


「(ブルブル震えてる……まさか?)」

 こういう動きをしだすと、直後に傷口から再生するパターンが僕の脳裏に浮かぶ。


 だけどダメージを受けていた足は分かるけど、腕の蛇はそこまでじゃなかったはずだ。再生のために切り離したにしてはおかしい。



『ジャァアアッ!!』

 ズボッ! バボッ!! ドチュルルッ!!


 想像通り、千切れた傷口から新しいものが生えてきた。けど、それは再生じゃなかった。


「! まさか成長した!?」

 生えてきたものは千切れた部位とはまったく違うものだった。


 蛇だった腕部分は何かの肉食獣の頭部のような頭が、20cmほどの首の先に生えてる。タコ足部分からは1本1本が筋肉質のたくましい、やはり獣じみた足が4本。


 四つ足のそれぞれのカカトとつま先の爪が地面の土をがっちりと掴む。


『グギャァアオオオオオ……オオオオ……ッ』

 そして、お腹の口が前にメリメリと伸び上がってきて、これまた獣じみた頭部のようなものが出来上がった。

 鋭い牙を生やした口が大きく開かれると、左右の頭も同じように口を開く。


「! いけないっ、皆さん左右にかわして!! 壁上の兵士さんっ、落としてくださいっ!!」

「「「!!」」」「は、はいっ!!」


 あの感じは今度こそ間違いない。強烈な一撃をお見舞いしてやろう感がすごいもん。



『グガァアアアオオオーーーッ!!!』

 ゴォオオオオオッ!!!


「(やっぱり!!)」

 前よりもさらに強力な炎が魔物の真正面に真っすぐ伸びていく。炎の勢いが強くて挿した盾がドミノみたいに倒され、炎はあっという間に門を通過。

 バーナーみたいに村の中まで炎が伸びた。



 刹那。


 ドバチャァッ


 外壁の上から、僕が用意させてたものが落とされ、魔物に被さる―――途端。


『ギャァオオオオオオッ!!?』

 魔物が火だるまになった。

 かけたのは油。魔物自身が吐く炎が引火して一瞬で火だるまになった。




「(ゲームとかだと、炎を吐く=炎に耐性がある、なんてよくあるけど……)」

 口の中とかはともかくとして、身体の表やその肉自体は普通に生き物のソレだ。火を吐くから火が効かない、なんて事はないと睨んだ僕の読みは当たってたらしい。


 火を吐くのを止めても止まらない炎の勢いに飲まれて、どんどん黒焦げになっていく魔物。

 やがて動かなくなり、燃え盛る炎に焼かれたまま、その場に倒れて動かなくなった。




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