第216話 火炎ブレスは脅威です




 アイリーンもセレナも留守の今、僕がしっかりしなくっちゃ。


「外壁と門を利用して、うまく魔物の攻撃を受け流してください。攻勢にはやらず、慎重に戦いましょう」

「「「ははっ!!」」」

 たかが1匹に大袈裟と思う人もいるかもしれない。だけど僕が慎重な姿勢を兵士さん達に呼びかけたのは、あの魔物の事をこの場にいる誰も知らなかったからだ。




「(アイリーンなら知ってるかもだけど、少なくともここにいる人の中には知ってる人がいない……なら一番気を付けなきゃいけないのは、安易な攻撃に兵士さん達が走らないようにすることだ)」

 まず、相手の正体や能力を見極める必要がある。幸いというべきか、魔物の方も無理に攻め込もうという気はないようで、腕や脚をうごめかせながらこちらの様子を伺っていた。



『ジャァァ……』

 蛇を思わせるような声。対峙した兵士さん2人が槍の穂先を向けると、それに対応しようとしてか、蛇の両腕を前に出してくる。


 だけど威嚇だけでやっぱり攻撃は仕掛けてこない。


「……」「……」

 兵士さんの方も槍を向けたまま、無闇に攻撃は繰り出さない。相手が自分達に集中しているなら、それを利用して仲間の態勢が整うのを待てばいいからだ。


 実際、他の兵士さん達は思い思いに位置取りをしていってる。


 僕も槍を構えた。距離はあるけど、どんな攻撃をしかけてくるか分からない。なので僕自身も防御の態勢を取る。



「(怪我人を後ろに下げるには……一度大きく追い出すように押し飛ばさないといけないか。だけどそれが出来るかどうかは……)」

 うねうねした足は地面にしっかりと踏ん張ってそう。大きさも横幅は兵士さん2人分、高さは頭2つ分ほど大きくて、重量がありそう。

 両腕の蛇がその体格に比べて細く見えるけど、それでも一般的に大蛇って言えるくらいには長く太い。


 その動きから、態勢を選ばず柔軟に攻撃してこれそうな感じで、下手に間合いを詰めるのは危険な気がする。


「兵士の皆さん、まずは敵の “ 先端 ” から少しずつダメージを与えていきましょう」

 あのタコの触手のような足や蛇の腕、それらを伸ばしてきた際に、先端部分を狙って攻撃する。

 そうやって少しずつダメージを与えていきながら様子をみて、魔物の情報を少しずつ獲得するんだ。




「よし、俺が槍を出す。相手の反応に合わせてくれ」「わかった、気を付けろよ!」

 最前の2人の兵士さんが仕掛ける。

 繰り出された槍は短く、深くまで突き刺そうとはしない一撃。


『! ジュァアァッ!』

 魔物は突き出されてきた槍に絡ませるように蛇をうごめかせた。だけど兵士さんはすぐに槍をひっこめる。

 螺旋を描く形になった蛇に、横から別の槍が襲い掛かった。


 トスッ


『ジャラァアッ!!』

 右腕の蛇の中腹あたりに軽く刺さった。すると左腕の蛇が報復とばかりに槍を突き出してる兵士さんに襲い掛かる。


「おっと、させねぇよっ」


 ドウッ


 伸びた左腕の蛇の下から、最初に仕掛けた兵士さんの槍が振り上げられ、蛇の腹を叩きあげた。

 両腕の蛇たちはたまらないとばかりに一度伸び上がったその身をひっこめる。



『ジャァァァァァ……ジュウウッ!』

 魔物のお腹の口が開いて、忌々しいと言うように吠えた。


 すると10本の触手のような足の中から、2本が弾けるように飛び出してきてしなりながら2人の兵士さんを襲う。


 バシッ、バシンッ!


「く……」「やっぱり足も使うか、だがっ」

 勢いはあったけど、威力はそこまで危険じゃないみたいで、下からせり上がってくる触手に打たれた兵士さん達は、少しだけ後ろに押された程度で耐えていた。


「(両手の蛇と触手の足……動きはいいみたいだけど物理攻撃はそこまで脅威じゃない?)」

 ただそうなってくると逆に不気味だ。

 魔物も生物。かなわないと思うような相手に自分から攻撃しようとはしない。

 


 メイトリムの外壁や兵士さん達の数は、魔物1匹で殴り込みをかけるには明らかに戦力差がありすぎる。よほど魔物の知能がゼロに等しいのでなければ、ちょっと考えにくい。

 ……ということは、それを覆す攻撃手段を持っている可能性があるってことだ。


「(あの蛇が猛毒をもってるとか、あのお腹の口から痺れる吐息を出せるとか……何か厄介そうな手を持ってそうだ)」

 僕は引き続き、慎重姿勢で対処するようにとハンドサインを送る。正直、毒や麻痺なんて状態異常を付与されたら大怪我以上に面倒だ。


 全員に僕の意が伝わると、兵士さん達は防御を主にする構えをとった。





『ジュウウ……ジュォアアッ!!』


 ゴゥッ!!


 次の瞬間、魔物が吐いたのは意外にも王道の炎だった。それもお腹の口だけじゃなく両腕の蛇も吐いてる。


「くあっ!!」「っ!!」「ちいっ、コイツっ!?」

 炎を吐き続けながら両腕の蛇は左右にグラインドしてる。なので広範囲に満遍なく火炎放射されて、特に最前列を張ってた兵士さん達は逃げ場なく炎を浴びせ続けられた。


「! いけない、前列交代を!!」

 兵士さん達は金属の・・・鎧を着てる。瞬間的ならまだしも、ずっと炎を浴びせられてしまうと鎧が高熱を持って、直接焼かれなくっても間接的に火傷を負ってしまう。


 ゲームなんかと違って現実の火炎ブレスはかなりヤバい。


「(しかも火の玉とかじゃなくって、継続的に続けられる火炎放射っていうのが問題だ、しかも……)」

 メイトリムの建物には木材が多く使われてる。村を囲む外壁は石造りで固められてるからまだいいけど、村の中に入り込んで炎を吐きまくられたら大惨事だ。



「(村に火をつけられないためにもここで食い止めなきゃだけど、あの炎への対応が難しい……どうしたら?)」

 幸い、門の近くは切り広げられていて木々や雑草なんかはない。けど少し離れれば燃えるものはメイトリムの外にも山ほどある。


 つまり安易に追い払うのもダメ。最善の選択肢はここで仕留めること。

 ……かなりの難題だ、けどやるしかない。



 僕は一生懸命、知恵を振り絞った。




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