第213話 王弟妃と姫が見舞います




 妹は昔から優秀だった。大人もビックリするくらい頭がよくって……でも、人を下に見たりしない、大人しくて優しいコだった。




「………」

 助かった―――1日、また1日と朝目が覚めた時に、この病室の風景が視界に入るたび、少しずつ実感がわいてくる。

 私は安心すると同時に、ここにはいない妹に向けて “ まだ生きてるよ ” って祈る。


 だってあのコが身をていしてくれたから私は今、ここにいる……









 黒髪の少女が目を覚ましてから3日後。僕はそろそろ、アプローチをすることにした。とはいえ、いきなり僕が話しかけても萎縮させちゃうかもだし、少しずつほぐさないと。


「というわけでアイリーン。レイアを連れて、重傷者をお見舞いしてください。ターポン達はその護衛ということでいかがでしょう?」

 無垢な子供は癒しになるって聞いたことがある。


 レイアやタンクリオン達のように、小さな子供を多数連れ立ってお見舞いに訪れるのは、精神面で有効なはずだ。


「わかりました、お任せください旦那さまっ」

「おおー、護衛任務だな! よーし、おれらに任せてくれよ、殿下っ、姉貴と赤ん坊はバッチリ守ってやっから!」

 ある意味、タンクリオン達のようにマナーのなってない子供は、こういう時は適してる。

 ヘンに憚らず、子供が元気な様は、大人の怪我人からしたら気持ちを奮い立たせられるものだ。こんな小さい子らも頑張ってるんだから気持ちを沈めている場合じゃない、ってな具合で。


「レイアも、皆さんにお声をかけてきてあげてくださいね」

「ぁーうっうー! だーだー」

 レイアが一緒なので、見舞うのは重傷者といっても血を見ずに済むような人達に絞る。

 上位者から声をかけられるだけでも、恐れ多いというこの世界。王弟姫のレイアが形式的なものとはいえ、お見舞いに来てくれたというのは、下手すると感涙する兵士が出そうな事だったりする。

 前世の感覚がある僕的には大袈裟に感じることだけど、それだけの事で高揚してくれるんなら安いものだ。



「僕は賓館の建設現場の視察と、クララ達の怪我の様子をお見舞いにいってまいります。ではターポン達もよろしくお願いしますね」




  ・


  ・


  ・


 旦那さまと別れた後、レイアを連れて重傷者の収容場所にやってきました。


「おお、なんと……レイア様が我らのお見舞いに!?」

「こんな一兵卒にもったいないことです。ありがとうございます、姫殿下!」

「アイリーン様もおつかれ……というわけでもなさそうですが、わざわざ我らのためにご足労いただき、ありがとうございます」


「だーぅ、うー、まっ、ぅっうー」

 廊下でリハビリ中の兵士とすれ違うたび、レイアが声を発します。まるでお声がけしてるみたい。


「(兵士たちの見舞いって分かってるのかなぁ? ……っ! もしかしてレイアってば生まれついての超天才だったり!?)」

 時々、そんなことを考えては、後で親バカなことを考えちゃってたなーって恥ずかしくなるんですけどね。

 でももし本当に状況が分かっててやってるんだったら、凄いと思いません? さすが私と旦那さまの子ですっ、って思ってもおかしくないですよね?



「アイリーン様、こちらが最後です。あの現場で救出いたしました少女の病室でございます」

 案内役の兵士の言葉で親バカ思考から引き戻された。


「(あー……あの右腕千切られてたコかぁ。……旦那さまはもう大丈夫って言ってたけど)」

 身体の一部を魔物に千切られるのって、すごいトラウマが植えつけられちゃうことだから、正直どんな顔してお見舞いすればいいのかちょっと悩む。


 何せ絶望的な気持ちになるらしいからね。私は無縁のことだったけど、今までそういう人を助けた後は、お礼なんてしてもらった事がない。

 身体の一部を失うのって、命が助かってもその後の人生に希望がもてなくなるほどの怪我だから、むしろそのまま助けてくれずに死なせて欲しかった……なんて言われたこともいっぱいあったし。


 私はそーっと、恐る恐る案内された病室に入った。



「! あ、あなたは……?」

 やっぱりちょっとビクってなってる。うん、今回もやっぱり今までと似たような感じになりそう―――長居はしないようにしよっと。


「はじめまして、えーと……こんなんでも一応、王弟第一妃やってる、アイリーンっていいます。このコはレイア」

「ぅー、ぅっうーっ」

 すると女の子は驚いて、ベッドから立ち上がろうとする。


「ああ、いーからいーから。礼儀とか不要だからね? 怪我人にそんなことさせちゃ、私が旦那さまに叱られちゃうから……あはは♪」

 フランクに~、フランクに~……作り笑顔って難しー;


「ぁ……思い出しました、あの……あなたは確か、あの時の鎧の……」

 お、アジトに突入する前に一声かけた事、覚えててくれたのかな?

 (※「第189話 討伐と救護に駆ける現場です」参照)


「そそっ。あの後、あの魔物はバッチリ退治したからね。もう何も心配はいらないから」

 言ってからしまったと思った。

 魔物の事を思い出させちゃうようなこと言うとか、あー、私のバカー!


「……そ、そう、ですか……あの、えと……あ、ありがとう、ございます」

 あれ? お礼言われた?

 なんかすごくヘンな気分。下手すると泣きじゃくって叫ばれるかもとか身構えてたけど、初めてだ。


 確かに右腕は無事にくっついたっぽいけど、酷い経験と記憶は消えない。身体の一部を欠落する大怪我を負った人から、初めてお礼の言葉をもらえた。



 なんかちょっとだけウルっときたよ……




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