第214話 赤と黒の女の子です



 今から15年ほど前のこと。

 とある貴族のお屋敷に二人の女の子が生まれました。



 成長していくにつれ、可憐な魅力を宿した姉妹は人々に愛されました。


 姉は優しくて、いつも周りの人や民衆のことを気にかけていました。

 妹は聡明で、難しい本を読みながら大人顔負けの才能を発揮しました。


 二人の両親―――母親は早くに亡くなってしまい、父親は病弱でした。しかし父は、自分の病を気力で耐えながら、娘たちをとても可愛がったのです。



 そして、そんな一家を支える人間がもう一人いました。病弱な兄に代わり、領地を治めている弟……姉妹からすれば叔父おじにあたる人物です。彼は領主名代としてよく治めました。


 将来が楽しみな領主の2人の娘に、善政を続ける叔父……領地の民達は明るい未来を信じて疑いませんでした。



 しかし運命の歯車は、とっくの昔に狂い始めていたのです。姉妹が生まれる5年も前から……







――――――メイトリム、重傷者の収容所。



「……あのアイリーン様、よろしいんですか? その、赤ちゃんを病室には……」

「うん、大丈夫。レイアは強いコだから!」

「ぅぅ~、だぅ~……」

 アイリーン様の自信満々なお言葉に……気のせいかな、レイア様は同意しかねるような声をあげられていらっしゃるような?


「それより身体の具合はどう? 痛みとかあったら遠慮しないで言ってね、どんな病気や怪我でもバッチリ治してくれるから!」

 そうおっしゃるアイリーン様の後ろで、治療をしてくださってる方が少し困ったような笑顔を浮かべました。その近くにいた10歳くらいの女の子が、慰めるようにその方の太もも辺りの側面を、ポンポンと軽く叩きます。


「えと、ありがとうございます……大丈夫です、痛いとかはあまり―――……っ」

 右腕を少し動かそうとした瞬間に感じた、じわりとした痛み。やっぱり腕を千切られてしまったのは夢じゃない。

 でも繋がってるのはどうして?


「あんまり動かさないで、まだちゃんと繋がりきってないはずだから。やっぱりそういう怪我は時間かかるからね、処置は旦那さま―――王弟殿下がすごい薬を使ってやってくれたから、きっと大丈夫!」

「え……殿下、が……私の治療を、ですか??」

 少し不思議な感じ。


 王弟殿下といえば、兄上様方お二人とはお年が離れていらっしゃって、王城で大切に育てられている方とお聞きしてました。


 助けていただいて、この目で御姿を拝見し、言葉も少し交わしてますが、何だかイメージと違います。

 悪い言い方になってしまうかもだけど、周囲の方々によく守られていらっしゃって、あまり活動的な御方ではなのかなって思ってました。



「そう。新しいお薬があってね、それをあなたの治療に使ったんだよ。……あ、ちなみに千切れた腕は私が戦闘中に見つけて回収して、旦那さまのところに届けさせたんだー、えっへん♪」

 (※「第191話 巨大猫似獣vsビキニアーマー王妃です」参照)


「そ、そうだったんですね。ありがとうございます、アイリーン様」

 目を覚ましたらこの病室の天井を見上げてたから、そこまでの事はとても途切れ途切れで、ぼんやりとしか思い出せない。


 けど知らない内に助けてくれた人がいて、千切られた腕を拾ってくれた人がいて、治してくれた人がいて………


「どういたしまして~、えへへ。改めてお礼を言われると何だか照れちゃうな~♪」

 こうして見ていると、とてもお子様がいらっしゃる人には見えません。フランクで人当たりがよくって……良い意味で子供っぽい感じがする。

 それでいてとても女性らしい美貌もお持ちで、ちょっぴり羨ましいかも。




「あ、あの……お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ん、なーにー?」

「その……ここはどちらなのでしょうか? 王弟殿下御一家がいらっしゃるという事は、王都内なんですか??」

 実は目が覚めてから、重い怪我の治療と周りの方々が気を使ってくれてたから、自分が何処いずこにいるのかまだ分かってません。


 ですがレイア様のようなお子様も、ご一緒にこうしてお訪ねくださったということは、私は王都に運ばれたのかな?


 ……あの魔物のいた場所に連れてこられた時も、自分が一体この世のどこに今いるのか全然わからなかったから、実はここはもうあの世なのかもしれないって、今でもほんのちょっぴり疑っています。



「ここはねー、王都の西にあるクワイル男爵の領内の、東の端にある村だよ。メイトリムっていう名前……であってるよね??」


「はい、あっておりますよアイリーン様」

「おいおい、しっかりしてくれよなー、姉貴ー」


 自信なさげに隣にいたメイドにたずねるアイリーン様。



 一緒にいる子供達の、代表らしい私より少しだけ年下っぽい男の子が茶々を入れてる楽しそうな光景――――――不意にずっと小さい頃の、まだお父様が生きてた時の事を思い出して、なんだか涙がにじんできました。



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