第198話 避難所を設営中です




――――――クワイル男爵領内の村、メイトリム。



 この町は領内の東端に位置しており、クワイル領から王都へと至る中継地の村である。

 しかし村の人口はゼロで、大所帯な隊商や賓客を受け入れるための宿などが充実していて、ルクートヴァーリングのシュトックと同じような役割を持たされてるところだ。

 (※「第51話 思わぬ秘密を連れ込みました」参照)





「男爵、賓館の準備の方はどうなっていますか?」

「はい、受け入れ態勢は順調に進んでおります殿下。医者の手配もしておりますので、怪我人にも即座に対応できるかと」

「上々ですね、しかしそれでも不足はあるかもしれません。緊急事態です、どのような事が起こったとしても、臨機応変に対応できるよう、お願いしますね」

「ははっ、かしこまりましてございます!」


 僕が予想した通り、王城への襲撃は起こった。僕の手紙が間に合ったみたいで昨日の朝早くに返信の手紙が届いた。

 ちょうど僕らが “ 連中 ” のアジトの制圧と残っていた魔物の討伐、そして調査を終えて撤収しての翌日だ。


「クワイル男爵、もう一つ手配をお願い致します。こちらから王都までの道中、10km地点に、僕と王家の旗をつけた馬車数台と、30人ほどの兵士を置いてください。旗は遠目からでも見えるように。それと念のため、お医者様の同行と簡単な食事もとれるように」

「! かしこまりました、すぐにお手配いたします!」

 手紙には王室の非戦闘員―――つまり、エイミー達や宰相閣下兄上様のハーレムの面々を脱出・避難させると言ってきた。


 王城の襲撃ということで、王都内もどうなるか分からないし、こちらは制圧してるのでむしろ安全と判断し、僕のところへと向かわせるという判断はさすがだ。

 けどその道中で襲われたり、あるいは見つかって追撃を受けてる可能性だってある。


 無事に来れたって、隣といってもそれなりの距離だ。か弱いロイヤルファミリーには大変な疲労を伴う道のりだから、少しでも早く保護するよう、こちらから迎えにいくぐらいの感覚で準備しておかないと。




「ヘカチェリーナ。アイリーン達からの連絡は?」

「さっき早馬が来たよ。アイリーン様はちょうどアジト調査の後釜に、適当なのを現場責任者に据えて、今日の昼前にヘイルの町を出発……こっちに向かってる最中。んでセレナ姉の方は順調で、ひっ捕らえ済みのにしても取捨選択・・・・が進んでるって書いてあったし」

 兄上様からの手紙を受け取った後、僕はヘカチェリーナと最小限の護衛だけを伴ってクワイル男爵を訪ね、そのままこのメイトリムに移動した。


 アイリーンにはレイアを守りつつ、後始末や念のためのアジト調査の指揮をしてもらった後、タンクリオン達と100人ほどの兵士さん達を伴お、そしてあの重傷のコの搬送も兼ねてメイトリムに来るよう、伝えさせた。


 セレナはクワイル男爵の残党狩りに兵200人を引き連れて加わってもらい、心苦しいけれど間引き・・・をしてもらってる。



「(ロイヤルファミリーが避難してくる以上、悪いけど厳しくしないとね)」

 クワイル男爵はとんでもない状況にまだちょっと浮足立ってる感じだけど、ロイヤルファミリーの保護とケアをするわけだから、この事態がおさまったらその功績は大きい。


 だからこのメイトリムの村で、避難してくる王家の面々を迎えるための準備で、自ら指揮をとるなど張り切ってる。


 だから僕も、気兼ねなく次々と彼に仕事を振る。


「クワイル男爵、念のため、このメイトリム周辺の警備強化もお願いします。また捉えられていない残党がこの辺に来る可能性もありますし、それこそ魔物が襲ってきては困りますから」

「は、確かに! かしこまりました殿下っ、すぐに手配してまいりまするっ」

 言われるまで気付いてなかったの……僕は少しだけ不安を覚えながらも、運動不足の身体にムチ打って走ってくクワイル男爵を見送る。その頑張りは素直に評価しよう。




「ヘカチェリーナ、僕達は上に行きましょう。この村の外壁は高いですから、東側に王家の旗を立てさせます。……クワイル男爵はあの通りですから、きっとそこまでは手配しきれてないでしょうからね」

 王弟自らが走るというのはどうなのか。


 でも僕もじっとしてはいられない。何せエイミー達僕のハーレムの人間だけじゃなく兄上様のハーレムの、僕からしたら義姉や義妹、さらには甥か姪の命もかかってるんだから。


「あのオッサン、悪い人じゃないんだけど抜けてるよね~」

 まったくだ。

 人がいいのは美徳だけど、間違っても重要な仕事は任せられないタイプ。


 だけど逆に、こういう時は言えば素直に動いてくれるから、むしろ助かるし、命令外に気が利かない分、余計なことをする心配もない。

 ものは考えようだ。




「(ある程度護衛の兵士は伴ってはいるだろうけど、それでどこまで安全が約束されるかは難しい。王都を抜けても道中で山賊とかに出くわすかもだし、気は抜けないな……)」

 とにかく今は、全員の無事を祈りつつ、受け入れ態勢と準備をこれでもかってくらい整えていくしかない。




 一番高い城壁の上に到着する。遠くに見えるお城の下層の方で、小さくもはっきりとした戦いの光が見えた。




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