第197話 王様と宰相が指揮する城内戦です




 王城への魔物の襲撃が発生する少し前に、僕の手紙は兄上様たちに届いてた。




「陛下、弟はなんと?」

「……これは……由々しき事態、と言いたいところですが……」

 長男の兄上様が次男の兄上様に手紙を渡す。


 その様子から、宰相として見るべきものなのか兄弟として見るべきものなのか判別できなくって、宰相の兄上様は軽く眼鏡のズレを直しながら受け取った手紙を開いた。



「……ほう。なるほど、これは問題が大きいな、しかし数や種類、向かったと思われる先を断定することは難しい、か」

「ええ。魔物が多数捕らわれていて、それらを操る術を持つ ” 連中 ” というのは前々より聞いてはいましたが、はたして大胆にもこの城に直接攻めて来るものでしょうか?」

 兄上様も、この時点で僕の言を信じてないわけじゃない。けど、いくらすぐ西隣の領地っていっても、王都までは何十キロも離れてる。


 よっぽどバカじゃない限り、王都と王様の居城の守りが厚いことくらい分かるし、やけになって王城を狙う、なんていうのは非現実的で、可能性はあってもさほど高くないと見るのが普通だと思う。僕だってもし兄上様の立場ならそう思っただろう。



「……。……いや、ありえる。ありえるぞ兄上」

「!? その所見のほどをお聞きしましょう」

 自分よりも遥かに現実主義な宰相の兄上様の、意外な意見。もしこれがなかったら、お城の被害はもっとずっと大きくなってたかもしれない。


「 この ” 連中 ” の組織は壊滅した。クワイル男爵も指揮をとって、自領内で残党狩りの段階に入っているという。ならば組織の生き残りにとっては、その手より逃れるのもそうだが、後々のことを考えたならば、何か目立つ手柄をあげる必要性がある」


「! なるほど、見えてきました。……確かに再就職・・・にしろ起業・・するにしろ、目立つ大きな行動や結果を残していれば、より容易くなるというわけですね?」

 組織の下っ端にしろ幹部にしろ、身を寄せていたところが瓦解してしまった以上は、別の食い扶持を手に入れなくちゃいけない。

 それが別の後ろ暗い世界の組織なり有力者のところに走るにしても、あるいは自分で別の新組織を立ち上げるにしても “ 実のある名 ” があるに越したことはない。


 その点で言えば、一国の本拠点に数多くの魔物を送り込んで暴れさせた、というのはとても大きい実になる。




「まして敵の武器は “ 魔物 ” だ。兵の千どころで済まないような想定戦力を、思いのままに操れるというのであれば気も大きくなり、大それた行動も恐れはしないだろう」

 宰相の兄上様の推理は的を得てる。


 そこらの町や村を魔物に襲わせたって、それが自然の魔物なのか操った魔物によるものかは分からない。

 だけど王都という大きな都市の、一番深い位置になるど真ん中の巨城に、いきなり多くの魔物が襲い掛かったりしたら?

 確実に自然ではないし、魔物を操れることにも信ぴょう性を持たせられる。


 その結果がどうであれ、お城に襲い掛からせたのは事実だ。反王室派の、特に過激な思想を持ってそうな貴族あたりに接触して売り込めば、高く買ってくれる。



 そこまで考えたなら、相手が王城を狙う確率はグッと高まる。



「……伝達のラグを考えますと、その可能性が現実になる場合、あまり時間はなさそうですね。すぐに対応策を考えましょう」










――――――そして襲撃当日。王城の2F中央広間。



 ゴッズはベンに言われた通り、王城の深くまで魔物達を前面に押し立て、猛進していた。



「ひゃっはー! この俺が、俺が王の城をぶち抜いてるぜぇ、うひぃー、気持ちいいー!」

 最初はいまいち乗り気でなかったゴッズもどんどん調子に乗ってきて、今では完全にハイになっている。


 自分の力ではない、魔物達を酷使することで得られた快感。完全に有頂天になり、何も考えずどんどん突き進む。


 途中、ぶち殺した貴族らしい男は数知れず、鎧に身を包んだ兵士もまるで木の葉のように吹っ飛んでいく。

 そんな光景に優越感が湧いて、ますます調子に乗っていった。





 しかし……



 ヒュドバババッ!!


『ギャアオオ!!?』『グガァアアア!!』『ガァアアガァアッ!!!』


 ゴッズ達が、上下階を行き来する吹き抜けの広い階段ホールへと出た瞬間、大量の矢が降り注いだ。

 それだけでどうこうなるほどもろい魔物達じゃないとはいえ、突然のダメージを受けちゃ、さすがに惑い混乱し始める。


「な、なんだぁ!? 誰だ、この俺さまにこんなことをしでかすなんてぇーっ!」

 階段のあちこちから兵士が姿を現す。その数はこれまで魔物達がぶっ飛ばしてきた数の比じゃない。


「敵を討ちはたすは今です、総員、かかりなさい!」

 号令と共に飛び出した兵士達の表情と気合いは凄まじい。

 何せ王様みずからの指揮だ。たぶんここにいた兵士さん達は、王国の中でも一番士気が高い状態にあったに違いない。


「な、な、なぁぁ!? お、おいお前ら何してるっ、俺をまも―――ご、ぁごご??」

「弱点ハ先刻承知しテいル。これデ命令ハ出せマせンよ」

 小太りな男が宙に浮かぶ。後ろから片手で首を掴まれ、指で男のノドを制しているのは他でもない、ハーフヴァンピールのヴァウザーさんだった。




「よし、抑えたな。……魔物の統率者は捕らえた! 後は蹴散らすのみだ。総員、奮戦せよ!!」

 今度はヴァウザーさんの陰から宰相の兄上様が一歩踏み出して、兵士さん達に再度号令をかける。




 王様と宰相。この国の2トップから号令を受けた兵士さん達の士気は、最高潮に達した。




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