第189話 討伐と救護に駆ける現場です
僕と保護した子供、そして僕達の護衛兵士の2名の4人は、無事に外まで脱出できた。
「! 殿下っ、そのコは?!」
出入口にヘカチェリーナが数人のメイドさん達がやってくる。聞きながらもすでに察してるようで、ハンドサインで路地の入口近くに張っていたメイドさん達に指示。この場での応急処置のための準備に取り掛からせた。
「この拠点地下に捕らわれていた被害者です! 全身酷い状態ですが、右腕が特に重傷ですから、すぐに手当を!」
ここまでは理想的な流れ。
だけどまだセレナ達は魔物と戦ってる最中……僕は念のためを考えて、メイドさんの一人に声をかけた。
「アイリーンをここに呼びます。“ 危険度の高い5m級の
「はっ! ではすぐに伝えて参ります!」
指揮所のある5階屋上からこの出入口はバッチリ見えてるから、アイリーンも何か大きな動きがあったのは分かってるはずだ。
もしかすると今、伝令に走ったメイドさんの急ぐ様子を見て、すでに戦闘に出る準備を始めてるかも。
「すぐにアイリーンも駆けつけてくるはず。ヘカチェリーナ、周囲に兵士さん達の展開状況は?」
「もちろん展開続行中だよ、プラス他の抜け道抜け穴の捜索もやらせてる、そこはぬかりないし。……セレナ姉への増援はどーするの?」
兵士さんの数名くらいなら、すぐに送ることはできる。ただ戦闘場所が地下フロアという点が問題だ。
地下拠点の、その床にある隠し扉は狭い。一気に人数を送ろうとすれば詰まってスムーズに送れない。
「場所は敵拠点内……地下1階の床にある隠し扉の下です。ハシゴは1人ずつがやっと、降りきった場所は小部屋でその先に広大なフロアがあり、鉄扉をくぐった先の左手30m先。中は基本明かりなしで、僕達が設置した松明のみが頼りですから、一度に多人数の増援は逆に場の混乱に繋がります」
「―――じゃあ、まず私が行けばいいってことですね、旦那さま!」
明るい、よく聞きなれた頼もしい声が後ろから聞こえてきた。振り返ると、堂に入ったビキニアーマー姿で、閉所戦に適した短めの武器を複数携えてる、僕のお嫁さんがそこにいた。
加えて大き目の革のカバンを肩から掛けてる。中身は医薬品や戦闘用の物品だろう。
「アイリーン、行けますか?」
「はい、任せてください!
「ひゅー、さっすがアイリーン様は規格外だねー、頼もしー」
すると、ニコニコ顔だったアイリーンが急に真剣な顔に変わった。
「旦那さま、一つお願いがあります。敵のアジト―――地下1階部分から兵士を撤収させておいてください」
「? それは何故ですか?」
「
いくら頑丈に作ってあったって、一か所が崩壊することでフロア全体が壊れる可能性は十分ある。
下手するとその崩壊で地下1階の “ 連中 ” のアジトを調査中の人達も巻き込まれ、死人が出るかもしれない。
しかも調査中の兵士さん達は、調査に集中するため、比較的最低限の武器しか装備していない。もし下に落ちるなり敵が上がってくるなりしても準備不足だ。
「なるほど……わかりました。すぐに撤収させておきます。アイリーンも気を付けてくださいね」
「お任せください! ―――大丈夫、あなたのかたきは取ってあげるからね」
怪我の手当を受けている、息も絶え絶えの子供に笑顔でそう述べたアイリーンの姿は、本当に頼もしい。
ボサボサに伸びた髪の毛で片目しか見えてない状態の子供の、アイリーンを見上げ返す瞳がごく一瞬だけ輝いた。
・
・
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僕達は指揮所に戻ってきた。保護した子供は屋上直下の5階で本格的な怪我の手当てに入ってる。
だけどまだまだ安心はできない。僕は状況を注視して気を引き締めつつ、指揮をとる。
「残りの兵士さん達で周辺の警戒を密にするように。万が一崩落音が聞こえた場合、ロープと掘削道具を持たせてアジトに急行させますので、その準備を。また怪我人が出ることを前提に、救護の準備も整えておいてください」
「はっ!」
「かしこまりました!」
「了解です!」
「殿下、報告いたします! 保護した子供の容態は依然深刻です。出血がなかなか止まらず、最悪の可能性も御覚悟願いたいと……」
実際、本格的にとはいっても汚れた身体を拭き、傷の止血と消毒を行って包帯をまくくらいの事しかできない。
しかも消毒も専用の薬じゃなくって、お酒のアルコール抽出物や、特殊な毒性を持った薬草で作られた " 破防薬 " っていう破傷風を5割くらいの確率で防ぐっていう低レベルなものを使うのが現在医学の限界だ。
何せアルコールにしても、何で消毒できるのかほとんど分かってないんだから。
なのでこの世界では正直、あのレベルの重傷で、しかも体力のない子供が助かる見込みはとても低い。覚悟はしていたけど助けられないなんて……
「いえ、諦めるのは尚早です。あの地下で何が起こっていたかを知る人物でもありますから、出来る限りを尽くしましょう。アレを持ってきておいてよかった……ヘカチェリーナ、銀装飾の藍色の小箱が荷の中にあるはずです、それをここへ」
「! ほいほーい、すぐ持ってくんね!」
メイドさんではなく、わざわざヘカチェリーナに頼む意味―――それは指示した箱の中身が相応に重要なものが入っているからこそ。
伝令と周囲のメイドさん達はゴクリと息を飲んだ。
「お待たせー、コレでおっけー?」
「はい、あっています。……うん、多少は賭けになってしまいますが、このままではどのみちですから、使ってみましょう」
両手で持てる程度の大きさの箱を開ける。中には真っ赤な敷物に抱かれて、様々な色の液体が入った瓶が5本、綺麗に収められていた。
「レイア。パパはもう一度離れます、いい子にしていてくださいね」
「ぁうーぅ」
メイドさんの腕の中で聞き分け良さそうに声をあげる我が子。赤ん坊でも今の状況が何となく大変だっていうのは分かるのかもしれない。
グズり出さないでくれているのは本当に助かる。
僕はヘカチェリーナに箱を持たせ、護衛メイドさん3人を連れて5階へと降りていった。
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