第186話 再興の足掛かりとなる地下拠点です




 秘密のアジトの制圧は、思いのほか簡単に終わった。


 読み通りとはいえやっぱり相手は、他の拠点や仲間が壊滅したことでかなり混乱した状態にあったらしい。




「……ですが、それでもこの規模の地下拠点を簡単に制圧できたのは、にわかに信じがたいことです。アイリーンとセレナに任せて正解でしたね」

「お褒め頂き、光栄です殿下」

 僕は、セレナと10人の兵士さんおよびメイドさん達を伴って、制圧した “ 連中 ” のアジト内を歩いてみて回ってる。


 さすがに荒事のあった場所へレイアを連れては来れないので、大暴れしてすっきり晴れ晴れした表情で帰ってきたアイリーンと交代する形で預けてきた。



「ざっと広さは地上に建物30戸分くらいはありそう……むしろよく気づかれずにここまでのアジトを建設できましたね、相手は」

「大まかに接収・調査を行いましたが、どうもこのアジトは “ バックアップ ” の役割を担わされていたようですね」

 バックアップ。それは ” 連中 ” の組織が何か大きな問題が生じた時、組織が完全に失われるのを防ぐためだ。


 セレナ達の接収で、多くの種類の書類や情報がこのアジトに収められていたのがわかっているし、アジトの機能自体も、30人程度が1ヵ月は隠れ住むことが出来そうなほど充実していた。


 何よりキッチリと石畳みと木材で組まれてる内観たるや、普通の家の中とほぼ変わらない。窓がないだけだ。

 ここまで金をかけて整備したのは、万が一が起こった後、“ 連中 ” の幹部クラスを中心に、組織の再起を狙って潜み続けていられるように考えていたからに他ならない


「(金庫の中に、分りやすく金塊とか積まれてたのには笑っちゃったけど)」

 前世の世界でも、ゴールドは価値が高くて、貨幣の価値の致命的な変動に備えて保有しておくなんていうのがあったけど、この世界だと金の意味は少し変わってくる。


 単純におかねという意味での財産でいえば、実はこの世界のゴールドは、保有しておくには都合よくない。

 前世と違ってあんまり手軽に換金できないからだ。


「(簡単に足がつくし、特に後ろぐらい理由や人間の場合はそれで辿られやすい。何よりゴールドをおかねに換えられるところがものすっごく少ないし)」

 前世のような貴金属を取り扱う専門店なんて存在しないこの世界。金塊を換金するには金持ちな商人や貴族を当たるしかないからめちゃくちゃ手間だし、そういう相手とは身元を隠して取引きするのが難しい。


 だけどゴールドに高い価値があるのはこの世界でも同じで、誰もが知ってる。


 なのでこういう犯罪組織が溜め込んでる金塊は主に、組織の急速な再編のため、手足になる下っ端(いざとなったら切りやすい者)を集めるため、手っ取り早くばら撒く用だってセレナが説明してくれた。




「とりあえず、接収できるものは全て持っていきましょう。捕らえた人たちへの尋問もあります、クワイル男爵には一報だけを入れておいてください。捕虜は引き渡すことになりますが、その前にどんな小さなことでも全て聞き出すようお願いします」

「はっ、かしこまりました殿下。……オーツ、聞いていましたね? 尋問係りに伝言を。殿下の御意向です、徹底して吐かせるようにと伝えて」

 セレナがテキパキと指示を飛ばす中、僕はふと足元に視線を落とした。それは本当に何気ないことだったんだけど、床に不自然な痕があるのが目に映ったんだ。


「(これは……ホコリがヘンな途切れ方をしてる?)」

 地下アジトはどこも綺麗でホコリ自体、部屋の隅をよーく見ないと分からない程度にしか堆積してない。


 けど床の一部に、真っすぐにピッと線を引いたように床を拭ったかのような痕があった。


「セレナ、こちらへ来てください。床に奇妙な痕跡があります」

「! ……これは、もしかして? 数名、すぐにこちらへ来なさい、調査します」

 手近にいた兵士さん達3人が、セレナの呼びかけで駆け寄ってくる。


 すぐにその場にしゃがんで、不自然な痕のある床を叩いたり、触ったりしながら調べ始めた。するとすぐに――――――



 ガコッ


「! こ、これは……! 殿下、閣下、隠し扉です!」

 兵士達に緊張感が走った。僕とセレナもお互いの顔を見合ってから、その床に視線を戻す。

 何せこの隠し扉が緊急脱出用だとしたら、何人か取りこぼしてる可能性がある。


「……もしかしますと、まだ中に敵がいるかもしれません。セレナ、戦闘可能な兵士さんを至急編成してください」

「はっ、かしこまりました、殿下」


 通路ではなく隠し部屋のセンもある。扉の先へ降りていった途端、攻撃されるかもしれない。

 残党を逃がしてはいけないと焦る気持ちはおさえて、万全を整えてから調査しないと。




 だけど隠し扉の向こうで僕達を待っていたのは想像以上のものだった。




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