第185話 悪の拠点にビキニアーマー達が乗り込みます



「あそこが子供達の話にあった入り口のようですね」

 完全武装したセレナが、僕の隣で目的の路地を見下ろしながら言う。


 場所は町の端の、2~4階建ての簡素な集合住宅タイプな建物が密集してるエリアだ。その中でも背の高い5階建ての建物の屋上に僕達はいた。




「なるほど……なんてことない風を装っている人が、常にあの路地の入口にそれっぽくとどまっていますね。あれが見張りでしょうか?」

 僕の言葉に、みんなも路地の入口付近を見た。


 手近な建物の壁に何気なく背を預けて、無関係そうにぼーっとしてる一般人。だけど常にその場に居続けていて少しすると、フラッとその場から立ち去った。と思ったら、すぐに別の人間が同じ場所にやってくる―――完全に、ローテーションが組まれた組織の匂いぷんぷんな見張り番だ。


「出入口はあそこしかないんですよね? ターポン達よく逃げだせたなー」

 知己の子供達が脱出する様を思い浮かべたみたいで、アイリーンがクスクス笑う。彼女もやっぱり完全武装している。久々に見るビキニアーマー姿だ。


「(というか鎧と剣、持ってきてたんだ……)」




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 ターポンことタンクリオンを筆頭にした7人の子供達は、もともと暮らしてた町でアイリーンと出会い、その強さに憧れてたくましく生きてきた。


 当時、アイリーンと出会った子供達は、路地裏で20人ほどの徒党を組んで暮らしていて、その時は15歳のリーダーを筆頭としてたらしい。

 アイリーンが町を去った後、その強さにあこがれたタンタリオン達4人と、後に孤児になって新しくスラムに流れてきた3人があの7人。


 当時仲間だった他の16人は、アイリーンの教えを受けて別に生きる道を見出し、それぞれの道を歩んでいった。


 そしてタンタリオン達7人は、もう十分やっていけるだけの力を身に着けたと自負するようになった1年ほど前に、住み慣れた町を出て旅に出た―――目指すはアイリーンのような強い戦士。

 まぁよくある憧れに向かって努力しながら夢を追いかけて走ってたわけだ。


 実際、タンタリオン達は年齢の割にはなかなからしい。


 アイリーンから生きていく知恵や技術、いざという時の判断の仕方なんかの教えがしっかりとしみついていて、昨日セレナと護衛の兵士さん数名が、食後の練習をするという彼らの様子を観察したところ、かなり本格的な動きや戦闘思考ができていたんだとか。

 特に護衛の兵士さん達は軽く危機感を覚えたらしくって今朝、時間がある兵士さん数人が自主練をしてた。



「(ま、それでも子供なんだから、限界はあるわけで)」

 この町に来たときタンタリオンらは、これまで自分達で危険や問題を乗り越え、生きてきたという経験と自信に満ち過ぎて、それが命取りになった。


 自分達は路地裏の世界は慣れたもの―――そう過信して見らぬ町のそういうところに入り込んだ結果、あの路地の秘密の出入り口を発見してしまい、7人は " 連中 " に捕まった。


 けどそこはさすがのたくましさ。多少の時間こそかかったものの、脱出に成功した彼らは、この町に来てこっそり忍び込んでは夜露をしのいでいた場所にやってきたのが昨日の夜。

 まさに今、僕達が滞在している賓館だったというわけだ。


「(いくらただの子供達じゃないからって、使ってないとはいえ賓館の敷地に簡単に入られてるのってどうなのよ、クワイル男爵……)」

 彼らが “ 連中 ” に捕まったのは、僕達がこのクワイル男爵領に来る前のこと。


 脱出できたのはタイミング的に見ても、僕達と父上様達で " 連中 " を壊滅させた情報が、あの秘密の入り口の先に潜んでいた者達に伝わって、動揺なり混乱なりで隙が生じたからだろう。



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「んで、出入り口は本当にあそこだけ? 他にもあって相手を取り逃がしましたーじゃ、カッコ悪いし」

 ヘカチェリーナもビキニアーマー姿。……なんか護衛メイドの皆さんから時折、“ 私達もああいうのを着た方が良いのでしょうか? ” といったヒソヒソ話が聞こえてくる。

 いえ、あなた達は今のままでお願いします。集団でビキニアーマー統一されたら、さすがにちょっと異様だし。


「他にもある、という前提の方がよいでしょうね。何せタンクリオン君達はまだ子供です。いかに大人顔負けと言えど、その大人でもミスはするものですから。それに捕らわれていたなら、全容をじっくりと調べもできなければ見ることもできていないはず……彼らの知らない何かがあったとしても不思議ではありません」

 タンクリオン達7人の少年少女は、さすがに捕らわれ生活で疲労がたまっていたのか、今は賓館の大部屋で全員熟睡してる。

 彼らが教えてくれた “ 連中 ” のアジトの方は、僕達が潰してくると伝えてあるので、目を覚ましても大人しく待っててくれるはずだ。



「ぅっぅー」

 なお、レイアも同行してる。僕と一緒にこの臨時の作戦指揮所で待機だ。


 突入は、まずアイリーンが500人の兵士さんから選りすぐった精鋭20人を引き連れて行い、その後にセレナが指揮する兵士さん100人がアジトへ入って速やかに制圧する。

 ヘカチェリーナは残りの兵士さんを周辺に展開して逃走する敵を逃さないようにしつつ、僕とレイアを守護する護衛メイドさん達の指揮もとる。


 僕は、アイリーン達が出張っている間に何かあってはいけないので、レイアと一緒にこうして前線司令官的な感じで現場入り。

 ……机の上に両肘をついて顔前で手を組むべきだろうか?


 一応、ヘカチェリーナが何かの理由でここから離れなくちゃいけなくなった時は、護衛メイドさん達や一部の兵士さんに、僕が変わりに指示を飛ばすことにはなってけど、完全に大人しく見てましょうが正解のポジショニングだ。



「(それにしてもあのアジトは何だろう? 父上様達の調査にも引っかからなかった場所ってことだよね?)」

 一筋縄じゃいかないとは思ってたけど、本当に “ 連中 ” はどこまで根を張っていたんだか。




 ともあれ今となっちゃ、あそこにいるのは潰れた組織の残り火だ。僕達は残党狩りを開始した。




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