第184話 子供と接する心構えです。
捕まった7人の子供達は、こことは全然違う町のスラムからやってきたらしい。
かつて現役時代のアイリーンが、その町付近に出没した手強い個体の魔物を討伐しに来た際に出会ったとのこと。
その時は、現在最年長13歳でリーダー格のタンクリオンでもまだ5歳。
両者が出会ったのは、アイリーンが僕のお嫁さんになる16歳の年の初めごろの事だそうだから、7人の子供のうち年が下の3人は今6歳~8歳なのでまだ生まれてすらない。
「おいら達、あの時の姐御の強さに感動して、頑張って鍛えながらあちこち転々としてたんだ、ハグッモグガツガツッ!!!」
さすがに庭じゃたぶん大人しくできないだろうから、賓館の何か作業をする時用のスペースにテーブルと食事を用意させて、タンクリオン達を歓待しながら話を聞く。
案の定、7人全員が食べ散らかす勢いで食事にがっついてる。最初はメイドさん達が小言よろしく注意をしようとしたけど、僕がそれを制した。
こういう子達にマナーを強要したって無理だし、何より彼らから円滑に話を聞くなら、ヘンにこっちの流儀の枠に押し込もうとしないほうがいい。
「ターポン達……といってもそっちの4人だけですけど、最低限生きていくためのあれこれを教えたんです。そっかー、もうあれから8年も経ったんだねー、どーりでターポンも大きくなってるわけだー、うんうん」
「だからー、ターポンって呼ばないでくれよ姐御ー。っていうか姐御はさ、なんか昔より若くなってない? メチャクチャ綺麗になってるしよ、乳もなんか二回りくれーデカなってるって絶対」
普通ならヤンチャのこと言う小生意気な男の子に、コラッといって拳骨一つ落ちるのが定番。
だけどそこはアイリーン、一味違う。
「そーでしょー、ふっふっふ~。そろそろ姐御なんて呼ばないでもっといい感じにあがめてくれたっていいんだぞ~?」
「じゃあ姉貴!」「姉キ」「あねき~」「姉貴だな!」「あねきー?」「姐御から姉貴にジョブチェンジ」「あねごとぅーあねき」
「ええ~!? それ、あんまり変わってないから~っ」
年上としてしっかり指導するどころかいじられてる始末。うん、やっぱり僕のお嫁さんは可愛いかった。
「それでこっちが姉貴の旦那かー。ひょろっとしてっけど、大丈夫なのかー?」
タンクリオンがふつーにしれっと失礼なことをのたまう。
彼の人柄や気質のほどをしってるアイリーン以外の全員が、笑顔の裏に憤りを隠したのを感じた。
まぁ彼の言う通り僕はたくましさに欠けるし、むしろ正論だから別に腹もたたないけど。
「だからこそ、彼女と結婚したんです。君たちも知っていますよね、アイリーンの姉貴が途方もなく強いことを?」
「!!? だ、旦那さままで~っ」
僕の切り替えしに一瞬だけタンクリオンが目を丸くした。けどアイリーンが情けない声をあげた瞬間、ぶっとふきだす。
「あっはっは!!! おもしれーやつだなー、王弟殿下っていうからどんな偉そうな奴かと思ってたけどさっ」
「偉そうといいますか、本当に偉いんですけどね。……でも、偉そうにしなくてはならないのもなかなか大変なんですよ? たまにはハメを外したくなるくらいにはね」
―――このテの子供に対応する時、一番重要なのはスタンスだ。
これは普通の家庭の子供でも同じで、あからさまに上から目線や大人としての立場を基本にして接すると、子供は心を開かない。
目線をなるべく合わせて、立場を近づけることが重要だ。
「(子供は、自分が弱い立場で守られる者だと無意識に自覚してる。だけど立場の上の強い者―――つまり大人達に庇護された場合、無理解に押し付けや強要を受けるから、反発心を抱いちゃう。たとえ大人側からしたらそんなつもりはなかったとしても)」
子供にとって一番の味方は身近な大人じゃない。同じ目線、同じ立場、自分に寄り添えってくれる仲間―――つまりは同じ子供だ。
ゆえに、子供は大きくなってくると実の父親母親相手でも反発するし、離れて行こうとする。
外の世界を知り、親以上に自分達と気の合う人間と知り合い、その子供の世界が築かれていく。
そしてそれは、そのまま大人になっても変わらない。築かれた世界はそのまま彼らの大人の世界へとシフトするだけ。
なので一度親から離れた子供はそのまま独立して勝手に進んでいく。親とは形勢した世界が違うから、一緒にいても価値観や常識が違いすぎて、苦痛にしかならない。
「(だから子供から信頼を得るには、子供の世界により近いところへと自分をもっていけるかどうかだ。彼らが欲しているのは大人じゃない、一緒に笑ったり怒ったり泣いたりできる仲間であって、共感し合える相手なんだから)」
だから可能な限り彼らのスタンスを尊重する。
もちろん僕も立場ある人間だから、譲れないところは譲れないけど。
……とはいえ、彼らのマナーのなってなさや、僕への無礼な態度の数々。
アイリーン以外が、今にもブチ切れてしまいそうな迫力を、張り付けた笑顔に添えはじめてるから、噴火してしまわないうちに賓館の周りで昨日は何してたのか聞き出さないと。
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