第183話 再会するは小さなワイルド達です




 父上様達はお忍びなので、さすがにあまり長くいられない。


 一通り事が済んだら王都に帰る。もっとも僕達のところにきた連絡係の人によれば、二人とも旅行気分で満足げだったそうだけど。




「(あの二人にかかったら、結構な規模の犯罪組織潰しも旅行気分かぁ)」

 かなわないなーと思う、けど僕だって一児の父親だ。すぐには両親の域に達することができなくったって頑張っていかなくっちゃ。


「セレナ、お庭の周囲はどうですか?」

「ええ、大丈夫かと思われます。賓館の周囲の道から建物、および町中にも兵を巡回配置させておきました」

 クワイル男爵には悪いけど、どうしても警備力が信頼しきれない。


 なのでレイアを庭で遊ばせるにあたり、僕達が王都から連れ立ってきた500人の内の半数を、セレナにお願いして賓館の周辺に展開してもらった。



「最初から計画しての襲撃相手には完全とはいきませんが、逆恨みや突発的な奇襲とかの相手でしたらこれで十分なはず……セレナ、ご苦労さまでした。ヘカチェリーナ、アイリーンとレイアを庭に呼んできてください」

「はーい」

 客人が自分で警備を敷くなんてどんな賓客だ―――クワイル男爵は悪い人じゃないんだけど、どうにもそうした方面には疎すぎるから仕方ない。


 さて……だ。


「セレナ、例の対応はどうでしょうか?」

 僕は声を潜めて聞く。するとセレナも顔を近づけて声量を抑えながら答えた。


「……5人1組で7つの専用小隊を編成し、当たらせています。今日中には捕らえることができるでしょう」





 ――――――それは昨日のこと。


 アイリーンとヘカチェリーナがレイアをお風呂に連れて行ってる間、僕とセレナがそろそろ庭で遊ばせることを考え、チェックしていた時―――


 『! 何奴っ!! 殿下、閣下! お下がりを!!』


 護衛の兵士さんの一部が、賓館敷地近くの道を走る怪しい影の集団を追いかけていったんだけど、その時は捕まえられなかった。



「セレナはどう思いますか?  “ 連中 ” の残党か何かでなければ良いのですが」

「安心してくださいな、殿下。それはないと思われますから……遠目でしたが、あの走り去る様子と動作からして、おそらく相手は子供の集団。それも路地裏の住人スラムの子でしょうから」

 それだけ聞くと、あまり害はなさそうに思えて一瞬ホッとする。

 けどそれなら、セレナがわざわざ30人以上も捜索・捕縛の小隊に兵士さん達を割くはずがない。


「明確に害意がありました。本人たちにとってはイタズラ程度の行動でも、あるいは大人にお金や食糧を渡されて使われているにしても放置は危険、確実に押さえるべきと判断しました」

 路地裏の住人はたくましい。厳しい環境で生き抜いているからこそ、体力も生命力も高いし、世渡りも上手だ。


 そして上流階級ハイソサエティに対して憧憬どうけいよりも妬みや憤りを持っていることが多い。

 だからそこに付け込んで、王侯貴族に悪意や害意ある大人が悪だくみの実行者として路地裏の子供たちを利用するケースはちょくちょくある。


 何よりこっちにはレイアがいるんだ。大人には何てことのないイタズラでさえ、赤ちゃんには万が一がありうるかもしれない。

 彼らが何かをする前に抑えるのがベスト。もし大人と繋がってるなら、その大人の正体を掴む必要もある。




「旦那さまー、来ましたよー」

「ぁーう、ぉーぉぅー、ぉぉーぅー」

 レイアは最近、周囲の人間の言葉を真似しようとする時がある。赤ちゃんの成長は早いんだなって実感して、ちょっと感動した。


「久しぶりのお外です。大丈夫だとは思いますが、注意して遊びましょうね」

 僕がアイリーンの腕の中のレイアをよしよしすると、アイリーンが羨ましそうな顔をしてたけど、それはとりあえずスルー。


 庭はしっかりと芝生が整備されててかなり綺麗に仕上がってる。


 念のためにメイドさん達や兵士さん達にも手伝ってもらい、小さな小石なんかも除去したから、レイアが寝転んでも大丈夫なはずだ。



「ぅっぅ、まーぅー」

 芝生の上に着地させられたレイアは、ペチペチと地面を何度か叩いたあと、そのままハイハイもどきを始める。手足は動かしてるけどまだ前に上手く進まない。


「おーおー、レイア様楽しそうだねー。ま、久しぶりのお外だし、テンション上がるのも無理ないだろーけど」

 言いながらヘカチェリーナも両腕を真上にあげて、思いっきり伸びをしていた。


「まだ色々と気は抜けませんが、やはりお日様の光を浴びないと調子も狂いますし、今日くらいは思いっきり遊ばせたいですね」





 なんて言ってると、だいたい邪魔が入るもの。



 庭にでて30分くらいした時―――賓館の敷地外から、何やら喧騒が聞こえてきた。


『……なせ、……はーなーせよっ、はなせったら!』


 徐々に近くなってくる騒々しい声に、レイアも動きを止めて声のする方に視線を向けた。


「どうやら確保したようですね」

 セレナの言い様からして、昨日の怪しい集団を兵士さん達が捕えたんだろう。


「(声からして、やっぱり子供?)」

 そうして連行されてきたのはやっぱり、パッと見で6歳から10歳くらいの少年少女が7人。

 恰好からして、やっぱり路地裏の住人っぽい……けど何か違和感を感じる。


「(……路地裏に長年住んでますっていうより、あちこち旅してますって印象のほうが強い恰好に見える)」

 なんて僕が考えていると、隣から声があがった。


「あれ? もしかしてターポンたち?」


「誰がターポンだっ、おいらにゃタンクリオンって立派な名前があるんだって何度言わせ―――……って、このセリフは……?」

「あ! あねごだっ!!」「アイリーンのあねごだー」「あねごー、ひさしぶりー」

「姐御ッ、アイリーンの姐御じゃないですか!!」




 連行されてきた彼らはビックリだけど、どうやらアイリーンの知己らしかった。




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