第149話 秘密の女子会?です



「そんじゃ……第一回、殿下ハーレム会議を開催するし~……」


 ヘカチェリーナの一言で、それは始まった。

 カーテンで閉め切った暗い部屋に、明かりは燭台のろうそく3本のみ。妙な雰囲気の中で、女性陣が1つのテーブルを囲んでいた。



「(何かテイストが違うような気がいたしますけど、よろしいのかしら?)」

 クララが、部屋の雰囲気と趣旨に小さな違和感を覚えるも、特に異を唱えることはない。

 

「(雰囲気が……こういう怖い様相は少し苦手なのですが、怖がるわけにも)」

 恐怖心を隠すように微笑みをたたえるセレナ。


「(会議……って、こういうのなんだ???)」

 小首をかしげるシャーロットは、少し考えたあと、まあいっかとあっけらかんとする。悪戯大好きだった少女はむしろ、少しワクワクしていた。



「なお、アイリーン様とエイミー様はレイア様と殿下に付いてもらってるので欠席ってことで……」

「といいますか、アイリーン様に関しましては、この会議のことを内密にしきれないからでしょう、ヘカチェリーナさん? 殿下に知られてはならないような事をお話なさる主旨と伺っておりますし」

「さすがクララっち、伊達にアヘ顔ダブルピースなデレデレお嬢様やってないよねー」

「な、なんですかその妙な語感の語句はっ!? わたくし、そのようなことはいたしてませんわよっ」

 二人の口ゲンカが始まりかける。



 セレナはやれやれと肩から力を抜くと、やんわり片手をあげた。


「話が先に進まないのは良くありません。皆様、取れる時間は限られているのですよ……それで議題テーマは何なのでしょう、ヘカチェリーナさん?」

 普段の軍人然とした鳴りを潜め、お嬢様の優雅さを前面に出すセレナ。最年長の威厳も手伝って、3人には醸し出せない気品とたおやかさが広がり、ヘカチェリーナとクララを牽制した。


「あー、うん……っていうかセレナ姉強すぎだし。―――んんっ! 今回の議題は、ズバリ " 殿下の次の嫁 ” これっしょ!」

「次の……」「「……嫁っ」」

 全員がゴクリとノドを鳴らした。


「色々事情もあるしー、殿下的にも考えてはいらっしゃると思うけど、やっぱちょっと思うわけよ “ 遅くない? ” って」

「それは……殿下は第三王弟というお立ち場がおありなんですから、致し方のないことではなくて?」

 言っても実父も確約し、従妃として王城に住むようになったクララは、確実に進展がある身だ。焦りはない。


「うん、" お嫁さん ” には、それはその……なりたいけれど、殿下のご迷惑になっちゃうのは、いけないし」

 一方でシャーロットは進展こそないものの、定期的な肉体関係を持って久しい。まだ10代であることも踏まえ、やはり心にまだ余裕がある。


「おおう、いじらしいよねシャロちゃんは。それとも~、定期的に可愛がってもらえればそれでOKとか~?」


「ちょ―――それはどういう事ですの!?」

「はいはい、少し落ち着きましょう、皆さん。……クララ様とシャーロット様の奥ゆかしさも理解できますが、一方でヘカチェリーナさんにも一理あると思います」

 セレナが、比較的年の近い3人がかしましくなり、話の進行がとどこおるのを防ぐ。



「殿下の兄君でいらっしゃる宰相閣下は現在、4名の奥方様をおめとりでですが、その婚期は短期のうちに集中していた方々もいます。それに比べますと、確かに殿下はいささか慎重になり過ぎていらっしゃると、確かに言えるでしょう」


「しかも殿下ってばそのくせハーレムの人数、増やしたいみたいだし? ちょい矛盾してるんだよねー。まー、殿下もまだ15……あ、もうすぐ16になるんだっけ? 誕生日プレゼントとか用意しないとだし」

 ヘカチェリーナが脱線しそうな話を出すも、クララはぐっと踏みとどまる。セレナがいけませんよと視線で促してくれたおかげだ。


「んんっ、……お話はお伺いしておりますけれど、実際はどうなのでしょう? わたくし達の輪に加われるような女性にょしょうが、殿下の御周りにいらっしゃるのかしら?」

 クララの己惚うぬぼれではなく、事実として該当者がいない。


 あれこれ条件をつけて選ばないのであれば、王弟殿下の身の回りにも、女性ならいくらでもいる。メイド達に手をつける話はそんなに珍しくない事だ。



「確かにエイミー様とかと話しててもー、殿下がウチら以外の女のコに気のあるような雰囲気はないって言ってたし。……っていうか、そもそもそんな余裕自体、ない感じなのかも?」

「? どういうことヘカーチェちゃん?」


「ほら、シャロちゃんもそーだし、セレナ姉だってクララっちだってまだ・・なワケっしょ? 待たせてるコがつっかえてるのに新しいコを探すとか、殿下の性格的にムリなんじゃない?」

 ヘカチェリーナの言葉に、殿下の身分立場を重んじていたクララとシャーロットも揺れる。

 確かにそう考えるのであれば、早いところ候補の自分達を迎えてくれた方が、殿下の精神的にも良いはずだ。慎重に事を構えすぎて、ハーレムを構築しなきゃと重しになってしまうのはよろしくない。


「それで " 次の嫁 " ですか……」

「そそ。ぶっちゃけ、次が誰でも別にいーと思うけど、出来れば早いとこ殿下に貰われちゃいたいっしょ、みんな?」

「も、もらわれっ―――」

「……うん、それは確かにその……貰われたい、かなぁ」

「んっ、コホンッ、それはまぁそうですが……」

 完全に3人の反応を楽しんでいるヘカチェリーナにはイラっとするが、彼女の言う通りでもある。


 特にアイリーンがレイアを産んだことで近頃、彼女らの結婚願望は内心、より盛り立てられていた。


「で、思うわけ。……何ならさ、別に ” 一人づつ ” じゃなくてもいーんじゃない? って」

「!? それはつまり、お二人同時に娶っていただくという事ですの?」

「そそ。そしたら最短で2~3年くらいでさ、ここにいる4人全員、正式に殿下の奥さんに収まれるじゃない?」

 その話に一番反応を示したのはセレナだった。美貌に陰りがないとはいえ、さすがに最年長で20代半ばも過ぎている事実は、焦りがないわけがない。


 しかし順当かつ真っ当な姻戚の仕方でいえば、次はおそらくクララで、その次くらいに自分だろう。

 しかも今はまだ、レイア姫が幼過ぎるので殿下もさすがに大事を行えない。次の結婚は早くても1年は待つだろうし、そうなるとセレナの番が来るのは、順調にいったとしても3年後くらいになりかねない。

 順番が違えばもっと遅くなることだってありえる。


 だがヘカチェリーナの言う通り、2人同時に結婚してもらえれば最短で1年―――2年早まることは、セレナには中々に大きい。



「……。……そのお話、もう少し詳しく煮詰めましょう」

 殿下と同い年なクララとシャーロットは、えっ、とセレナの一言に驚く。10代の若いコたちには分からない、女の焦燥に駆られた情熱がセレナに瞳に宿っているようだった。




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