第148話 残念勇者、再びです
魔物の群れが王国内に出没し、王城にまで侵入して襲撃をかけてきた。
これでは国境に張り付いてる主力軍は何のために存在しているのか?
「―――と派閥を越え、多くの貴族達がゴーフル中将への不満を日に日に募らせている様相だ」
「当然でしょうね、特に保身欲の強い方ほど声をあげそうです」
宰相の兄上様に、近頃の貴族社会の様子を聞かせてもらう中、僕は王国の主力軍がどこまでちゃんと仕事してるのか疑問になった。
「東の国境の先から、魔物の軍団が攻めて来たとき……、主力軍は具体的にこれらをどう撃退しているのでしょうか?」
まだベッドの上が多い僕だけど、こうして兄上様達がお見舞いに来てくれた際に色々と聞けるので、状況は何となく把握はしてる。
襲撃を受ける前もそうだったけど、王国の主力が活躍している話って、実はあまり聞かない。
「報告によればという前提つきだが、おおよそ月に1、2度のペースで数千の魔物を撃退している。国境に整備した拠点による防衛戦が多いということだが……」
そこで言葉を濁す兄上様。
きっと兄上様も、主力軍からの報告は疑って見ているんだ。
「被害など大丈夫なんですか? 兵士の方々の損失などに対して、補充は問題なくできているのでしょうか……?」
戦いだから死人は避けられない。どんなに強固な要塞に立てこもったって、1人も死なせずに戦闘を乗り切るのはとても難しいことだ。
「いや、被害は
なるほど、異常だ。
人間同士の戦争でも人の損失ゼロの戦闘とか、なかなかありえる事じゃない。まして相手は一筋縄じゃいかない魔物。なのに兵士が1人も死んでない?
「さぞ随分とすばらしい采配を取られているんでしょうね、ゴーフル中将は」
「ああ、本当であれば歴史に名を残すほどの英雄となれるであろうな」
当然、僕も兄上様も皮肉で言ってる。そんなバカげた話はありえない。
アイリーンのスパルタに鍛えられた兵士さんでさえ、魔物を相手にってなると、1人の死者も出さずにとはいかないはずだ。
「……兄上様。少し協力して欲しいことがあるんですが、よろしいでしょうか?」
――――――3日後。
「ではアイリーン。本日は僕の代理、よろしく頼みますね、座っているだけで大丈夫ですから」
「ぅう……それは、そうですけど……いえ、旦那さまのためにも頑張ってきますっ」
今日、宰相の兄上様にお願いして、
ただし僕は面会しない。場所も玉座のある王族との謁見用の部屋だ。
「大丈夫、セレナに同席してもらいますし、やり取りはすべてしてくれますから」
「お任せください殿下。アイリーン様、座っているだけで良いのですから、そんなに嫌がらないでくださいませ」
世間一般には、僕は重篤で病床についてるウワサが広まってる。なので、僕が面会するわけにはいかない。
今回は
「(ちょっと不安はあるけど、軍部を通さずにってなると
・
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そして面会が終了して、アイリーン達が戻って来た。僕はレイアを抱っこしながらそれを迎える。
「お疲れ様です。……その様子ですと、どうやら相変わらずだったみたいですね?」
「……はい、相変わらずでした。ぁー、斬り伏せたい……割と本気で……」
軽く殺気立ってるアイリーンに、僕の腕の中でレイアはキョトンとしてる。
続いて引き揚げてきたセレナも温和な彼女にしては珍しく、眉間にシワを寄せていた。
「……殿下、とりあえずは依頼のほど、方々は受諾しました。ですが本当にアレは大丈夫なのでしょうか??」
初見のセレナでさえ “ アレ ” 呼ばわり。どうやら彼は、以前会った時とまったく変わってなかったみたいだ。
「ええ、まぁ……。“ アレ ” は不安が残りますが、残りのお二人がしっかりと手綱を取ってくれると思いますので。それに一応 “ アレ ” は勇者の称を正式に得ている者ですからね」
そう。今回僕がある事を依頼したのは他でもない、あの勇者ジェイン一行だ。
(※「第31話 復活の呪文は教えられないのです」参照)
「殿下のことを “ そのままくたばればいい ” だなどと不敬極まりない暴言を吐いておりましたけれど、アレが勇者の称号を得ているというのは本当なんですの?」
セレナに続いて、政治的な話になった時のために控えていたクララが怒りを通りこして、信じられない者を見たと言わんばかりの呆れ顔で帰ってくる。
「はい、残念ながら本当ですよ。こちらとしてはやる事やっていただければ、僕への不敬は大目に見ます。―――むしろ、彼がそんな暴言を吐いてくれたのでしたら、そのカバーのために他のお二人が、こちらからの依頼をしっかりとこなして結果を持ち帰ろうとしてくれるでしょうしね」
するとクララは、あー と納得していた。たぶんジェインが不敬な事をのたまった直後、仲間のセーラとクリスが彼を床に引きずり落とす、一連の流れを見たのだろう。
ジェインは確かにちょっと眉をひそめる人物だけど、仲間2人がしっかりしてるので、あのパーティは割とバランスが取れてる。
こっちが寛大に接すれば、きちんと成果をあげてくれるはずだ。
「わーん、旦那さま~、レイア~、慰めてくださ~い。精神がガッツリとすり減りましたよう~」
子供みたいに僕達に抱き着いてくるアイリーンに、僕は頭を撫でてあげる。
「よしよし、よく頑張ってくれましたね、ありがとうございます。はい、レイアもお母さんによしよししてあげましょうね」
「ぁーぅ、ぅっ、ぅっ、まーぅっ」
ちっちゃい手をアイリーンの前髪に持っていってあげると、僕の真似をしてか左右に振る。
レイアの可愛らしい仕草のおかげで、勇者ジェインにすり減らされた皆の気力が、まったりと癒されていった。
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