第146話 お見舞い品を仕分け処分です




 ルクートヴァーリング地方からお見舞いの品が大量に届いた。




「これはまた、すごい量ですね」

 特に目を引いたのは、収穫した中から一番良かったものをわざわざ選別した作物。

 1種につき、中くらいの1箱か1袋ずつ。だけど中におさめられてるモノは、市場に出回ってるのと比べて、見た目にも明らかに品質が上だった。


「手紙も山もりですわね……殿下がかの地の領民に好かれていらっしゃるようで何よりですわ」

 傍に置かれたテーブルで、クララが山のような手紙を素早く仕分けしてくれてる。手つきは優雅なのに、専門の事務員も顔負けのスピードと正確さだ。


「ほーら、すごいですねー、レイアー。これ全部、旦那さまのお見舞いなんだそうですよ~」

「ぁーぅ、……きゃっきゃっ」

 アイリーンに抱かれたレイアが、中庭に積まれた大量の荷物を見て喜んでる。


 微笑ましいし可愛いけど、何だか少し違和感を覚えてるのは僕だけみたいだ。


「(まだ生後半年にも満たないのに……レイア、僕達の言葉とか分ってるような時がある気がするけど、気のせいかな??)」

 今の、母親からアイリーンの語りかけから中庭の荷物を見て声をあげるタイミングまで何て言うか、言葉の意味を・・・・・・理解してる子供の反応っぽく思えてしまう。

 生まれついて賢い子なのか、それとも―――




「(―――まさかね。さて、お見舞いは嬉しいけど、どうしようかな……)」

 例の離宮にとも思ったけど、怪我して静養中の今の僕は王城から出られない。

 なので手紙だけこちらに、って言ったつもりだったんだけど、伝達にどうやらミスがあったらしい。品物も全部王城に届けられてしまった。


「いつかのエイミーの遺品に比べれば少ないですが、それでもこの量は保管場所に困ってしまいますね」

 僕の名代領主であるコロック=マグ=ウァイラン卿には、世間の危篤・重篤説はあえて流したウワサだってことは伝えてある。

 だけど政治的な意図あってのことだから、コロック氏は分かってても他の人には本当のところを言えない。なのでルクートヴァーリングの領民や地方貴族なんかが、お見舞いの品や手紙を送るのを止めるわけにもいかないわけで……。


「これでも当初より少ないそうですわ。ウァイラン卿のお手紙には、最初はこの数倍を送ろうとしていらっしゃって、方々を何とかなだめ、こちらの迷惑にならないようにと説得した末にこの量になった……と、ありますわね」

 嬉しい悲鳴だ。コロック氏にも随分迷惑をかけて申し訳ない。今度、何か返礼とねぎらいの品を贈ろう。


「パパってば、お人好しだからねー。みんなにせっつかれてワタワタしてる姿が目に浮かぶわー」

 ヘカチェリーナがププッと、自分の父親の慌てふためく姿を想像して笑う。コロック氏が精力的に頑張ってくれてるのも、将来的に彼女を僕の側室に迎え入れることが内定してるからだ。


 娘が玉の輿に乗れば、ウァイラン家は王家親戚筋っていう事実をゲットできる。下手な貴族に嫁がせるよりも娘は幸せになれるだろうし、お家のためにもなるわけだから、当代ウァイラン家の当主として頑張るのは当然だ。


「(僕はちょっと申し訳ないなーって思ってたのに、実の娘はプークスクスって……容赦ないなぁ)」

 レイアもいつか、父親の僕のことをあんな風にネタにして笑うんだろうか? そう思うと、ますますコロック氏に同情と申し訳ない気持ちでいっぱいになった。



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「こちらは粉にしてから王家筋の方々へと贈りましょう。普段から料理に使えますし、困るものではないはずです」

「では、こちらのお肉も保存用の干し肉になさるんですの?」

「ええ。ですが送り先は……セレナ、王都圏防衛の部隊で消費してください」

「それはありがたいです、殿下。近頃はお肉類が細る時期でしたので兵は皆、喜ぶことでしょう」

 見舞い品の目録を作成した後、僕はそれを見ながらどう処理するかを決め、クララがメイドさん達に指示を出す。そしてセレナが命じた兵士さんが、処理の仕方の決まった箱を運び出していく。


 それを隣のテーブルでヘカチェリーナとアイリーンがレイアをあやしながらぽやーっと眺めていた。


「あっちは忙しそーだし。アイリーン様は加わらなくっていいのー?」

「うー……何が何だかよくわからなくて、頭が割れそうになるから……」

 一応はハーレムリーダーなアイリーンだ。常に夫の僕の隣にいたいし、本当ならこっちの輪にも加わってるべきなんだろう。

 けど人には得手不得手がある。子供の頃ならまだ修正や学習はきいても、大人になってから自分の不得手分野をどうにかするのは至難だ。


「アイリーンは僕達……特に、レイアをちゃんと守っていてくださいね。一番・・重要なことですから」

「! はいっ、もちろんです旦那さまっ」

 途端に元気になる僕のお嫁さんアイリーン


 クララとセレナ、そしてヘカチェリーナに周囲のメイドさん達や運搬で行き交う兵士さん達までもが、口では何も言わなかったけれど “ チョロい ” って思ったようで、みんな表情に出てる。


「(でも、そういうところも含めてアイリーンは可愛いんだ)」

 そんな中、僕だけは満足気にニッコリ笑顔を浮かべた。





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