第129話 王弟殿下のスキルです




 僕のスキル < 恩寵 > おんちょうには、段階がある。



 まず発動して与える相手を見ると、与えることが出来るスキル候補が僕の目に見える。それらのスキル効果なんかの詳細もわかる。


 次に、候補の中から選んだスキルを実際に与えるわけだけど、候補とスキル効果だけを見るだけ見といて、やめる事も可能だった。


「(そのことを利用して、幼い頃から色んな人を見て候補スキルとスキル効果を見てきたから、スキルに関しては結構知識がたまったのは、副産物だ)」

 個人差はあるけど、だいたい1人につき3~5つの候補が出る。中には9つも候補が出た人もいた。なんでそういう差があるのかはまだ分からない。


 時間をあけて改めて同じ人を見ても、候補の数も内容も変わってなかった。たぶん候補内容はその人で固定っぽい。



「(そして、これが一番重要だ)」

 スキルを与えた相手の居場所がわかる―――強くその相手を意識すると、だいたいの距離感や方角、動きなんかも判別できるし、すぐ近くに別の誰かがいたりすると、その気配的なものも感じる事ができる。


 僕のスキルで、僕自身に何か恩恵があるとしたらコレだ。


「(あえて怪しそうな人にスキルを与えておく、って事をすれば動向がわかる。何度かそう思った時もあったけど、やらなくて正解だった)」

 というのもどうやらスキルを与えた事は、相手にわかってしまうらしい。


 先日、アイリーンに与えた時、与えられたスキルについて自分の中にポンッと情報が浮かんできたそうだ。しかもご丁寧に、僕の名前と<恩寵>で与えられたって事も添えられて。

 このあたりはスキルの仕様だから仕方ないけど、やっぱり軽率に誰かに与えなくてよかった。




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「旦那さまっ、どうですか? 上手く動かせて・・・・ますか?」

「シー、お静かに。ただでさえ秘密裏の練習なんですから、ダメですよ」

 お嫁さんアイリーンは慌てて自分の口をふさいだ。

 出産から3週間、久しぶりにベッドで一緒に寝てる。だけどさすがに夜の営みはまだできない。

 なのでこの時間は他に周囲に誰もいない事を利用して、アイリーンに与えたスキルの練習を密かにしてる。


 ベッドの中でお互いに向き合ってる状態。


 アイリーンのすぐ上でもう一人のアイリーンが、アイリーンと同じように自分の口を塞いでいた。




 ――――――<アインヘリアル>勇者の左腕は蘇る。これが僕の<恩寵>でアイリーンに与えたスキルだ。



 簡単に言えばアイリーンの分身体みたいなもの。だけど半分幽霊って感じで、壁や天井を余裕で通り抜けられる。


 見た目はアイリーンと同じ。だけど目が単色でよーく見ると、全体の色も少し薄い。アイリーンが意識を集中するほど実体化するので戦う事もできる。


 逆にアイリーンが気を抜くと色が無くなって真っ白な、形だけアイリーン状態になる。アイリーン本人と違って半幽霊なので、適度に気を抜いて実体化を弱めれば、重力も関係なく縦横無尽に空中を移動させる事も出来る。


 戦う時は、さすがにアイリーン本体の強さを完全にトレースは流石に出来ない。


 だけどスキルの詳細からすると、アイリーンが意識をのせて戦闘操作すれば彼女の経験と知識でもって動かせるので、耐久面を除けばかなり本人に近い戦闘力を発揮することもできるみたいだ。




「(遠隔リモートで並み以上の戦力を出せるってなれば、上等すぎる分身だよね)」

 アイリーンが完全復帰すれば2人分……とまではいかなくっても、1.8人分くらいにはパワーアップできるかもしれない。


 しかも今回みたいにアイリーンが何かの理由で戦えない時でも、アインヘリアルを使えば本体は無理せず戦闘に対応することも可能だ。

 ある意味、個人で最強クラスな戦えるお妃さまっていうアイリーンの立場に、一番合ってるスキルかもしれない。



「んしょ、んしょ、あれれ? うーん、同じ動きになっちゃう~、なんでぇ??」

 ……もっとも、自由自在にアインヘリアルを動かせるようになるには、かなり練習が必要そうだけど。


「最初のうちはそれでいいと思いますよ。無理せず少しずつ使いこなしましょう。……あ、もちろんこの事は、普段はナイショです。コレはイザという時の切り札ですから、エイミーやヘカチェリーナ達にも秘密にしてくださいね。もちろん兄上様達にもです」

「はいっ、私と旦那さまの秘密ですねっ、えっへへ♪」

 





 ちなみに、アイリーンに与えることの出来たスキル候補は……


 <アインヘリアル>―――――分身を出して動かす

 <パワーエクスチェンジ>――力を一時的に別のステータスに変える

 <叩頭視思>こうとうしし――――――――自分が見た物や思った事を頭を叩いて相手に伝える

 <オーバースラッシュ>―――持ってる武器の斬撃力を限界を超えさせる。

 <集光無人>しゅうこうむじん――――――――見えなくなるほどの光を集め、光る。

 <セブンスゲート>―――――衣服を脱ぐたび周囲を無力化。自身も弱体化する。



 ……という6つだった。


 迷ったのは、<アインヘリアル>と<叩頭視思>こうとうししの2つ。

 アイリーン自身はそれほど頭のいい女性じゃない。なので<叩頭視思>こうとうししは、本人の言いたい事や思った事を正確に相手に伝えられるスキルとして、最初は有望かなとも思ったんだけど……


「(アイリーンの力で頭叩かれたら、一歩間違えると失神しそうだしね)」

 <パワーエクスチェンジ>は力を、速さとか知能だとか、本人の別のステータスに一時的に割り振れる感じ。便利そうに思ったけど、一度割り振ると一定時間戻らないっていう条件があったのでやめた。


 <オーバースラッシュ>は、木の棒とかでもあり得ないレベルの切れ味になるみたい。だけど武器を持ってること前提のスキルだから、汎用性に欠ける気がしたのでパス。


 <集光無人>しゅうこうむじんは……目くらましには強力なんだろうけども……同時に超目立って、敵の増援とかめっちゃ駆けつけてきそう。


 <セブンスゲート>は多分、イシュタルの冥界下り的なモチーフかな?

 最大で7回、衣服を1枚脱ぐたびにそれを見た者全員が無力化される、っていう、強力そうな効果。

 ……ところが見た者にしか効果がないのと、自身の弱体化、加えて回数制限付きとデメリットが多いのでやめた。


 そもそもアイリーンの強さなら、相手を無力化しようとする間にほとんどの敵を倒してしまえるだろうし。



 そんなわけで僕は、アイリーンにはどんな状況下でも安定して汎用的に使えそうなスキルとして<アインヘリアル>を与えた。





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