第128話 おぞましい人達を危惧します



「………」

 僕は、娘の顔を見ながら迷っていた。

 果たして僕のスキル・・・・・を娘に使うべきかどうかを。



「(ヴァウザーさんの話を総合すると、この王国内に魔物を使役しようとしてる人達がいるのは確実だ。しかも、かなりエグい方法を使ってまで)」

 ヴァウザーさんと一緒に襲撃の手駒として、ネーブル卿に使役されていた2体の魔物―――獅子魔人ライガルオ二足歩行狼ウォルフ


 この2体……実は、純血の・・・魔物じゃない事が分かった。


「(魔物を " 声刻 ” で操ることはできなかった。それは知能が低すぎて・・・・、操ってもざっくりとした命令さえ理解できない上に、意志を縛っても本能で暴れ出すから、行動を制限することさえできていなかった……か)」


 そして人は、とんでもない事を考えてしまった。


 ―――魔物と人の交配。


 ヴァウザーさんが “ 奴ら ” に囚われていた場所で“ 奴ら ” は、どこからさらって来たのか人間の女性に、魔物のオスをけしかけたらしい。

 結果、おぞましくも子を得ることに成功はした。けれど " 奴ら " が望んだような成果じゃなかったらしい。


「(ほぼ、生れたのは父性側……つまり魔物そのものだった。“ 奴ら ” は操るのに、ちょうど良い知能と魔物の力を持ったハーフを期待してたらしくて、目に見えてガッカリしていたってヴァウザーさんは言ってたけど、その話からすると……)」

 魔物の遺伝子は人間の遺伝子を淘汰とうたしてしまうってことだ。


 遺伝子や生物学の知識がないと判らないだろうから、“ 奴ら ” からしたら人間と魔物で子が出来れば、双方で半々な子供が生まれるっていう根拠のない算段だったに違いない。


「(けど、生れた子供は100%魔物というわけでもなかった。見た目や身体能力は魔物そのものだけど僅かに知性が高くなってて、意外にも人間の言葉を理解して従うことができた。それがあのライガルオやウォルフ……)」

 ちなみにあの2体からも、すっごくたどたどしかったけれど話を聞く事ができた。


 それによると、どうやら " 奴ら " に母親―――つまり人間側の親を人質に取られていて、命令を聞かざるをえなかったらしい。


 母親の女性は、魔物という異種を産んだせいで息も絶え絶えな酷い状態……明日をも知れない有様だとか。

 そこで “ 奴ら ” は、死なないよう面倒を見てやるから言う事を聞け、って感じで隷属させていたみたいだ。

 話からすると、一応は ” 声刻 ” も有効みたいだけど、どちらかといえば2体の魔物を縛っているのは人質の存在が大きいみたい。




「………」

 僕がスキルを使うのを迷っているのは、そんなおぞましい事を平気でする人達がこの世に存在してること。そして、そこまでの事をするってことは、相当危険な事をたくらんでるからであって……


「(生まれたばかりの僕の娘……、もし僕達で守り切れなかった時は……)」

 娘自身が、最後の最後は自分で自分を守らなくちゃいけない。

 どんなに親の僕達が彼女の守りを厚くしたって、絶対はないからだ。


 怖い―――守れなかった時の恐怖が強く僕に襲い掛かってくる。


 だから僕は迷ってる。僕のスキルで、娘に与える・・・だろう、と自問自答してしまうんだ。

 でも、娘はまだ生まれたて。自我もあるかどうかわからないほど幼い。与えたところで意味がないんじゃ同じだ。


「……、最善の手は……」





  ・


  ・


  ・


 娘が生まれて1週間ちょっとが経過したある日。



「アイリーン、身体の調子は良さそうですね」

 まだベッドから出て自由に動くことは許可されないけど、僕のお嫁さんはすっかり血色良くなって元気を持て余していた。

 留守番で暇してる子供みたいな顔でベッドの上を左右に転がってる。


 その様子にヘカチェリーナが苦笑いしながら肩をすくめ、護衛メイド達も困ったような笑顔を浮かべていた。


「旦那さま~……退屈です~……、御来客と少しお話して~、赤ちゃんにおっぱいをあげて~、あとのほとんどがベッドの上ですよぅ~……う~……」

 そんな母親と違って、隣の赤ちゃんは今日も大人しくすやすや寝てる。

 昨日、目が初めて開いた時は周囲がお祭り騒ぎになったけど、当の本人は意に介さずぽや~っと天井を眺めてた。


 あんまり夜泣きもしないし、日中もグズることがない。我が娘ながらとっても大人しいコだ。




「(母親のアイリーンと真逆だから、こうして並んでるとつい笑っちゃうんだよね……さて、と)」

 僕は、意を決する。


「ヘカチェリーナ。少し席を外して・・・・・ください」

「! 了解、じゃ…ごゆっくり~」

 護衛メイドさん達を連れてヘカチェリーナが退室する。うん、本当に優秀。


「? 旦那さま、どうしたんですか??」

 さすがのアイリーンも僕が真面目な雰囲気に変わったのは察したみたいで、きょとんとしながらも、居たたずまいを正すように布団の上に座った。


「……アイリーン、僕はこれから君に新しい・・・スキルを授けようと思います」





 僕のスキル――――――その名も<恩寵>おんちょう



 一言でいえば、他人にスキルを与えることが出来るというスキルだ。



 色々条件はあるし、何でも好きに与えられるわけじゃないけど、周りの人を強化するっていう意味じゃお手軽かつとても強力なスキルだって言える。


 僕が今まで自分のスキルを使ってこなかったのは、自分自身には与えられないことと、与えた他人が僕の味方で有り続ける保障がないこと。

 そしてまだ誰が僕の味方か敵か、ハッキリしない人も身近に大勢いることから、下手にスキルを与えては後々危険になると思ってたからだ。


 もちろん、僕がどんなスキルを持ってるかっていうのも公にはしてない。兄上様達にさえ嘘の説明をしている。





 だけど今回、僕はアイリーンにスキルを与えることにした。


 それは娘の傍に一番たくさん一緒にいられる人間は他でもない、アイリーンだからだ。


「(アイリーンの強さは今の時点でも間違いない。けど敵が魔物を用いてくるっていうのがわかった今、ただ最強に強いってだけじゃ、きっとダメだ)」

 英雄も、ちっぽけなサソリの一刺しに命を落とす、なんて前世の神話にもある。

 そうした真っ向からじゃない、搦め手のような攻撃をされたら、アイリーンでさえどうにもならない事はあるはずだ。


 それに僕の赤ちゃんを実際に生んでくれたアイリーンは、僕のスキルを使用する相手として、一番安心できる。


 人生初のスキル使用、第一号としてベストだと、僕は判断した。





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