第115話 思惑の絡む前準備です





 可能性が高まってたから備えてはいたし、問題なく対処もできた。けど僕は今回の襲撃事件を利用することにした―――セレナの件で。





「案の定、大臣さん達の反発は大きかったですけどね」

「それはそうでしょう、軍の女性が王室に近づく……嫌な顔をされる方の顔ぶれが想像つきますわね」

 クララとエイミーを連れて庭を散歩しながら話す。


 セレナの軍権を維持したまま僕のお嫁さん―――王弟妃の一人にするっていう計画の話だ。


 もちろん今はクララと婚約してるし、いきなりセレナとも結婚、とはいかない。何よりアイリーンの出産待ち状態でもあるわけだから、僕のハーレム計画は渋滞中だ。



「ですが以前よりも明確に反対する方は減っていましたよ。王都を守る軍の再配備の件といい、先の魔物の軍勢との戦いは予想以上に保守貴族の方々に臆病風を吹かせたようです」

 以前は反対していたくせに一転して “ まぁそれも悪くはないのでは ” みたいな雰囲気になってる大臣がいっぱいいる。


 理由はシンプル。イザってとき、王城に常駐する軍事力が多ければ多いほどお城に出仕してる貴族達にとっても安全性が増す。

 特に兵士さんの数だけじゃなくって、その指揮がとれる人間が増えればなお良し。軍事に疎くても的確な指示を出せる者の重要性は分かってるらしい。


「なるほどですわ。そこをついて殿下は、セレナ様をねじ込むおつもりなのですね」

 クララは本当に話しやすい。現状、お嫁さん達の中じゃこういう政治や政策的なお話で僕と上手く会話できる一番はやっぱり彼女だ。


 僕が愛でるとすぐにデレデレドロドロになるけど、さすが真正のお嬢様。しかもあのエイルネスト卿の娘だ。

 どこの権力者に嫁いでも夫とスラスラと会話が可能なようにと、幼少のころから叩き込まれたその教養の深さはダントツ。


「(ちなみにその筋じゃあ、意外にも2番手はセレナじゃなくてシャーロットだったりする)」

 セレナも生粋の貴族令嬢だけど、家の権力に頼らずに自力で軍を上っていくために10代の大半を費やしてる分、その辺りの教養はやや遅れを取ってる。……といってもクララやシャーロットが飛びぬけて凄いだけで、セレナもその教養は並み以上だ。


 何より凄いのはシャーロット。いくら母上様が教育したからって、数えるほどの年数で生まれつきのクララに追いつけ追い越せなレベルに達したのは驚きだ。


 今のところ、僕が振る話題を意識して考えずとも、どんな話でも通じるのはクララとシャーロットだけだった。







「……ン、ンン……ンフ……ぅ、……はぁ、はぁ、それで殿下……ンン、セレナ様は一体、どうなるのですか? ンッ……」

 中庭から部屋に戻った後、クララがエイミーを撫でまわし始めたので、僕はそのクララを愛でる。

 彼女の頭を掴んでのチュパチュパキスの嵐だ。


「ふにゃぁぁあ、く、くららしゃま……そ、しょんなとこ……あひっン」

 クララもクララで、エイミーのお腹とか怪しいところとか撫でまわしてる。なのでエイミーも完全に脱力させられてフワフワな状態になってた。


「セレナは今度、王城入りしてもらいます。王都防衛圏の責任者ですがアイリーンの事件を受けて王城に拠点を移してもらう事で警備力をより強固にする、というお話でまとまりました」

 つまり兼業だ。

 王都圏防衛の指揮は、それこそ多数の魔物が王都に直接迫ってきたとかでもない限りセレナが出る事はないから、普段は王都内であればどこで指揮を取っても大差ない。



 それに王家の初子を抱えるアイリーンの寝室に、侵入者があった事件の方が今は一大事。その護衛と警備力を高める事は最重要事項だ。


「何よりセレナは女性ですからね。他にも女性の兵士さんや護衛メイドさん達はいらっしゃいますが、多人数を指揮する経験豊富な女性の存在を側に置くことは重要です」

 トロトロになってる瞳の奥でチカッと輝くものがある。どうやら僕の婚約者クララは要点を察したらしい。


「お産の時……ですわね?」

「その通りです」

 もしも、あのアイリーンが一番戦闘力を落とす時があるとしたら、それはまさしく出産中だろう。いくら強くても、今まさに子供が生まれるっていう時には戦闘行動はまず取れない。


 だけどさすがにお産の最中、護衛とはいえその近くで多数の男性がひしめく事になるのは……しかも王弟妃の出産だ。格式的な意味合いでも、その辺りの線引きはより厳しくなる。


 これに立ち会うべきは夫の僕と担当医師、そして相応の地位ある女性が望ましいと思われる―――それが、僕がセレナを王城に常駐させるために打った一手……ううん、一言だった。



「もう殿下ってば、呆れた御方ですわ。アイリーン様のお産を理由に、セレナ様をお側に寄せるだなんて」

 言い方。何だか女癖の悪い男みたいじゃないか。笑顔を浮かべながらも、内心ちょっぴりだけムッとする。


「そういうつもりではなかったんですけどね。アイリーンのお産は大事ですし、事実として、お産の際になるべく近いところに、信用できる護衛が置けるかどうかというのは重要ですよ」

 これは僕のお嫁さんと子供の安全に直結することだ。セレナが信頼できる人間で、かつ信頼できるだけの実力の持ち主なのも間違いない。人選として見ても正しいはずだ。

 ……一応、僕の子供の出産を守ったっていう意味で、セレナの功績を高める算段も含まれてるのも間違いないから、アイリーンの出産にかこつけてる部分があるといえばあるんだけども。



「……第一それを言い出しますと、こうして二人を愛でる手を止めないといけませんね、僕は」

 クララへの仕返しだ。僕が “ はいおしまい ” とばかりに身体を離す素振りをすると、二人は慌ててすり寄ってきた。


 ―――愛玩動物ペットが2匹。


 なんて不謹慎な事を考えながらも、僕は可愛らしい二人をヨシヨシと撫でて、再び愛で始めた。






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