第113話 奇人の杖です
「アタシのスキル、
ヘカチェリーナの説明を聞いて最初、かなり凄いスキルのように思えた。だけど世の中やっぱり、そう上手くはいかないらしい。
「最初はさー、マジでこのスキル便利なんじゃないかって思ったし。でも色々試して分ったんだよね。効果がどんくらい出るかは
つまりスキルを使用したときのヘカチェリーナ自身の感覚や感傷、何気なく考えてたこととか、そういう意図しないフィーリングに効果の強さが左右されてしまうらしい。
「効力自体はどんなのにするかってアタシが自由に決められるんだけど、その時の直感的なモノから外れてるの選んじゃうとびっくりするほど弱い……ってかほぼゼロになっちゃって不発と変わんないから、上手く使うのメチャクチャ難しいし」
その時その時の自分の無意識下の感覚に従って効果を選ばないと無意味になるっていうのは、確かにものすっごく扱いづらいスキルだ。
自分でどんな効力を発揮させるか決められるのに、矛盾してるけど事実上選択できないのと同じとか、すっごくもどかしそう。
「ちなみにあの襲撃犯に使ったのは、どんな効果だったんですか?」
「あの時はー……メイドの待機部屋でちょうど夜番で暇してて、ぼけーっとしてたんだけどホラ、アイリーン様のお産も近づいてきたじゃない? やっぱイザ産むってなるとメチャクチャ痛いのかなーって。んで、寝室になだれ込んだ時、ベッドの上の殿下の向こうにさ、アイリーン様のおっきいお腹のとこだけちょこっと見えてー。……で、咄嗟に " 超痛い腹痛 ” で感じでピーンときて、棒に込めたってワケ」
ちょこちょこ
でも一緒に話を聞いてたアイリーンは、すぐに理解できたらしい。
「? それってつまり、スキルの発動タイミングはいつでも……今回の場合は、事前に発動して、効力をその棒に込めておいたってこと??」
「そそ。あの殿下が考えたカラコロン鳴る奴って不審者が来た時用っしょ? なら鳴って駆け付ける時は攻撃する系の効力でとりあえずオッケーだし。ホントはもっと早いこと入れときたかったんだけど、結局いい感じのフィーリング感こなくって、なーんにも準備してなかったから、結構焦ったし」
なるほど、事前に入れて
「……で、丁度いいから殿下には一つ謝らないとね。実は―――」
・
・
・
夜にヘカチェリーナが、やたら僕の “ お世話 ” をしてお嫁さん達のところへ送り出してた理由が判明。
(※「第60話 自分の庭を賜りました」参照)
閨のお手伝い―――つまりは
「いやー、ホラ。殿下は元から相当でしょ、可愛らしー見た目と違って? だからお相手するアイリーン様たちの方を元気にして、殿下に付き合えるよーにしたら頑張る回数も増えてさ、結果的に子宝に繋がりやすくなるんじゃないかなーってふと思ったんだけど、なんかしっくりきちゃって」
「……そういうことですか。ずっと妙なことをすると思ってたんですよ、怪しく思っていたくらいです」
ヘカチェリーナのスキルはあくまで棒状のモノに効力を込め、それで突いたところにその効力が発揮される。
つまり、就寝前の彼女の “ お世話 ” によって付与された効力は僕じゃなくって、僕のお嫁さん達の方に与えられてたわけだ。
「(そういえば……)」
思い当たるふしがあった。
確か、シャーロットを思いっきり愛した日の少し後くらいだったと思う。
(※「第62話 最胸ママの子授かり術だそうです」参照)
僕が閨に入ってからアイリーンやエイミーが限界を迎えてギブアップするまでの時間が明らかに長くなった。
あの時はてっきり、僕との閨に慣れて体力がついたとか要領が分かってきたとか、そういう風に思ってたけど―――
「―――まさか専属メイドのイタズラだったなんて、思いもしませんよ」
「でも効果はあったっしょ? フッフッフ♪」
そう言って自信満々に胸を張るヘカチェリーナ。
最近、あの
「(いや、アイリーンの妊娠がヘカチェリーナのおかげかは分からないけど)」
この世界の子作り常識じゃ、子種をたくさん出す=妊娠しやすい、みたいな単純な図式で信じられてる。
確率でいえば確かに間違いってわけじゃない。量が多いに越したことはないとは思う。
けど排卵から受精、そして着床っていう妊娠までの過程や、精子と卵子の寿命、生理とのタイミングなどなど、妊娠に関しての実際は結構複雑だ。だけど……
「(この世界には早すぎる知識……何せ細胞とか微生物とか、そういうところが分かってないと、“ 何言ってんだコイツ ” 状態になっちゃう―――)―――うん、もしかしたら本当にヘカチェリーナのおかげかもしれませんね」
そういう事にしておく。
天動説と地動説をめぐる話は有名だ。そうでなくとも新しい事実や知識、発見というのは人々には受け入れられにくく、一歩間違えたらすぐに異端視や狂人扱いされやすい。
よく異世界転生モノのお話じゃ、前世の知識をひけらかして無双するなんていうのはお約束だけど、現実じゃ途方もなく危険なことだ。都合のいい物語のようにはいかない。
「(ともあれ、ヘカチェリーナのスキルについて分かったのは収穫かもしれない。スキルの性格上、あんまり頼ることはできないとは思うけど)」
他人のスキルの詳細に触れられることはすっごく稀だ。
この世界はとにかく、スキルにしろ魔法にしろ後ろ向きの傾向にあって、存在感が弱い。
それは軽々しく用いるのは危ういってことの裏返しだと僕は確信していた。
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