第112話 ビキニアーマーと曲者です



 もしも名の知れた強者を襲撃するとしたら?

 ……そう考えれば自然と警戒しなくちゃいけないタイミングも分ってくる。





「バカな、一体どうやってこれだけの人数が隠れていた!?」

 真夜中の明かりの消えた寝室。侵入者はとても驚いて困惑していた。

 姿は分からなくても闇の中に突然、人影が10以上も現われたらそりゃあビックリするよね。


 ―――パッ


 寝室のシャンデリアに明かりが灯る。


「な、何!? これは、人……形!?」

 深い紺色の包帯のようなもので全身を巻いている侵入者は、現れた影の正体に愕然とした。


 人の形をした平べったい人形が、ベッドの枕元のヒモを引くことで起き上がる仕掛け。

 裏面は部屋の絨毯と同じ生地が張り付けてあって、表面は人っぽい絵が描かれてる。


 これは僕のアイデアだ。



 クリンツと農業について会話を交わした時、一番困るのはやっぱり獣や鳥の被害だと言っていたので、前世の記憶から牽制人形かかしの事を話したんだけど、その時にピンと閃いたのが、このセキュリティ。


 同時に護衛の兵士さん達がいる別室で鳴子なるこが鳴るようにもしてある。


 侵入者に気付いても、護衛の皆さんが駆けつけるまではどうしてもタイムラグが出来てしまうので、その隙を埋めるためのコケ脅しだ。


 そして明かりが灯ったという事は、兵士さん達が到着したって事に他ならない。人形達はパタリと床に寝そべり、絨毯と一体化した。



「動くな! 貴様は完全に包囲されている!」

 寝室になだれ込んできた護衛の兵士さん達が一瞬で配置につく。アイリーンと一緒に寝てた僕は、ベッドの上で彼女を守るように構えた。


「ちいっ!」

 完全に包囲され、逃走経路になりそうな箇所も全て防がれてる。けど侵入者は、諦め悪く剣を抜いて振り回し、包囲突破を試みだした。


「取り押さえろ! 包囲は解くな!」

 隊長格の兵士さんが声をあげ、連携してあたる護衛の皆さん。だけどさすが1人で侵入してきただけあって、敵も手練てだれだった。



 ギィンッ! カッ、キンッ、カァンッ!



「へ~、やりますねアレは。相当な剣の使い手ですよ」

 狙われてる自覚なし。僕のお嫁さんアイリーンは自分で戦えない分、観戦を楽しんでる風だった。


「(でも確かにすごい。四方八方からくる兵士さん達の攻撃を全部受けて弾いてる)」

 いくらアイリーンが今、臨月で思うように戦えない身体でも、戦士として有名な人物。その辺りを考慮して腕のたつ刺客を送り込んできたんだろうけど……


「(侵入者がたった一人っていうのが気になる)」

 こういうのは、複数人で事に当たるのがセオリーだ。


 一人が直接手を下すとしたら、万が一の時用に予備&サポートに1人、上手くいくにしろいかないにしろ、雇い主に報告に走るのでもう1人と、最低でも3人でやるものだって(主に前世の映画の知識から)僕は思ってた。





「ごめ、遅れたっ!」

 新たに慌てて寝室に飛び込んできたのはビキニアーマー姿のヘカチェリーナ。そして彼女が引き連れてきた特殊メイドさん達だ。

 彼女らは普段の仕事以外に、こういう荒事に対応する訓練を行ってる、護衛に特化したメイドさんで、護衛の兵士さん達が抜かれた時に要人の前に立つ最後の壁役を担う。


 すぐさま僕の前、ベッドの周りに配置され、ヘカチェリーナは僕とアイリーンのすぐ傍に滑り込んだ。


「ヘカチェリーナ、外周・・は?」

 彼女らが遅れた理由は僕が下した命令に従ったからだ。


 鳴子が鳴ったら彼女達はまず、直接襲撃してくる者とは別に部屋の外や廊下、別室なんかに仲間がいないかを探るようにと、事前に取り決めていた。


「念入りに調べたけど怪しいヤツはいなかったし。けど、いた痕跡・・・・はあったから、何人か置いといた」

「いい判断です。そちらは落ち着いてから調べましょう、今は―――」




 その時だった。


 ますます増えたこちらの増援に、侵入者は焦れたのだろう。捨て身覚悟の行動をすでにとっていた。 


「! 殿下、そのまま!!」

 ヘカチェリーナが叫びながら僕の前へ、そしてベッドの外へと飛び出す。

 そして左手に持った長さ30cmほどの棒を突き出した。





―――侵入者は兵士さん達との戦闘の隙をついて跳躍。一度後ろの壁に飛んでの三角跳びを行って、天井ギリギリを水平に飛翔しながらベッドに突撃してきた。


 なまじ広い王族の住まう部屋。天井までそれなりに高くて、十分な空間がある。


 侵入者のベッドへの突入角はなかなか鋭くて、天蓋つきベッドなので奥側にいるアイリーンに直接攻撃することが難しい。

 とはいえ、計算されたルートでの捨て身だ。


 護衛メイドさん達が上に向けて突き出した刃物短刀が無数の傷をつけても落下の勢いを落とさずに飛び込んできた。


 ドッ! ブシュッ!


 間延びするような時間の中、飛び出したヘカチェリーナが上方に向けて突き出した棒が侵入者の身体を突く―――と同時に、侵入者が突き出したショートソードの切っ先もヘカチェリーナの胸の上、右の鎖骨と乳房の付け根の間辺りに刺さった。




  ・


  ・


  ・


「ぐうううああああ!!? な、んだ……こ、れはっぁぁ!?」

 侵入者は床に這いつくばって腹を抑え、悶えてる。

 それを護衛の兵士さん達が完全に取り押さえた。


「大丈夫ですか、ヘカチェリーナ?!」

 僕は、棒を落としてベッドの端に足だけ乗せる恰好で床に顔面をつけ倒れたヘカチェリーナの身を起こす。

 すぐに護衛メイドさん達がベッドの周りを固めた。


「ん…ちょい斬られただけだから、へーき。まーまー痛いけどね」

 そういってウインクを返してくるいつもの感じのヘカチェリーナに、僕とアイリーンはホッとした。


「……でも、あの侵入者の苦しみ様、ヘカチェリーナさんは一体何をしたんですか??」

「ま……、なんてゆーか……スキル、みたいな?」


 そういって曖昧半分、諦め白状半分に言う彼女は、冗談っぽく笑うもやっぱり出血のせいか、いつもよりも顔色が悪かった。






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