第84話 ご令嬢達の憧れです
クララとの正式な婚約は、思いもしてなかった予想外の副作用が待っていた。
それは―――
「殿下、ご機嫌麗しゅうございますわ」
「殿下、ぜひ一曲私と踊っていただけませんでしょうか?」
「殿下、先の魔物との戦いの御武勇について、お聞かせ願えませんか?」
社交界のパーティの席で、以前にも増して7歳~25歳くらいの貴族令嬢たちが、やたら僕にアプローチしてくるようになったということ。
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「―――第一妃の懐妊中の婚約により、お前がハーレムを持つ事に前向きである事が、貴族社会にて広く認識されたのだろう」
宰相の兄上様が、そう教えてくれた。
つまり、クララとの婚約はエイルネスト家からの申し出だったから、僕が女癖の悪い王子とかそういう悪評こそ立ちはしなかった。けれど僕がたくさんのお嫁さんを持つことについてはあまり抵抗がない、っていう風に貴族達の間では思われたってことらしい。
「兄者がいまだお見合い攻勢をかわしている事も影響しているだろうな。王に自分が差し出す女を妃として娶らせることが困難と見て、次善としてお前に娘を差し出し、王室との繋がりを作らんと考えているのだろう」
さすが宰相の兄上様は物言いが鋭い。その口調と言い回しだけで、全部を言わなくっても十分に " 注意 " を促してるっていうのが伝わってくる。
確かに僕としては、将来のために色んな人材という形で、周囲を固める理由からハーレムを形成したいと思ってる。そのためにはまだまだたくさんのお嫁さんをGETしたいのも本音だ。
けれど、じゃあ誰でもいいかっていう事にはならない。いくら向こうからアプローチしてきても、片っ端から婚約だー結婚だ―なんてしてたら、むしろ将来安泰どころか、ものすっごく危険だ。
「(僕のお嫁さんの一席に
単純に家柄とか貴族の人間関係とかだけの話に留まらない。外からの敵は目に見えて脅威だけど、内に入り込んでくる敵はそれ以上に危険だ。
実際、僕へのアプローチを積極的に行うようになった令嬢の中には、反王室派な貴族家のコも混じってたし。
「(……まぁ、表向きはみーんな王室には忠誠を誓ってる風なわけだけども。中には令嬢自身、僕にアプローチさせられる意味をあまりよく分かっていなくって、本当に妻の一人になる事が目的になってるようなコも多いからなぁ……)」
こっちに悟られないよう反王室派貴族は、自分の娘を僕に差し向けるにあたり、その真意を娘には伝えてないっぽい。だから僕と話をする令嬢たちには、本当に僕と結婚したい、夢見る女の子な雰囲気で話しかけてくる純真な態度の人がとても多いんだ。
知らず知らずのうちに、家の主義主張のための道具にされている。本人はいたって本気で真面目に、勇気をもって特定の異性に嫁ぐための努力をしているというのに―――可哀想だけど、僕が彼女らの期待に応えてあげられる日は来ない。
「あれ? そういえば兄上様。僕へのアプローチが増えているのは分かるのですが、兄上様にはそういったお話はないのですか?」
長兄で王様な兄上様はまだ独身だけど、次男で宰相の兄上様は4人のお嫁さんを持って久しい。
僕はまだ
なら兄上様にも令嬢たちからの期待のアプローチがあってもおかしくない。
「………ないこともない。が、新たな “ 宰相妃 ” を迎える予定はまったくない」
兄上様がわざわざ “ 宰相妃 ” という言葉で言い表した。
つまり兄上様にとって、結婚はあくまでも王室のためという認識だ。愛や情欲に突き動かされて行うものじゃなく、結婚する事によって今の王室に利益があるならば検討に値する、といった感じなんだろうな。
「(うーん、でも兄上様のような考え方は重要な気がする。今の兄上様のハーレムの4人は、もともと王室派貴族家の令嬢たちで、お嫁さん間の関係も良好……そこにちょこっとアプローチしてきた令嬢を、ひょいっとお嫁さんとして加えたりしたら問題が起きるかもしれない)」
むしろ沢山のお嫁さんを持てば持つほど、慎重に良縁を厳選しなくちゃいけない。
うーん……男の夢、ハーレムの現実はとっても大変だ。
夜。
「ではエイミー様、私達はこれで失礼致します」
そう言って僕と入れ替わるようにエイミーの部屋を出て行ったのは中級メイド達―――彼女らも貴族家の次女以下なので、一応は貴族令嬢たちだ。
「……エイミー、彼女達はもしかして」
「ええっと、はい……殿下。どうすれば殿下にお見初めされるのか、って……」
困ったように答えるエイミー。
当然だ。彼女は僕が拾って、僕がお嫁さんの一人にする気で色々した。エイミー自身が、僕に何かアプローチして結婚できたわけじゃない。
王子様とラブラブになった経緯や方法を聞かれても、持ち合わせている答えはないから、すごく困るだろうなぁ。
「ですが、まさかクララとの婚約で、ここまで貴族令嬢たちが色めきたつことになるとは思いませんでしたよ」
僕が軽く上着を脱ぐ。それだけでエイミーはハッとして、いそいそと閨の準備を始めた。
だけど結婚当初に比べたらかなり慣れてきたみたいで、ドレスを脱ぎながらも僕との会話はそのまま続けてる。
「それだけ殿下が魅力的な王子様なんですよ、お気持ちはよく分かるです」
もしも自分が彼女達の立場だったら、きっと同じようにしてたとエイミーは令嬢メイド達に同情する。
だからこそ余計に、僕のお嫁さんの一人だっていう今の幸せをかみしめられるのだろう。生れたままの姿になってベッドの上で僕を迎え待つ笑顔は、本当に幸せそうだった―――とても可愛くてたまらない。
僕はベッドに飛び込むと、布団をかぶる時間も勿体なくって、すぐさまエイミーを愛し始めた。
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