第83話 大小令嬢を訪問します
「ようこそお越しくださいました、殿下。どうぞごゆるりとお寛ぎくださいませ」
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「はい、つつがなく……もちろん無理などしてはおりません、ご安心を」
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「殿下っ殿下ぁっ、大好きっぃ!!」
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―――最近、シャーロットと会うためにファンシア家に週イチ通いするのが定着してる。
それを僕に強く薦めてきたのは、何故かヘカチェリーナだった。
「どーだった、殿下? シャロちゃん、ますますイイ女になってた?」
「え、ええまぁ……しかし、ヘカチェリーナはいつの間に彼女とそんなに仲良くなったんです??」
「最初に会った時。そこはホラ、令嬢同士で話が弾んだってゆーね?」
一泊してからお城へと戻る馬車の中、僕はどうにも腑に落ちない。
ヘカチェリーナは僕を、何か意図的にシャーロットへとけしかけてるように思えてならない。
「………ヘカチェリーナ、僕に何か隠したりしてませんか?」
「ふへっ!? 隠すって、アタシが殿下に何か隠すよーな事ってある?」
怪しい。
僕がじーっと見つめると、ヘカチェリーナは明らかに視線を逸らして素知らぬふりをし始めた。
その仕草は、それはそれで何だかわざとらしい。
「(このコは無意味なウソや冗談をする愉快犯タイプなとこあるし、やっぱり掴みづらいなあ……)」
自分が面白い、楽しいために相手をからかう行動や言葉を使う。そこに意味なんてない。
今回もそれっぽい感じだ。何か特別隠しているというよりも、僕がシャーロットと一晩明かすのを面白がってるような雰囲気。
「……まぁ女の子同士の友情、ということで
疑いは晴れたわけではありませんよ、と強く滲ませながら僕は引き下がった。
「そーそー。シャロちゃんには幸せになって欲しーしさ、友達として♪」
バツが悪そうだったのにコロッと豹変。調子のいい態度で足を組んで、あっけらかんと笑いだす――――――僕が王弟だってこと忘れてないですかね、ヘカチェリーナさん??
「(まあ、恭しくされ続けるのも気疲れするから、気楽といえば気楽なんだけど)」
とても王族の世話役メイドとして馬車に同乗しているとは思えない彼女の態度に、僕は呆れるように苦笑した。
――――――王都、防壁内側にある軍邸宅。
ここは防衛圏設定と拠点新設の一環で築かれた住宅地の一角で、貴族邸宅ほどではないけど、軍事的観点での工夫が凝らされた、軍人が常住まいするための住居だ。
暮らしているのは身分の高い軍人で、今回訪れた軍邸宅には……
「殿下、ようこそおいでくださいました」
王都防衛圏の指揮官、セレナーク=フィン=ヒルデルト准将ことセレナが滞在していた。
「お出迎えご苦労様です、准将」
セレナと一緒に他の兵士さん達が列を作って歓迎してくれているので、僕も王弟として振る舞う。
シャーロットを訪ねた翌朝、一度王城に戻って小一時間アイリーン達と歓談した後、改めてのお出かけ。
さすがにちょっと忙しい。
僕個人の理由でファンシア家を訪ねた昨日とは違って、今回は王室代表としての現場の表敬訪問―――つまり、王弟としての公務だ。
「軍邸宅とはいえ、邸宅内の造りはしっかりとしたものですね」
「はい。ですが随所に仕掛けがございます。普通の住居のように見えるかと思いますが、下手に壁などお触れにならないようご注意ください」
僕達の前と後ろに1人づつ配置されてる案内役の兵士さん達―――特に後ろの兵士さんは、僕達の一挙手一投足を監視しているような感じだ。ヘンなところを触れて、その仕掛けとやらが作動しないように見張ってくれている。
それに前を歩く兵士さんも、廊下の真ん中を歩いていたかと思えば……
「殿下、ここからは少し左に御寄りください」
「わかりました」
「殿下、絨毯のあの模様のあるところは決してお踏みにならないでください」
「……なるほど」
「殿下、あの彫像の前には決して行かれないようにお願い致します」
「ふむふむ……」
随所で注意が入る。
どうやら廊下一つとっても、色んなところにトラップが仕掛けられてるみたいだ。
「(忍者屋敷とか、近未来の基地とか……想像するとワクワクしちゃうなー)」
さすがにそこまでハイレベルな仕掛けはないだろうけど、どんな仕掛けなのか気になる。
あと、それらがどんなギミックで動くのかも興味あるけど、それはやっぱり男の子の性なのだろうか?
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「貴女とは先の戦場以来ですね。あの時は援軍、誠に助かりました……あらためて感謝します」
「いえいえ、殿下に言われた通りにしただけですので、
セレナからの礼を受けて、軽めに猫かぶりしてるヘカチェリーナは短いスカートを軽く摘まみ上げながら返礼する。
警備で応接室に詰めてる兵士さん達は少しだけ顔を赤らめながら、下着が見えそうになってる彼女から意識的に視線を逸らしていた。
「あの時、王都には援軍を出す余裕が
僕は、自慢の侍女ですと言うかのような口上を述べる。さすがのヘカチェリーナも恥ずかしくなってきたのか、顔がほんのり赤い。
「ところでヒルデルト准将。此度は准将にも改めて、かの魔物の軍団の
「! ……ハッ、かしこまりました殿下。何なりとお聞きください」
僕の言い回しから、ソレが陛下―――
少し楽な雰囲気だったのが、一気に軍人のソレに変わる。
応接室の壁際に控えてた兵士さん達もセレナが発する上官の気概に、弛緩してた気持ちがギュッと引き締められたらしい。表情に緊張感が表れた。
「(ふう、お仕事のお時間かな。シャーロットを訪ねるようにはいかないなぁ)」
セレナも貴族令嬢といえばそうなんだけど、シャーロットと違って軍籍の人間。
お茶を交えてお気楽な歓談の時間を設けるのですら、簡単じゃない。
「(でも、軍権を持ったまま僕に嫁ぐ道が1歩前前進したんだ。次のことも考えたら、ここで緩んでちゃいけないよね)」
これからアイリーンのお腹も段々大きくなってくる。
そうなったら僕も軽々しく動き回れなくなってくるだろうし―――そうなるまでのあと数か月、ここが頑張り時だ。
僕は頭の中でだけ、イメージで自分の頬を叩いて気持ちを引き締めなおした。
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