第82話 流言飛語を警戒します
クララとの婚約が決まった以上、直近の僕が悩む問題はセレナとどう結婚するかの1本に絞られた。
「(今のところ……うーん、6:4で悪くない、って感じかな……)」
王室に嫁入りする女性が軍権を有する―――前はそれに反対する声がすごく多かった。
軍部だけじゃなく、貴族の間にもそれなりにNOって人は大勢いたんだけど、あの魔物の軍団との戦い以降は一転、むしろ僕の望む方向に流れが変わってきてる。
そうなってる理由は、国境に張り付いてる主力を率いるゴーフル中将の無視の件だ。アレでゴーフル中将の発言力が低下した。
彼が声を荒げても冷めた目で見る貴族や軍のお偉いさんが多くなった。
「(反対筆頭だったゴーフル中将の影響力が低下したのはすごく大きかった。それに……)」
理由はもう一つ。それは貴族達が臆病だったこと、
「(数十キロの距離は、確かに魔物の進軍速度を考えると半日かからないで到達できる距離だった。でもそこまで怖がってたなんて……)」
あの時、僕達に援軍を出し渋ってまで王都の護りを堅持させたがったのは、本当に純粋に保身からだったわけだ。
(※「第67話 味方が減って敵が増えます」参照)
そんな、魔物の脅威をあらためて身近に感じた臆病なお貴族様達は考えた。王都にいる自分達がより安全であるためには? ―――その答えが、王都に常駐する軍事力の強化。
実際、戦力の再配置もその辺りの意志が反映されて、王都近郊で戦える兵士さんの数が今までより増員されてる。
しかもその王都圏防衛の指揮官に選ばれたのはセレナだ。
(※「第76話 戦力の再編です」参照)
貴族の保身と、セレナに軍権を持たせたまま王弟妃に迎えるっていう王室の思惑がこの流れを生んでいた。
・
・
・
「―――なるほどですわ、そのようなことになっていらっしゃいましたのね」
婚約者になったことでこれまで以上に頻繁に王城を出入りするようになったクララは、とっても頼もしかった。
特に貴族達や社交界に関する相談ごとは、僕のお嫁さん&お嫁さん候補の中でも飛びぬけてる。
「ええ、皮肉なことですが、万を数える魔物の軍団が国内に……それも王都に比較的近い場所に出現したことで、保身を第一とする貴族の方々の考えは以前から大きく変わったようです」
クララは、僕のハーレム計画についても前々から嫉妬心を見せることはない。
むしろアイリーンやエイミーには難しい分野で僕を助け支えられる妃になれると、優越感すら感じてるフシがある。
なので僕の相談もよく聞いて、すごく真剣に意見を述べてくれるので話やすい。
「ヒルデルト准将閣下のお人柄につきましては小耳に挟んでおりますし、その点につきましては誰かより疎まれるようなことはないでしょう。ですがやはり女性の将官位にあらせられるということもございますから……」
「よくないウワサを立てている方々がいる、と」
クララはコクリと頷いた。
以前から 女の分際でー と考えてる軍のお偉いさんは少なくない。ゴーフル中将はその筆頭だっただけで、セレナを疎ましく思っている軍人や貴族は他にもたくさんいる。
彼らはある事ないこと言いまわって、セレナの評判を下げることに前々から躍起だ。
「あ、それって聞いた事あるかもです。ですが明らかに嘘なお話が多かったと思うのですが??」
エイミーが、あんなウワサを流して意味があるでしょうかと小首をかしげる。まだメイドだった頃から、メイド達の間でそういったウワサ話もちょくちょく耳にしてたみたいだ。
「エイミー様、このテの
さすがに真面目な話をしている時のクララは、エイミーにデレることなくピシッとしたままだ。すごく頼もしい。
「?? 内容の問題じゃない、ですか……じゃあウワサを流すこと自体に意味が?」
「ええ。アイリーン様の言う通りですわ。どんなにお馬鹿なウワサであっても、誰かを
気に入らない “ アイツ ” の悪い噂を流す。
その噂の中身がどんなにバカバカしくっても、明らかにウソな内容だったとしても、同じように “ アイツ ” が気に入らない人間はその噂を拡散する。何ならさらに信ぴょう性のありそうな事を付け加えて。
べつに " アイツ " のことを何とも思っていない人達は、そんな根も葉もないウワサはいちいち気にかけない。
けど、そのウワサが大きく広がれば、無視しきれるものじゃなくなってきたりもする。
「……元からセレナのことを気に入らない人達の間で回されて、拡散されたウワサに感化され、何となくでも流されてしまう人が出てきます。そうして人々の間に蔓延していってさらにいエスカレートしていく……そういう現象は実際に起こるんですよ」
本人がいるからあえて具体的には言わなかったけど、その最たる例を僕は知っている。幼い日のエイミーに起こった悲劇だ。
当時ルクートヴァーリングを治めていたエイミーの父は、他の貴族が広めたその根も葉もない
……世の中は冷静でかしこい人間ばかりじゃない。むしろ簡単に流されてしまう人の方がずっと多い。
意外とみんな、自分で物事を考えているようで考えてない―――発言力ある人物がモノ言うだけで、そうだ、そのとおりだー、ってなりやすい。
なんでかっていうと、自分で調べたり考えたりするのが面倒くさいから。
誰かが発した言葉に同調したり否定したりする方が遥かに楽。
だから人間はみんな、自分で思考しているつもりでいて、実際はいうほどしてはいない。
なので、どんなに根も葉もないウワサでもソレに流される人は必ず出てくる。
僕はこれまでも、そんな作為的なウワサが流れようとも、現実の功績という事実でもって対抗できるように、セレナには小さくても手柄を積み重ねてもらおうと考え、
現実に将官として勲功をあげてる事実がある限り、そうしたウワサに潰される事はないはずだ。
「(けど安心はできない……だからこそ、その点に関してはクララの助力が絶対に必要になる)」
ヘカチェリーナも貴族社会への対応力は高い。だけど地方貴族の令嬢だった彼女には、この王都での実権やコネクション、知識が圧倒的に足りない。
アイリーンやエイミーは論外だし、シャーロットも令嬢教育の真っただ中でそんな力はまったくない。
家柄でいえば、セレナ自身はクララ以上のものを持ってる可能性はあるけど、普段は軍人として任地に張り付いてる彼女には、自身への悪意に対応する暇がない。
僕のお嫁さん&お嫁さん候補たちの中で、政治的な部分を一番期待できるのは他でもない、クララなんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます