第07話 軍隊を視察です
――――――王国軍、首都防衛基地。
「王弟殿下に……敬礼!!」
ザッ!!
僕が門をくぐると、道の左右に並んでいる兵士さん達が一斉に敬礼をした。すごく綺麗でタイミングもバッチリだ。
「(一糸乱れないってこういう事だよね)」
訓練はキチンとしている。
少なくとも並んでいる兵士さんの中に、心身に隙ありそうな人はいない。
今日の僕は兄上様の
・
・
・
『軍隊の視察…ですか?』
『ああ、もうすぐ11歳…そろそろそういうところも見ておくとよいだろう。本当はこの兄が行きたいところなんだけど――――』
『ゴホンッ、…兄上』
『ああ、分かっているよ。…王位についてからは、あまり軽々しくお城を離れるわけにはいかなくってね。僕の代わりを務めてはくれないかい?』
・
・
・
「(優しい言い方だったけれど、やっぱり僕の将来のため、だよね)」
以前の魔物退治の見学をきっかけに、兄上様達は本格的に僕を将来の将軍職へとつけるための根回しを始めたんだと思う。
もともと宰相を勤める兄上様は、心を鬼にして早いうちからそういう方向に僕を誘うべきだと言っていたみたいだし、王様である兄上様は、いままではそれを先延ばしにしててくれたっぽい。
謁見の間での二人の雰囲気から、僕はそう推測した。
「(今日の視察も、軍の人たちに僕の存在を認識させるためだよね、絶対)」
いくら僕が王弟だからって、明らかに大袈裟なお出迎え。きっと兄上様達がここの人たちに前もって命令していたに違いない。
ここは王都から一番近い、守りの
「(うん、本当にお城みたい)」
僕が連れていかれたところは、謁見の間そのもの。もちろんお城の謁見の間よりも少し狭くて、飾りや部屋の造りも劣っている。
「では殿下、どうぞお椅子へお座りください」
一番偉い人が座る椅子に、僕は腰かけられる。もちろん身分は一番偉いから間違っていない。けれど、雰囲気は明らかに基地の兵士さんや将軍さんに対する僕のお披露目会っぽかった。
結局、僕は3時間も椅子に座りっぱなしで、基地で働いているすべての人の挨拶を受けさせられた。
「うー……疲れたよー……」
用意されていた部屋のベッドに身を投げ出して、右へ左へ転がる。
今日はアイリーンは傍にいない。いつもの僕専用の獣人のメイドのコは伴っているけれど、やっぱりアイリーンがいないとちょっと不安な気持ちになる。
「うーん…公務だからお嫁さんは連れて行けないなんて、思いもしなかった…」
アイリーンは現役の戦士だし、お城で練兵師の仕事も勤めている。この基地にだって、僕のお嫁さんに鍛えられた兵士さんは結構いるはずだ。
けれど、アイリーンはあくまでも僕のお嫁さん――――――
「(困ったなー、公務の時も一緒にいられないってなると、僕を守るための戦う力のあるヒトをお嫁さんにする計画、考え直さなくっちゃいけないぞ??)」
改めて考えてみると今、自由にどこにでも連れて歩けるのは、僕の身の回りのお世話役のメイドさん、ただ一人だけになる。
そのメイドさんにしたって、他のメイドさん達に混ざった上でがほとんど。僕個人的に自由にできるヒトは、まだ一人もいない。
「(アイリーンをお嫁さんにしてからもう2年でまだこんな状態じゃ、間に合わないぞ、ううーん…)」
時間がない。
あと5年もすれば、きっと軍関係の役職を与えられるようになる。歳の離れた弟だからこそ、兄上達も可愛がってはくれるけれど、僕が大きくなってきたらやっぱり王族って立場上、可愛がるばかりではいられなくなる。
「(不可避なら、その時までに固めておけばいいと思ったけれど、まだまだ全然じゃないかー!)」
怖い、正直。
前世の僕は、先行き暗くても平和な国に生きていた。
だから、戦いとか本当は凄く怖いんだ。
生まれ変わる時、ぼんやりと覚えている神様(?)とのやり取り――――平穏で無事に暮らしたいって僕はお願いした気がする。
「(だから僕は、こんな愛されやすいショタっ子な感じで、しかも王子様に生まれたんだ……たぶん)」
だって兄上達の幼少の頃の写真は、もっとキリッとした感じの少年だったし。
でも同時に、さすがの神様も人一人の望みを完璧に叶えるなんてコト出来ないんだろうなと理解していた。世の中は複雑に色々絡み合って出来てるから、何か便宜を図ろうとするだけですごく調整とか大変な事になるって想像できるもの。
「(……。うん、神様に “ 話が違うじゃないかー! ” なんて言えない。後は僕自身が頑張らなくっちゃだよね)」
人事を尽くして天命を待つ。
ふと思い出した言葉。
やれるだけをやりきろうと自分に言い聞かせていたら、僕はいつの間にか眠りに落ちていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます