第48話 南下
レオンハルトが放った魔術が王城の一部へ墜落し、粉々に粉砕していく。
王城にあった財宝や、武器はこれで粉微塵だろう。
その風景を背後に、小高い丘の上まで走る。
「土よ──!崩れ落ちよ!」
走りながら、残った魔力を全力で注ぎ込み、王城の立つ丘を崩す。
「──っ」
腕に痛みが走る。無理し過ぎたかもしれない。
丘から王城がゆっくり、滑り落ちるように崩れていくのが見えた。
「おぉー、ありゃ、あの城もお終いかの」
「あれほどの、けんのうを、たてつづけに……」
毛玉が私を見る。
「大丈夫です」
「……まあ、直ぐには治らないか」
獣は呆れたような目をする。
「……反省します……でもこの一撃は必要でした」
先ずは、一撃。これは鏑矢だ。
どの程度打撃を与えられるのかは、分からない。
でも、アリアを信じる者達は、城の崩壊に恐れおののくだろう。
「城を一つ壊した程度じゃあ、この国は滅びませんし、アリアもレオンハルトも死なないでしょう」
「…追手を遅らせるためか」
アトラは説明するまでもなく納得した。
「話が早くて助かります。今しなければならないのは、準備です……このままでは、あの二人には敵わない。必要なのは、時間と戦力……そして切り札です」
「ならば、我らはどこへ行く?心当たりはあるのか?」
「……先ずは、"黒い森"に行きます。全てが始まった、あの場所へ」
◆◆◆◆◆◆◆◆
私達は闇夜の中、街道を南下し続けた。相変わらず空は薄暗い雲に覆われ、日の光が差すことはなく、陰鬱な寒気が満ちているのは、どこもの街も変わりなかった。
しかし、私がいた修道院への中間地点に当たるマイム川を跨いだ街、ユルツブルグに差し掛かった時、風景は一変した。
暗闇の中に煌々と灯る明かり。
その元で酒宴に興じる人々。
その多くが、その身に変異を起こしていた。
「これは……一体……」
物陰に隠れ、顔を出して辺りの様子を伺う私達。
「まつりだ……さけだ……にくもあるぞ……!」
興奮を隠しきれない毛玉。
「……罠ではないかの?余ならそーする。こんな冥界みたいな国で何かめでたい事なぞ……」
アトラは出て行こうとする毛玉を抱きかかえ、冷静に辺りを見ようとする……が。
「タナク教の連中が、二束三文で宝石を売り払ってるぞー!急げぇ!」
「……同盟者よ、ちと、寄ってみたい場所があるのだが」
呼び込みにつられ、フラフラと出て行きそうになるアトラ。
「……この間、金銀財宝に価値ないって言ったばかりじゃない……」
「……アレは帝国のくだらん財宝!タナク教とやらの連中の物は違うかもしれぬ!確かめもせずに断言するのは軽率な判断であろう!ど、どうだ、反論できまい!」
一瞬ハッとしたアトラだったが、引っ込みがつかなくなったのか、言い訳を続ける。
「……我ら獣は自身の欲望には、中々抗えないのだ。多少は仕方ないだろう」
獣が私にそう説明する。
「そうなんですか……その割には……獣さんが、何かの欲望に負けてる姿を見たことありませんが……」
「俺は強靭な精神で──」
「なにを、いっている?」
「そんなわけ無かろう」
顔を見合わせる毛玉とアトラ。
「こやつは、うそをついた」
「この獣は殆ど常に自身の欲望に負けておるぞ!その名も保護──」
「な、何を言う!」
慌ててアトラの口を塞ぐ獣。
保護欲……?親でもないのに……?
「われらのねんれいからすれば、こむすめは、あかごどうぜん……なにもおかしいことではないぞ……しょうじきに、なれ」
「くっ……何とでも言うがいい……!」
物凄く悔しそうな獣。
「……首都から少しは離れました。追手の影もありません。この街の人達は変異が進んでいるらしいですし……騒ぎにならない程度に……」
「……よし!ゆくぞ!」
「こら待つのだ毛玉!お前は誤魔化しようがないだろう!どう見ても獣だ!死ぬぞ!」
飛び出しかけた毛玉を糸で捕縛し、回収するアトラ。
「なら、われを、かかえてゆけ。あとらが、かかえて、ぬいぐるみといいはれば、いい」
「……そう言う時には勤勉に頭を働かせるのだな……仕方あるまい。同盟者よ、余と毛玉は少し向こうを見てくる」
それだけ言うとあっという間に闇に消えていった。
「……行ってしまったな。どうする?」
「……私達も行きますか、鎧を着込んでいれば、貴方の事もバレないでしょうし。アトラさんは……ちょっと、どうか分かんないですけど……」
「無事な保証があるのだろう、アレはそう言うやつだろう?」
「じゃあ、心配しなくても大丈夫ですね」
久し振りに……お祭りに参加するなんて一体いつぶり……少しだけなら……ああ、私も獣さん達のことを言えるような、立場でもなさそうだ。
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