第47話 詐術

「レオンハルト……?貴方も獣だったのですか……?」


「これは、俺の罪であり、アルバ皇帝が背負うべき業。皮肉なものだな。金や権力ではなく、このような力に頼らざるを得ないのだから」


 自嘲する獅子。


「おしゃべりの時間はもう終わりですよぉ!さっさと殺してくれませんかねぇ!」


「ああ、終わらせよう……これが、俺から君に送る最後の"言葉"だ…《──黎明の子、明けの明星よ、天より落ちよ、地に倒れよ!》」


 玉座の天井が獅子の咆哮によって吹き飛び、暗い空から、燃え盛る巨大な岩塊が迫る。


「潰れろ偽物ぉぉぉ!!」


 アリアは叫ぶ。


「獣さん!あれに対抗できるような──」


「……"あれ"は俺の技の完成形。どれほどの《制約》を自身に掛けているかもわからない。……一度引くべきかもしれない」


「私のクライマックスシーンから逃げようってのかぁぁ?んなの許すわけねぇだろぉ!《火よ走れ!》」


 アリアの魔術が玉座の間を火で包む。


「これで退路はねぇ!足掻けよぉ!無様に踊ってみせろぉ!ひ、ひひ、アハハハ!!」


 視界には炎、図上に迫るは大質量。


「……さて、どうする?俺には手はない。お前には何かあるか?」


「……これは困りました……もうお手上げです、もうやるべきことは一つしかありません」


「き、ひひ、そうだ!お前にできるのはただ一つ、絶望だ!諦めろ!降参しろ!お前の苦しむ顔だけが私の──」


「……なんてね──土よ!」


 ツァト様は言っていた。


"もう一緒でなくとも、我の詠唱でなくても土の権能を使う事ができる──と"



◆◆◆◆◆◆◆◆



「今更何をしても──はぁ!?」


 衝撃と共に、玉座の間の床が崩れ始める。


「獣さん!ツァト様!跳んでください!」


「承知!」


「わかった!」


 今の私は、契約があろうと無かろうと、土の権能は行使できる!

 

「な、城は魔術抵抗を高めていた筈だ──」


 崩れていく床の上で跳ねる獅子。


「"こんなこともあろうかと"用意しておいたんですよ、土の権能で操作できる物をね!」


 床を突き破り、数えきれない程の武器達が間欠泉のように噴き出し、降り注ぐ。


 後から続く武器の中には、煌びやかな金銀財宝も含まれている。

 

 土の権能で、金属や宝石の類も操れるのは、火打ち石や鎧の生成でわかっていた。


「魔術で直接干渉できなくても、破壊自体はできるのでしょう?今、そっちのレオンハルトが見せてくれたばかりですからね!」


 まあ、本命は武器じゃなくて、権能による地盤の破壊だけれど、そこまで教えてやる道理はない。


「どこでこんな量を……!」


「そんなもの、この王城にあったものに決まってるじゃあ、ないですか。ねぇ──アトラさん?」


「おいアトラぁ!!てめぇ命令に従って連れてきたんじゃねぇのか!?」


 壁に張り付いてこちらを静観していたアトラを睨みつけるアリア。


「命令には逆らっておらぬぞ?"命令通り"に、ここまで、こやつを連れてきた。"道中で"余が何をしようが勝手であろう?」


 トボけて笑うアトラ。


「彼女は宝物庫の鍵まで手に入れてくれましたからね。今ここに噴き出してるのは、この帝国の財です。さて、聞きましょうアトラさん!アリアは、この国の財を半分と言いましたが、私は全て差し上げます!どうでしょうか!」


「それは魅力的だの、では聞こう!"小娘"よ!この財は《お前にとって価値のあるものか?》」


「いいえ!全く!差し上げしまって構いません!」


「──ならばいらぬ!価値の無いものを全部だろうが半分だろうが貰っても意味はない!」


 アトラの臍に描かれた呪印は光り、砕けるように消えた。


「私以外が《契約破棄》を!?」


「掴め!"同盟者"よ!」


 蜘蛛の糸がこちらへ伸びる。


「はいっ!」


 狼の背から飛び移って掴む。


「クソ!クソクソクソ!クソッタレェェェ!逃げるんじゃねぇぇ!おいてけェェ!てめぇの命をぉぉぉぉぉ!!どうせ直ぐに終わりが来るんだからよぉぉぉ!!」


 アリアと獅子は下へ落ちていった。


「よっと」


 私に続いて、元の大きさに戻った獣も糸に捕まる。


「われをわすれるな」


 毛玉が私の頭の上に降り立つ。


「これで……全員無事ですね。一旦引きましょう」


「……怒っておらぬのか?」


 アトラはらしくもなく、そんな事を聞いてくる。


「……怒ってますし、絶望もしました。でも貴女は私の味方でしょう?じゃなかったら、わざわざ私がここに来ることを止めようとなんて、しないでしょう?」


「……そ、そうか…そうかぁ……これはしまったな……はは……」


 アトラは目を泳がせた。

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